HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
THE DAM KEEPER
ピクサーを飛び出した堤大介さんが信頼する仲間とつくった映画
──
素人的な質問ですみませんが
『ダム・キーパー』の画面の雰囲気って
まるで絵本みたいですけど、
これって、何か特徴があるんですか?
ふつうのアニメーションというのは
「線画」ですよね。
──
線画?
つまり、線で描いた内側の「白い部分」を
着色していくんですけど
ぼくらは、そうやって描いてないんです。

1枚1枚「イラストの作品」を描くように
1コマ1コマを描いてるんです。
──
つまり、アニメーションというのは
ただでさえ「手間ひま」がかかるのに、
それよりさらに
手間ひま・時間がかかっている‥‥と?
ロバート
ええ、だいぶかかってます(笑)。
──
たしかに画面の雰囲気が、
あんまり見ない感じだなと思いました。

人間の「手の存在」を感じる作品世界、
絵のタッチと言いますか。
ただやはり、最終的には
伝えるものは「ストーリー」ですから、
「キャラクターに
 感情移入することができるかどうか」
という根本的な部分は、
アニメーションであろうと、実写であろうと
人形劇であろうと、
変わらないと思っているんですけどね。
──
でも、あの絵のタッチは
『ダム・キーパー』というストーリーに
なくてはならい要素だと思いました。

あの雰囲気のおかげで
作品全体にあたたかみを感じますし、
余韻もよけいに残ったと思うし、
逆に「恐怖」とかも
いっそう増幅されたような気がして。
ロバート
絵の雰囲気や技術ひとつとっても
伝えられるものって変わってきますから
アニメーションの可能性って
まだまだ、追求できると思っています。
──
それは、トンコハウスさんにとっては
アニメーションでやりたいことが
まだまだいっぱいあるって意味ですか。
ええ、それはもちろん、ありますね。

それは、
ぼくたちだけではないと思いますけど
ただやはり、
アニメーションって時間とお金がかかるんです。
──
はい。
ピクサーのように大きなところ以外、
長編をつくることが
そもそも難しかったりするのですが、
短い作品をつくっても
こんどは「発表する場所がない」という
ジレンマを抱え込むんです。
──
ようするに、
商業的な「場」が、ほぼない、と。
そう。ふつうの映画館では
短いだけで、上映しづらいですから。
──
でもそれ、すごくもったいないです。
ですから、
ぼくらがなんとかがんばって
いい作品をつくって、
それをたくさんの人に観てもらうことで、
今の状況が
少しでも変わる助けになればいいなぁと。
──
ひとつ、短編の特徴って、
どういうところにあると思われますか?
ロバート
簡単に言えば、
小説と詩のちがいみたいなことかなと
思っています。

観客に伝えるメッセージは同じでも
長編と短編では、
つまり
小説と詩では伝え方がちがいますね。
──
ええ。
ロバート
でも、伝え方は違っても、
短編に
長編と同じメッセージを込めることは
ぼくは可能だと思っています。

そして、短いフォーマットだからこそ、
いろんなことを合理的に、
経済的に組み立て行く必要がありますが
その形式自体に
ショートフィルム独特のおもしろみが
加わるのではないかな、と。
──
堤さんは、どう思われますか?
短編っておもしろいんですよって
言葉で説得するのは難しいと思いますが、
たとえば、
フレデリック・バックという
アニメーション作家の作品を見てほしいです。

とくに、アカデミー賞を獲った短編、
『木を植えた男』を、ぜひ。
──
堤さんの尊敬するアーティストですよね。
ストーリー、絵‥‥すべてが素晴らしい。

あの作品を観れば
短編の可能性を感じてもらえると思うし、
短編か長編かなんて関係なく、
きっと、
心に残る作品になると思いますので。
──
もう2年以上も前になると思うんですが、
『ダム・キーパー』を
はじめて見せていただいたとき、
すごくいい作品だなあって思ったんです。
ありがとうございます。
──
でも、そのとき堤さんは
「これは、はじめてつくった作品で、
 納得できるレベルじゃない。
 見れば見るほど
 次々に不満が出てくるんだけど
 作品制作を通して
 勉強になったことがたくさんあるし、
 ぼくらにとっては
 リリースすることが重要だと思った」
みたいなことを
おっしゃっていたんですね。
ああ、そうかもしれない。
──
あのころは、数年後に
アカデミー賞にノミネートされるなんて
思ってもいなかったと思うんですが
「納得できてない」気持ちって
いまでも変わってはいないんでしょうか。

他人の目やメディアの評価が
これだけガラリと変わった、いまでも。
うーん、それは、変わらないですね。

もちろん『ダム・キーパー』が
ダメな作品だとは
ぜんぜん思っていないんですけれども、
自分たちが目指す場所を考えたら
あの作品は
やっぱり「スタート地点」なんですよ。
──
なるほど。
ロバート
やっぱり、次やる作品は
絶対に『ダム・キーパー』よりよいものに
したいんです。
──
あらためて、アニメーションというものは
おふたりにとって、どんなもの、ですか?
ロバート
まず、映画やアニメーションというものにたいして
とても尊敬の念を持っています。

いろんなところから集まってきた人々が、
暗い劇場でともに時間を過ごし、
それまで、
それぞれみんな違うことを考えていても、
一本の作品を観終えたあとは
なんとなく
似たような思いを抱いて劇場を出ていく。
──
はい。
ロバート
いま、自分たちが関わっているものは
そういうパワーを持った
素晴らしいものなんだと思っています。
やっぱり、
自分自身に嘘をついて作品をつくることは
できないと思うんです。

ですから、ぼくは、観てくれる人と
シェアしたい気持ちがあったとしたら、
それは、
作品に入るべきだと思っているんです。
──
なるほど。
映画って、ぼくたち自身だと思うので。

とくにアニメーションの場合は
1本1本、本当に手間ひまがかかるので、
「精魂」というかな、
1コマ1コマに
そういうものを入れ込んでいかないと
あっという間に
「人生が終わっちゃう」んですよ。
──
そうか、時間がかかるだけに
「生きてるうちに、がんばってあと何本」
みたいなことが
なんとなーく計算できるってことですね。
そう、そうなんです。

だからこそ、さっきロバートも言ったように
映画館を出たとき、
お客さんが、
少しでも、何かを考えてくれたら、うれしい。
──
はい。
そういう意味で
『ダム・キーパー』は18分の作品ですけど
18分以上、お客さんと時間を共有できたら、
幸せだなあと思っています。
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