HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
THE DAM KEEPER
ピクサーを飛び出した堤大介さんが信頼する仲間とつくった映画
ことし2月のアメリカ・アカデミー賞に
ひとりの日本人が監督をつとめた
短編アニメーションがノミネートされ、
大きなニュースとなりました。
作品のタイトルは、『ダム・キーパー』。
世界的な映像制作会社ピクサーで
ながくアートディレクターを務めていた
堤大介さんが、ピクサーを飛び出し、
信頼する仲間と
七転八倒しながら完成させた作品です。
(堤さんについては
 スケッチトラベルというプロジェクトで
 ご存じの方も多いでしょう)
堤さんとは、以前からご縁があったので
処女作『ダム・キーパー』のこと、
ピクサーの同僚、
ロバート・コンドウさんと立ち上げた
スタジオ「トンコハウス」のこと、
そして「オスカー狂騒曲」のこと‥‥。
まだ春だった日、来日した
堤さんとロバートさんに、聞きました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
堤大介

東京都出身。School of Visual Arts卒業。
Lucas Learning、Blue Sky Studioなどで
『アイスエイジ』や
『ロボッツ』などのコンセプトアートを担当。
2007年、ピクサー入社。アートディレクターとして
『TOY STORY3』や
『モンスターズ・ユニバーシティ』などを手がけている。
2014年7月、ピクサーを去り、トンコハウスを設立。
71人のアーティストが
一冊のスケッチブックに絵を描いて
世界中に回すというプロジェクト、
『スケッチトラベル』の発案者でもある。


ロバート・コンドウ

南カリフォルニア出身。
アートセンター・カレッジ・オブ・デザインを卒業。
ピクサー在籍時には、
美術監督として『レミーのおいしいレストラン』
『トイ・ストーリー3』
『モンスターズ・ユニバーシティ』を手がける。
2014年7月、ピクサーを去り、
堤大介とともにトンコハウスを設立した。
とじる
2015年10月15日(木) vol.1 18分の短編映画。
2015年10月16日(金) vol.2 オスカー狂騒曲。
2015年10月19日(月) vol.3 トン子ハウスのこと
2015年10月20日(火) vol.4 18分以上の時間を共有したい。
──
今回のインタビューにあたって
あらためて
『ダム・キーパー』を見返したんですけど、
やはり、グッと来ました。
あ、ありがとうございます。
──
たった18分の短編作品ですが、
見終わったあとの余韻が、じんわり続いて。
ロバート
その感想は、うれしいです。

18分の短編だけど、
短編だからこそ心に残るような作品に
なったらいいなと思っていたので。
──
ですので、今日は
何よりまず『ダム・キーパー』のお話から
おうかがいしたいと思います。
はい、よろしくお願いします。
──
堤さんと、ロバート・コンドウさん。

おふたりは、ともにピクサーで
アートディレクターをされていたわけですが
今回は、ストーリーも自分たちで。
ええ、それが‥‥大変だったんですよ(笑)。
ぼくら絵描きなんで、ふたりとも。
──
そうですよね。
ロバート
最終的に
『ダム・キーパー』の話にたどり着くまで
4本くらい
脚本を書いてみたんですけど、全部ダメで。
──
お話を書くのは、はじめて‥‥ですか。
はい。とにかく、ふたりで、
ジタバタもがきながら完成させました。
──
アニメーションの制作現場って
とかく「分業」というイメージですが‥‥。
でも、こと「ストーリー」に関しては
ここの部分はぼくで、
ここの部分はロバート‥‥みたいなことは
やりませんでした。

というか、できませんでしたね。
──
ではもう、とにかく、ふたりで、
組んずほぐれつ、みたいな。
ロバート
実際のアニメーションの制作に入ってからは
もちろん
おたがいに任せられる部分は任せて
進めていくんですけど、
話に関しては、グチャグチャになりながら、
ときには
ケンカしながらつくった感じです。
──
やはり「物語」というのは
はじめに、あるていど固めておかないと
動き出せないもの、ですか?
少なくとも、ぼくらの場合はそうでした。

絵だったら、描きながら
いろんな方向へ膨らませていくことも
できるんですけどね。
──
そうなんですか。
ふたりでやるときの「弱点」って、
意思疎通がうまくいかないと
いろいろバラバラになっちゃうことだと
思うんですが、
ふたりでやるときの「強み」は、
どちらかが
かならず客観的な見方をしてくれること。

ストーリーに関しては、
客観性がなければ伝わらないので、
自分の「主観」が入ったなって部分には、
別のひとりが客観的な意見を言って
なるべく
バランスを取るように心がけました。
──
でも、本当によかったです、お話。

絵は当然いいんですけど、
ストーリーがよかったなあと思います。
ロバート
それは、本当にうれしいです。
1年くらいは、かかったから。
──
あ、そんなにですか。
まあ、1年と言っても、
『ダム・キーパー』を制作していたころは
まだふたりともピクサーにいて
『モンスターズ・ユニバーシティ』の
真っ最中だったんです。

だから「1年間ずっと」っていうわけでは
なかったんですけど。
──
では『モンスターズ・ユニバーシティ』と
『ダム・キーパー』を
同時平行でつくっていたんですか。はー‥‥。
ロバート
1年くらい、ウンウンうなりながら(笑)。
奥さんに見せてはヒンシュクを買い。
──
あ、メイちゃん‥‥さん。

※堤さんの奥さまは宮崎駿監督の姪っ子さんで、
 映画『となりのトトロ』の
 メイちゃんのモデルになった方なのです。
わりと自信があるぞってやつを見せても、
「うーん、どうかな」と(笑)。
──
そうやって、「他人の目」を借りながら
お話を練り上げていった、と。
結局、映画もコミュニケーションなんで、
客観性って、すごく重要なんです。

ぼくらふたりとも、
自分の意見にこだわっちゃう性格だから
誰かに
客観的な意見を言ってもらえないと
暴走してしまう危険性があって。
──
逆に譲らなかった部分は、ありますか。
他人の意見を容れなかった箇所。
ひとつには
ナレーションを入れるかどうかについて、
最後まで揉めたんですけど、
そこは、ぼくが、譲りませんでした。

ただ、譲らなかったんだけど
当然、ぼくひとりの映画じゃないですから
「ナレーションなし版」も
けっこう長い期間、存在はしていたんです。
──
なるほど。ロバートさんは
「他人の意見を聞く」ってことについては
どのように考えていますか?
ロバート
たとえば、誰かが
「このキャラクターの髪の色が気になる」
って言ったとしますよね。

その場合、その人は、たぶん、
「色」についてだけ指摘しているわけでは、
ないと思うんです。
──
と、言いますと。
ロバート
細かいディテールの部分、
つまり髪の色がおかしく見えるのは
視点をぐーっとうしろに引いて考えれば
全体的なバランスを欠いている。

ですから、人から指摘をもらったときは
「どこがおかしいんだろう?」
って、もっと広い範囲を見わたして
考えることが、重要だと思っていますね。
難しいのは、あくまで
「答えは
 自分たちで見つけなければならない」
ということなんです。

ようするに
「色がおかしい」と指摘されたとしても
「色を変えれば、それでオッケー」
には、かならずしも、ならないというか。
──
なるほど。
ある登場人物の服の色が気に入らない場合、
実際に色が問題なのか、
それとも、色が気になっちゃうほど
別のどこかに、何か大きな問題があるのか。

問題の本質を突き止めるってことを
ぼくらつくり手は、やらなきゃならない。
──
おもしろいです。

つまり、みんなの意見を聞いてさえいれば
いいものができるわけじゃない、と。
できないです、それだけじゃ。

まわりの人に「答え」を求めるんじゃなく、
まわりの人の意見をもとに
自分たちで
「答え」にたどり着く必要があるんです。
──
で、そうやって、ピクサーで
『モンスターズ・ユニバーシティ』の
アートディレクションをしながら
空いた時間や、週末を使ってつくったのが
アカデミー賞のノミネート作品、
18分の短編『ダム・キーパー』であると。
はい。
<つづきます>

※イベントは終了しました。
アカデミー賞ノミネート作品
『ダム・キーパー』を
TOBICHI2で上映しています。

ことし2月の米アカデミー賞
短編アニメーション部門にノミネートされた
『ダム・キーパー』を
TOBICHI2で上映しています。
アカデミー賞では
惜しくもオスカー受賞とはなりませんでしたが
18分だけど、いや18分なのに、観たあと、
じわーっと余韻が押し寄せる、本当にいい作品。
本当に「観てよかった」と思える映画ですし、
現時点で、どこでも公開されていない
「日本語字幕版」を観られるチャンスじたい
たいへん貴重ですので
ぜひ、みなさん、足をお運びくださいね。

「ダム・キーパー」上映会
期間:10月15日(木)~20日(火)の6日間
1日8回上映(上映時間:約18分)
会場:TOBICHI2
料金:100円(ご自宅の引き出しに眠っている1ドル札でもOK)

[上映スケジュール]

▼10月15日(木)
11時・12時・13時・14時・15時・16時・17時・18時

▼10月16日(金)
11時・12時・13時・14時・15時・16時・17時・18時

▼10月17日(土)
11時・15時・16時・17時・18時・19時

▼10月18日(日)
11時・15時・16時・17時・18時・19時

▼10月19日(月)
11時・12時・13時・14時・15時・16時・17時・18時

▼10月20日(火)
11時・12時・13時・14時・15時・16時・17時・18時

※午前10時30分から、TOBICHI2の1階にある
 『ダム・キーパー』グッズのショップ内でその日のチケットを販売いたします。
 観覧ご希望のかたは、ご希望の回のチケットを事前に入手してください。
※17日(土)はトークショーを、18日(日)はワークショップを開催するため
 12時・13時・14時の回がありません。そのかわり「19時の回」を設けます。
上映会の期間中、
『ダム・キーパー』のグッズショップが
TOBICHI2の1階にオープン!

ポストカードやマスキングテープなど
気軽にお求めになれるグッズから
映画のシーンのシルクスクリーン・プリントや
「ジークレー」と呼ばれる
アート作品レベルのクオリティを持つ
プリントなど、これまで
アメリカ国内でしか手に入らなかったグッズを
数量限定で販売いたします。
また、トートバッグ(2種類)は
今回の上映会のためにつくられた新作アイテム。
お買いものも、楽しんでくださいね。




入場の際、ご希望のかたには
より映画の余韻を楽しめるかもしれない
「おまじない」をかけます。

たった「18分」の『ダム・キーパー』は
じんわりした余韻が、長く続く作品。
もちろん、ふつうに観ても素晴らしいですが
ご希望のかたには、その余韻を
より楽しめるかもしれない「おまじない」を
かけさせていただきます。
いえいえ、お手間は取らせません。
ご入場いただくときに、
チョッとした、ピッとした、ほんの一瞬です。
観終えたあとは
「おまじないを解く道具」も
お渡しいたしますので、どうぞご安心を。
はい、そんなにたいそうなことではなく、
ささやかな「お遊び」ですが
よろしければぜひ、おつきあいください。
ちちんぷいぷい~。


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