小田 |
斉吉さんのお話を聞いていると
「家の料理」が
いかに大切かって、わかりますね。
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和枝 |
そうですか。
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小田 |
だって、お祖母さまがつくった料理が
和枝さんに引き継がれて
そのなかでも洗練された部分が
「金のさんま」でしょう。
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糸井 |
ある日、突然
「金のさんま」ができたわけじゃなく。
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小田 |
人のやらないことをやるんじゃなくて、
みんなできるんだけど
「あそこのは、ちょっとちがうよね」
と言われるクオリティなんだね。
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純夫 |
うちも「金のさんま」については
継ぎ足し継ぎ足しでやってきた「返しだれ」に
こだわってるんですが、
これが「さんまの缶詰」になると
どこも、ある程度のレベルがあるんです。 |
小田 |
つまり、ライバルが多いんだ。
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和枝 |
うちは、まだ缶詰はつくってはいませんが
常温で流通できるような商品を
開発していきたいと思っていますので‥‥。
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純夫 |
だから今日、いちばんはじめに
小田社長が
「家業でなく事業をやらなければ」と
言ってくださったこと、すごく納得しました。
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和枝 |
本当に。
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純夫 |
気仙沼というところは
北海道と同じで「産地」なんですよね。
だから、いい魚が水揚げされたら
氷詰めにして、ぜんぶ築地に出荷してしまう。
ようするに、鮮度のいいうちに出すのが
「いちばんいいこと」で
どうしても「加工は二の次」という感覚で
これまでやってきたんです。
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小田 |
やはり「生」に対する絶対的な価値観って
ありますからね。
「生」こそが「いいものだ」という。
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和枝 |
そうなんです。
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小田 |
でも、うまく「鮮度勝負」から「熟成勝負」に
転換していければ
徐々に「値段」が付けられるようになる。
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和枝 |
「私たち、こういう商品をつくっています」
と外に向かって言うことが、
丸っきり、できてなかったと思うんです。
この震災が起きるまでは。
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小田 |
そうですか。
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和枝 |
新鮮な原料を出荷することだけに、注目して。
水産加工品でも
自分たちで値段を付けられない「業務用」が、
商品の大半を占めていました。
震災後、物理的にも場所が狭くなったので、
これを機に、
個人向けの商品に転換していきたいんです。
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小田 |
たぶん、そういう時代になってきてますよね。
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和枝 |
はい、そう思います。
水産加工の世界で、「本物」を
お客さまに直接、お渡しできるような魚屋、
つまり、私たち、
「六花亭さんみたいな魚屋」に
なりたいんです。
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小田 |
いやいやいや、そう言ってくださるのは
うれしいですけれども‥‥。
「直接、お客さんへ」
「自分で値段を付けられる」
このふたつは
ものすごく大事なキーワードですものね。
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純夫 |
そうなんでしょうね。
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小田 |
あとは「売り上げをつくること」よりも
「喜んでもらえること」。
「いやあ、斉吉さんありがとう!」って、
そう言ってもらえることが、
本当に
大切にしなきゃならないことでしょう?
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和枝 |
はい、本当にそう思います。
私たち、震災後に
みなさんのお力添えのおかげで
心から、そう思えるような経験を山ほど
させていただいたんです。
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小田 |
そうでしたか。
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和枝 |
全国のかたに、
いろいろよくしていただくばかりでしたけど
まずは
「生きてるだけで、いいんだ!」
ということを
全国のみなさんと共有したいんです。
だから、気仙沼においでいただきたいし、
現状を見てもらいたいんです。
お返しになるかわからないけど、
そうすることが
私たちの役割なんじゃないかと思うほどです。
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小田 |
気仙沼の復興の糸口になるようなことって、
お金だとか、大きな工事だとか、
そういうことじゃあないと思うんです。
糸井さんみたいな「導火線」によって
「気仙沼へ行こうよ」だったり
「行けなくても
おいしいさんまを食べようよ」というね、
そういう「気持ち」を
起こすことなんじゃないかなと思いますね。
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小野寺 |
そういえば「気仙沼においでよ」って歌が
あるんですけど、ごぞんじですか?
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小田 |
いえ、知らないです。
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河野 |
糸井さんがつくったんです。
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小田 |
え、そうなんですか。
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糸井 |
いや、曲をつくったのは矢野顕子さんで
作詞を、僕とふたりでやりました。
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小田 |
矢野顕子さんには
去年、六花亭のコマーシャルソングを
つくってもらったんですよ。
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糸井 |
へぇ、そうなんですか。
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小田 |
「雪やこんこ」というお菓子が
あるんですけど
ニューヨークでレコーディングしてくださって
「雪やこんこ! 六花亭」
というやつなんですが‥‥そちらはタダで?
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糸井 |
ええ、はい(笑)。
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小野寺 |
すごくいい曲で、耳から離れないんですよ。
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小田 |
聴きたいなぁ。
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糸井 |
ぼくの iPhoneのなかに‥‥これです。
(「気仙沼においでよ」が流れる)
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小田 |
‥‥へぇ、いいですね。
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糸井 |
行きたくなるでしょ、気仙沼。
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小田 |
これは、いいです。
みんなに聴いてもらいたい曲だと思う。
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糸井 |
ほぼ日に来れば、
いつでも、自由に聞くことができます。
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小田 |
でも「気仙沼においでよ」って‥‥。
ちょうどいいフィーリングですね。
変に力んでないし、妙な深刻さがないし。
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糸井 |
ありがとうございます。
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小田 |
いや‥‥いい曲だ。
もういちど、聴かせてもらえせんか?
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糸井 |
どうぞどうぞ(笑)。
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小田 |
ありがとうございます。
でも、本当にメロディーがすばらしいね。
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糸井 |
小田社長、実はですね‥‥
この歌には「歌詞」があるんですよ!(笑)
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小田 |
ああ、じゃあ今度はメロディーよりも
歌詞中心に聴いてみます(笑)。
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糸井 |
そういう聴き方もありますね。
(「気仙沼においでよ」が、ふたたび流れ出す)
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小田 |
‥‥ああ、いいなぁ。いいね。
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糸井 |
気仙沼に、ぜひ。
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小田 |
はい。必ず、寄らせてもらいますから。
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後日、気仙沼を訪れた小田豊社長。
純夫さん・和枝さんと一緒に「気仙沼のほぼ日」にて。
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「気仙沼においでよ」
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<おわります> |