秀子さん |
わたしたちは「スタジオZERO」のデニムを
買っていただけるなら、
一生のうちに1本、
持っていただければ充分だと思っています。
壊れたら、補修しますし。
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糸井 |
たくさん買ってくれ、ではなく?
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秀子さん |
デニム製品というのは、人生に似てると思います。
最初は青くて硬くてゴワゴワしてるんですけどね、
穿いて汚して、汚れて切れて、
洗って色が降りて、柔らかくなって、
そうなるためには何年も何十年もかかって‥‥。
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糸井 |
その人のかたちになっていく。
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秀子さん |
そう、そうなんです。
ほつれたら、繕えばいいじゃないですか。
人生だっておなじです。
何回でもやり直しきくのが、人生だから。
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糸井 |
うん、うん。
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秀子さん |
だから、「スタジオZERO」のデニムは
人生のうちで1本、持ってもらえたら。
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糸井 |
なるほど‥‥。
それにしても
いろんなジーンズ、つくってるみたいですね。
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秀子さん |
洗うと、だんだん柔らかくなるデニムとか。
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糸井 |
ああ‥‥いい感じになっていく。
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秀子さん |
このデニムのラベルなんか、
いまでは手に入らない、
廃棄になったアメリカの航空機の座席シート。
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糸井 |
そういうのって、
息子さんが見つけてくるんですか?
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秀子さん |
ええ。
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糸井 |
すっかり「好き」になっちゃってるんですね。
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秀子さん |
デニムって、すごく奥が深いんです。
でもわたしたちは、
技術では負けないと思ってやっています。
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糸井 |
それは「誇り」ですね。
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秀子さん |
だって、あんなに大きな津波に流されて、
ドロドロのヘドロの中から
うちのデニムが出てきたんですけれど、
1本の糸も、ほつれていなかった。
それを見て、自信を持ちました。
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糸井 |
そのジーンズ、あるんですか?
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秀子さん |
ありますよ。
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糸井 |
うわー‥‥鉱山から掘り出したみたい。
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秀子さん |
大津波のヘドロのなかから、出てきました。
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糸井 |
これが‥‥。
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秀子さん |
ぜんぶで5000本くらい流されたうち、
見つかったのが、40から50本。
海のお父さんたちが、見つけてくれたんです。
「あんた、
宝くじに当たったようなもんだよ」って。
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糸井 |
へぇー‥‥。
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秀子さん |
で、お母さんたちが
川で、ザブザブ洗ってくれたんです。
「天気がいいから
があさまがたは川へ洗濯だからなぁ」って。
‥‥こっちでは「お母さま」のことを
「があさま」って言うんですね。
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糸井 |
うれしかったでしょう。
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秀子さん |
はい、それはもう、本当に。
‥‥リベットだって、ふつう錆びちゃいますが、
うちでは、特別なものを使ってましたから‥‥。
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糸井 |
息子さんたち、
すっかり「マニア化」しちゃって(笑)。
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秀子さん |
はい(笑)。
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糸井 |
でも、その「よさ」をわかってくれる人が
増えてきてたところだったんですよね。
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秀子さん |
時期を、待ってたんです。
「スタジオZERO」を立ち上げたのは
世に「1000円未満のデニム」が
たくさん、出てきたころだったんです。
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糸井 |
ああ、あの時期ですか。数年前、ですよね。
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秀子さん |
メーカーの側としても
「売れない商品は、つくれない」んです。
だから
「うちの指定工場でありながら、守れない。
どうにかがんばって工夫して‥‥」と。
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糸井 |
早い話が「生き残ってくれ」と?
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秀子 |
そうです。
状況はいま、とても厳しいけれど、
「生き残るための工夫や取り組みだったら
どんなことでも応援する」と。
そういう声をいただいて、
「スタジオZERO」を始めたんです。
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糸井 |
そうでしたか。
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秀子さん |
そうやって始めた「スタジオZERO」ですけど
息子たちの工夫が、いろいろしてあって
メーカーの担当者さんが
会社に持って帰ってバラしても、結局‥‥。
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糸井 |
つくれない?
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秀子さん |
はい、つくれませんでした。
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糸井 |
まさしく「現場の強さ」ですよね。
バブルのあとの「練習」が、実を結んだんだ。
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秀子さん |
その仕事がなかった、いちばんつらいときに、
どうやってこの工場を守れたか。
じつは「防衛庁の迷彩服」だったんです。
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糸井 |
ほー‥‥。
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秀子さん |
防衛庁の迷彩服をつくるお仕事というのは、
なんと言うんでしょう、
あまり‥‥奪い合いになるようなものじゃなくて。
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糸井 |
というと?
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秀子さん |
まず、手の長い人、細い人、背が低い人、
体格のいい人‥‥サイズがいろいろで、たいへん。
その割には、工賃が‥‥とか。
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糸井 |
ああ、なるほど。
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秀子さん |
採算的には、ギリギリのところなんです。
でも、それを敢えてやりました。
そのおかげで、ヴィンテージのデニムが
縫えるようになったんです。
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糸井 |
つまり、練習になったわけですね。
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秀子さん |
迷彩服って、アイロンは効かないし、
ファイブポッケで面倒だし、
なにか、不思議なつくりなんですね。
いちいち力布(補強のための当て布)をつけて、
とにかく丈夫に縫うんです。
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糸井 |
ええ、ええ。
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秀子さん |
でも、うちはこれをがんばってみようって。
それで2回、乗り切りきったんです。
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糸井 |
ピンチを。
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秀子さん |
そのときの思いがあったから、
今回も、津波にみんな流されてしまったけど、
やめようとは思いませんでした。
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糸井 |
工場‥‥見てみたいです。
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秀子さん |
掃除できてなくて、散らかってますけど‥‥。
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糸井 |
何か「企業秘密」があるとか?(笑)
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秀子さん |
いえいえ(笑)、
隠すところなんて、ひとつもないんですよ。
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糸井 |
‥‥ていねいな仕事を
ひとつひとつ積み重ねてきたんですものね。
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秀子さん |
そう、企業秘密なんて、何にもないんです。
とにかく、一所懸命、一針ずつ。
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糸井 |
はい。
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秀子さん |
従業員さんには、いつも
「一流のデニムを縫っているんだから、
ひとりずつが一流になるように」と。
「ブランドを着たり、アクセサリーをつけて
一流になるんではなくて、
こころを一流にしてくださいね」って。
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糸井 |
うん、うん。
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秀子さん |
だから、わたしたちの
「メイド・イン・ジャパン」の技術は、
どこにも負けないと思います。
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糸井 |
品質で勝てる、と。
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秀子さん |
こころは、一針一針に表れます。
だから
「誇りを持って
一針ずつ一針ずつ、つないでいこうね」
と話し合ってやってます。
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糸井 |
じゃあ、これからも、そうやって。
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秀子さん |
はい。
‥‥ほんっと、震災のあとに
みんなのミシンの音、変わったんですから。
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糸井 |
すごいなぁ、それ。
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秀子さん |
本当にうれしくて、ありがたいことでした。 |
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<おわります> |