ヒウおじさんの鳥獣戯話。
さぁ、オトナたち、近くにおいで。

第1回



日本人なら誰でも知っているだろう桃太郎。
あのお伽噺を聞くたびに、解せぬ思いに悩まされてきた。
なぜ家来が犬と猿と雉(キジ)なのか?
鬼退治に加勢を求める気持ちはわからないでもないが、
よりによって、なぜあの3匹なのか?
即戦力が必要なのであれば、
 イヌよりはオオカミ
 サルよりはクマ
 キジよりはワシ
をボクならば選ぶ。
イヌは認めるにしても、サルとキジは足手まといである。
イノシシでもフクロウでもいいから交代したほうがまし。
なんならマムシやスズメバチだっていい。
やつらのほうがよほど頼りになるだろう。




こんなもっともらしい説明がある。
鬼は鬼門と呼ばれる丑寅(ウシトラ):北東の方角から
やってくるのだとか。
(鬼が牛の角を持ち、虎のふんどしを締めているのも
 ウシトラにちなんでいるんだって!)
ともあれ、これを封じるために、
 犬=戌(イヌ):西北西
 雉=酉(トリ):西
 猿=申(サル):西南西
が呼ばれたのだという。
この話はまゆつばである。
だってこの3匹で守れるのは誰が考えても西だろう。
裏鬼門は丑寅の逆の未申(ヒツジサル):南西なのだ。
なのにどうしてヒツジがいない?
酉=キジという解釈もあまり一般的ではない気がする。

一説によると、
 イヌは忠誠心
 サルは知恵
 キジは勇気
の象徴だとか。
これも強引なこじつけにすぎまい。
イヌの忠誠心というのはまあいいとしても、
サルの知恵というのはいただけない。
古来より猿知恵とは間の抜けた至らぬ小賢しさのこと。
どちらかといえばカラスのほうがまだ知恵者であろう。
キジの勇気にいたっては意味不明のさいたるもの。
頭隠して尻隠さずということわざの元になった動物こそ
キジなのだ。(頭が隠れても長すぎる尾は丸見えだから。)
こんな臆病な動物を連れて行ってどうしようというのか。




「ほぼ日」の読者にアンケートをとったことがある。
Q.桃太郎のお供のうち、鬼退治に役立たなかった動物は?
結果は イヌ  6%
    サル  11%
    キジ  21%
    桃太郎 62%
桃太郎自身という回答が圧倒的に多いが、それはご愛嬌。
それを除けばイヌの支持率が高く、サルとキジは低い。
読者の皆さんもサルとキジには疑問をお持ちなのだろう。
桃太郎はなぜサルとキジを連れて行ったのか?
実はここに桃太郎軍団の勝利の秘けつがあったのだ。




戦いにおいて大切なことは相手をよく知ることである。
鬼は身の丈2mを越え、人を食らい大酒を飲むらしい。
角や牙を持つばかりか、金棒を武器として使うという。
想像するだにおそろしい怪物であるが弱点もある。
ひとつは目である。
京都へ悪さを働きにきていた鞍馬山の鬼の目に、
煎った豆がたまたまはぜて当たってからというもの、
鬼は目が急所となった。
節分で鬼を退散させるために豆をまくのはこの理由から。
もうひとつの弱点はちくちくする痛みに弱いこと。
とげとげしたものが苦手で近付いてこないという。
鰯(イワシ)の頭を焼いてヒイラギの枝に刺したものを
節分の魔よけにする地方があるのはこの由来による。
どうやら焼き魚の匂いも嫌うらしい。

さて、ここで自陣の戦力を分析してみよう。
イヌは鋭い牙でかみつくことができる。
サルの得意技は何か?
サルカニ合戦で見せた青柿投げの妙技が思い出される。
サルは素晴らしいコントロールを持ったピッチャーなのだ。
では、キジの得意技は何か?
けんもほろろの言葉の通り、キジはケーン&ホロロと鳴く。
雉も鳴かずば撃たれまい、ということわざだってある。
あまり知られていないがキジは大声チャンピオンなのだ。




桃太郎軍団はこうして鬼と戦った。
まず鬼の近くに潜入したキジが大声で鳴いた。
臆病なキジでも鳴くくらいはできたのだ。
 ケーン。
何事かと驚いた鬼がこちらを振り返ってにらんだ。
その目を狙ってサルが吉備団子を投げつけた。
小賢しいサルなのでこのあたりはお手の物。
 ベチャッ。
豆も痛いが、粘りのある団子が命中すると始末が悪い。
目を潰されて苦しむ鬼をキジがくちばしでつついた。
臆病とはいえ目が見えない相手には強かったのだ。
 チクチクチクチクチクチク。
ちくちく攻撃を受けて鬼の戦意はみるみる喪失。
ひるむ鬼におもむろに犬が寄っていって、ガブリ。

お供の動物の見事な連係プレイで鬼は次々と投降した。
一番活躍したのはキジ、
お次がサルだったことはいうまでもない。
ちなみにその間、桃太郎は鰯を焼いていたそうである。
めでたしめでたし。


イラストレーション:石井聖岳
illustration (c) 2003 Kiyotaka Ishii

鳥飼さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「鳥飼さんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2003-09-04-THU


戻る