ヒウおじさんの鳥獣戯話。 さぁ、オトナたち、近くにおいで。 |
第13回 一年前にはかなり多くの日本国民が鳥について考えた。 鳥ってどんな形だっけ? やっぱり鶏だよね。 面倒だから酉の字だけでいいや。 そう、そうなのだ。 酉年の年賀状作りのネタとして「鳥ざた」されたのだ。 その酉年もあと少しで終わろうとしている。 今年を逃すと一般人が鳥を思い出すのは十二年先になる。 遠い、遠すぎる。 だからこそこの機に鳥の本質について考えてみたい。 果たして、鳥は本当に鳥であるか? 驚くべき問題提起であるが、私のオリジナルではない。 1985年に別役実氏が 『鳥づくし』の冒頭で投げかけた疑問だが、 20年経ついまもこの疑問には明確な回答がなされていない。 この魅力的な問題にちょっとトライしてみたい。 最初この問題が提起されたときの 私の反応は次のごとくだった。 鳥が鳥であるのは当然である。 なぜならば鳥でない生き物は鳥ではないからである。 数学の初歩「命題が真ならば対偶命題も真」に 当てはめたのだ。 「AならばB」が成立するとき 「notBならばnotA」は成立する。 甘かった、つめが甘かった。 この場合、AもBも「鳥であること」なので、 鳥でない生き物は鳥ではない。 という論旨は対偶とは言い切れず 裏命題の可能性を残している。 裏は必ずしも真ならず。 再度検証しなおす必要があるわけである。 こんどは間違いをおかさないように、帰納法を使う。 つまりたったひとつでも鳥でない鳥を見つければ、 鳥は鳥であるとはいえない。 ことが証明される。 最初に検討の俎上に載せるのはペンギンにしよう。 ペンギンは果たして鳥であるか? 映画『皇帝ペンギン』をご覧になった方はご存じのとおり、 南極のコウテイペンギンは相当長い距離を直立歩行で歩く。 何日も歩いた末に広大な氷原のただなかで大集団を成し、 おしくら饅頭に興じたりダンスのステップを踏んだりする。 メッカを目指して何日も何十日も不毛な土地を巡礼し、 カーバ神殿に集まって周回する イスラム教徒そっくりである。 ペンギンはイスラム教徒なのか。 これが証明されればペンギンは鳥ではないと言えそうだ。 いまのところ宗教の存在が確認された生物は ヒトだけだから、 極地で修行しているイスラム教徒である可能性がある。 しかし残念なことにペンギンには信仰心はないようである。 その証拠に動物園で観察しても アラーの神に祈ったりしない。 ペンギンはたぶん鳥なのである。 次に検討したいのはキウィである。 キウィは果たして鳥であるか? ニュージーランドの森にいるキウィは夜行性で飛べない。 体も丸っこいし、もそもそと鈍重に歩く。 キウィは歩行能力を獲得したフルーツだという説がある。 が、これが間違いなのは切り刻んでも種がないのでわかる。 むしろ検討が必要なのは次の説であろう。 キウィはニュージーランドの先住民の末裔である。 オーストラリア人をオージーと呼ぶように、 ニュージーランド人をキウィと呼ぶのは事実である。 しかしこれをもってキウィ=ヒトとするのは早計である。 ニュージランドにはマオリ族という先住民が別にいる。 そのマオリ族が鳴き声から命名したのがキウィなのである。 キウィと鳴く人類はいまだに見つかっていない。 キウィはおそらく鳥なのである。 ではニワトリはどうだろう。 ニワトリは果たして鳥であるか? 養鶏場のニワトリは小さく区分けされたアパートで暮らし、 部屋から出ることもなく待っていれば食事が与えられる。 体はめっぽう弱くなってインフルエンザにもかかるしまつ。 どことなく昨今の若者をほうふつとさせないだろうか。 ニワトリはニートなのではないか。 証明されればニワトリは現代の若者ということになる。 たしかにニワトリは学ばないし働かない。 野生の鳥のように大空を羽ばたくこともなく、 日々ひたすら食って生きているだけである。 だがそれでもニワトリは生きる目標が明確である。 卵を産むとか食肉になるとか悲しい運命を背負っている。 目標なきニートのほうがよほどチキンに違いあるまい。 ニワトリもきっと鳥なのだろう。 最後にカラスについて考えてみたい。 カラスは果たして鳥であるか? ペンギンもキウィもニワトリも空を飛ばないが、 カラスは自力で空を飛べる。 この一点をもってしてもカラスは鳥と思えるかもしれない。 だが、本当にそうだろうか。 実は現時点でカラスが鳥という証拠は見つかっていない。 そればかりか、カラスはヒトが進化した形であり、 それゆえ翼も手に入れたのだと主張する学者もいるのだ。 カラスはヒトよりも都会が大好きなのですぞ。 カラスはヒトに負けず学習能力が高いのですぞ。 なんといってもカラスはヒトを見下しているのですぞ。 確かに、もしかしたらカラスは鳥ではない可能性がある。 果たして、鳥は本当に鳥であるか? 結論は次の酉年までおあずけということで。 イラストレーション:石井聖岳 illustration © 2003 -2005 Kiyotaka Ishii |
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2005-12-09-FRI
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