ーー 回文好きなお二人にも、
土屋さんの作品をみていただきたくて
回文集を持ってきました。
秋山 ぼくも土屋さんの回文は
何度か拝見したんですけど
本をじっくり読んだことはなくて。
わ、すごいですね、この本。
年季が入っていますねー。




ーー はい。
こちらは、昭和55年に
発行されたものです。
山内 この「柚子湯」っていうのは‥‥?



ーー あ、「柚子湯」は土屋さんの俳号だそうです。
山内 あ、そうか、
これが俳号なんですねー。
素敵。
秋山 お洒落!
この本のタイトルにもなっている回文は、
土屋さんの作品のなかでも
かなり有名なものですね。



ーー そうですね。
山内 これは社会派な感じのする回文です。
ニュースをご覧になって
つくったんでしょうね。



秋山 うん、そうでしょうね。



山内 これはイスラムの話ですね。
「厭う豚の肉」‥‥こういうふうに、
知識がないと書けない回文って、
さすがだぁと思います。



ーー そうですね。
けっこうジャンルが
幅広いんですよ。
秋山 すごいと思いますよ。
5.7.5調っぽく
入っているのもあって。
たとえば、この「白魚習作」っていうのは
前後を統一して、
間に入る句を変えているんですね。



ーー はい。土屋耕一さんは、
回文のつくりかたについて
いくつか著書のなかで
レクチャーされているんですけど、
これもその手法の1つのようです。
山内 ああ、なるほど。



秋山 これは‥‥ユーミンの歌詞みたい。
雰囲気がありますね。



山内 ですね。
ーー あと、ほかにも
土屋さんのつくられた広告で
回文が使われているシリーズがあって、
プリントしてきました。



山内 これなんか
季節感があってきれいですね。



山内 ちょうど梅雨入りのところが
鮎の解禁なんですけど、
こうやって旬のものが
入っているのがいいですね。
秋山 これ、アレンジしたら
山内さんの句ができそうですよ。
えー、まず「鮎」をひらがなにして。
つゆあけ、あゆ‥‥



ーー ‥‥秋山さん、すごい。
土屋さんの句から
さらにアレンジをしようとしている。
山内 わっ、これは‥‥?



山内 ブスって!
ひどいけど、おもしろい!!
破壊力がある回文ですね。
秋山 かなり印象に残りますよね。
ーー 一度みたら忘れられない。
これも、土屋さんのすごいところ
なのかもしれないですね。
秋山 それにしても、コピーライターで、
これだけ洒落たものが
書ける人ってほかにいないですよね。
一つ一つが絵になるし、量産もできる、
すごい方だと思います。



山内 そうですね。
ーー あの、土屋さんは、
亡くなったときの戒名も
回文なんだそうです。
秋山 え、本当?
山内 すごーい。どんなんだろう。
まさか、ご本人が
考えられたんですか‥‥?
ーー いえ、それが、なんと
お坊さんがつくったそうなんです。
「この土屋さんという方は
 コピーライターで、
 とくに回文がお好きだったんです」
っていうのを聞いて、「じゃあ」って
つくられたそうなんですけどね。
山内 えっ、じゃあご本人は
知らないってこと‥‥?
秋山 それ、すごい。
山内 いい話ですねー。
ーー メモしてきたんですけど、
「至光院耕菫坤柚居士」というそうです。

秋山・山内 しこういんこうとうこんいうこし。
秋山 すごい‥‥
至光っていう字もすごいですね。
ーー はい。
この回文の意味は、えーと、何だったかな。
風流な感じ、ですよね。
秋山・山内 ‥‥えーーーーー!?
秋山 ははははは。
すっごい適当~(笑)。
このすばらしい名文を
「風流」の一言で
片付けるなんて。
あなた、かなり、雑‥‥ですね!
山内 ざっくりしてますねー(笑)。
ほらほら、ちゃんと分析してみましょうよ。
これは、すばらしいですよ。
耕一さんの「耕」の字も入ってますし、
ここに「柚」とあるのは、おそらく
俳号の「柚子湯」のことでしょう。
ーー はっ! ‥‥たしかに。
秋山 いや、まぁ
そもそも糸井さんの名前すら
回文であることに
気づいてなかったって
いう方ですからね(笑)。
ーー もう、ほんと、すみません。
回文の担当なのに‥‥。
山内 (笑)
今日ずっと回文の話をしてきて
思ったのですが、
回文って、ギャグとか、だじゃれと違って、
ドカーン! と場が沸かないのが
特徴というか‥‥。
つくった回文を披露しても、
「へ~、ほんとだ」みたいな空気に
なりがちですよねぇ。



秋山 あ、それはそうかも。
でも、つくった本人が、
たのしいんですよ。
山内 たぶん、基本的には、
つぶやきとかひとりごとっていうのが
回文に合う温度だと思います。
ーー できあがったときに
しみじみと嬉しい、
みたいな感じでしょうか。
秋山 そうですね。
「できた!」というときの
ちいさな喜びを披露したいときに
Twitterなどでつぶやくのが
ちょうどいい感じですよね。



ーー 土屋さんが生きておられたら
Twitterでもことば遊びを
されてるかなぁ、って
想像してしまいます。
本当に、今日は
回文のことをいろいろうかがえて、
たのしかったです。
山内 私、こんなふうに回文のことを
ずーっと語ったの、はじめてです(笑)。
秋山 ぼくもです。
ここまで回文について
話すことってあまりないですから。
ーー お二人とも、
とても初対面とは思えない
息のあったかけあいで、
すばらしかったです。
ありがとうございました。
個人的には、
まずは、名刺をいただいたときに
名前のポテンシャルを意識してみようかな、
って思っています。
秋山 「ごまたまご」みかけたら、
ちゃんと意識するようにね(笑)。
山内 (笑)
一回、そういうアンテナを持つと
けっこう、すぐですよ。
ーー まずは、名前を
ひっくりかえすところから‥‥ですね。
本当に、ありがとうございました!
(お二人の対談はこれで終わりです。
 最後までお読みいただいたみなさん、
 ありがとうございました!)

2013-05-17-FRI