糸井 |
『スジナシ』で
即興のドラマをやるという番組、
おもしろいですねぇ……
いまの鶴瓶さんは、もう素人の誰が来ても、
やれちゃうんじゃないですか? |
鶴瓶 |
ま、そうでしょうね。
もう160何本撮ってますから。 |
糸井 |
相手によって、甘える人や、
リーダーになる人がいるだろうけど、
そういう使い分けって、
やりはじめたときに決まるわけですか? |
鶴瓶 |
ぼくは、あの番組は、
インタビューと思ってるんですよ。
こわがりだとか、我が強いだとか、
その人の私生活がいちばん出る
インタビューが『スジナシ』だと思って、
やっているんです。
あれはもう芝居ではないですから。
もう、
インタビュートークの番組なんです。
おたがいに腹をバーンと割って
やりあう番組だから、
いい人のいいところが出るんです。
いいものはどこへ出てもいいんですよ。 |
糸井 |
そういう人を見ると、
「いい間合いだなぁ」と思うんですけど、
そのよさって、なんなんでしょうか? |
鶴瓶 |
それは、腹のくくりようでしょうな。
自分のええかっこがなくて
「もう、これでやってしまおう」
という瞬間がきたら、
いいものになると思う。 |
糸井 |
なるほどなぁ。
ただ、個性が強く出るものだから、
器の小さいものが来たら、
いくら鶴瓶さんががんばっても
ダメになってしまいますよね。 |
鶴瓶 |
いちばんダメなのは、
向こうが決めてきはることですよね。
決めてぜんぜん動かず
「自分はこれでいく」って来はると、
なにが『スジナシ』の
おもしろさなの、っていうことになる……。 |
糸井 |
それは、弱っちゃうでしょうね。
『スジナシ』に出てくる人は、
終わったあとで、
鶴瓶さんとふたりで、
自分たちのした演劇について
「あそこは、こうだったんですよ」
としゃべるというところで、
安心して演じられるんですよね。
あれですぐに、
じゃあさよなら、だったら、
誰も出たくないもん。
|
鶴瓶 |
もうそのまま
終わって帰っても
ええぐらいのときもあるんです。
もうあとは、自分らで
判断してください、
いうぐらいのこともある。
基本的には、男とやるほうが
おもしろいんですけど、
男と女になると、
キスをするときも
あるじゃないですか。
この、キスというものが
『スジナシ』では微妙で……
スジがないのにキスしたら、
あんた、キスしたいからしたよな、
っていうところがあるじゃないですか。
それは、テレビをつけた側が
ちょっとドキドキするような……
男どうしの『スジナシ』には、
そんなものは、ないですから。
たとえば、
安達祐実さんなんかの場合は、
朝パッと起きて、
朝食という設定なんですね。
朝の食卓。
向こうが座ってる。
ぼくが階段から降りてきた……。
「昨日は、よかったわ」
って言わはったんですよ。
それ、
めっちゃおもろいなと思て。
子役出身いうのを、
思う存分、フルに生かして
「昨日はよかったわ」ですから。
もうそれだけで
「え? 子役やねんから、
そんなこと言うのはあかんやない」
という……けど、
ごっつおかしくなるでしょう。 |
糸井 |
うん。 |
鶴瓶 |
蛭子能収さんのときも、
おかしかったなぁ。
「……あの、兄さんですよね?」
「いや、
そんなこと言うたらあかんがな。
筋がないねんから、入ってから、
兄さんかどうか決めないと」
「いえ、でも、ぼくのなかでは
もう、兄さんって決めてるんです」
「いや、決めたらあかんさかい(笑)」 |
糸井 |
それも撮ってるんですか? |
鶴瓶 |
うん。 |
糸井 |
(笑) |
鶴瓶 |
ほんで、
電話からスタートしたんです。
ぼくが警察になったんです。
そしたら向こうは
「兄さんに刺された」って……。
とにかく兄さんだって決めてるの。
それがなんか、
めっちゃおかしかって……。
ぼくは蛭子さん自身を好きやからね。
セコイ人やからなぁ……
あんなセコイ人が
いるというのが、ええのよ。
蛭子さん、仕事がめっちゃほしいねん。
ほしいわりには、
レギュラーはじゃまくさいねん(笑)。
ラクしておカネをもうけたいと……
どんななまけもんや。
あの人は、一生やっていけるやろな。
8千円の賭け麻雀で捕まるしなぁ……
ぜんぶで8千円、
そんなもん、ふつう捕まるか?
なんで捕まったんやろな。
意味わからんわ。 |
糸井 |
(笑) |
鶴瓶 |
ウエンツ瑛士と
一緒にやったのも、おかしかったなぁ。
あの人、ものすごい男前でしょう?
それが俺の子どもなんです。
ぼくははじめ、新聞の勧誘で
入ってくるんですけど、雨の中、
バーッて家の中に入ってくるんです。
(新発売の『スジナシ』DVDページは、こちら)
で、
「実は俺はおまえの親やった」
いうことになるんですけどね。
雨降ってるから、ビチャビチャになって
ぼくが入ったんですよ。
ほんで、ぜんぶ服を脱いだんですけど、
胸元でバスタオルをとめたんです。
それが自分でおかしなってきてね。 |
糸井 |
ああ、やったね(笑)。 |
鶴瓶 |
向こうは、もう笑てんねやけど、
笑たらあかんし……
そらもうおっかしかったですね。
それで、自分の子どもがそこにいる。
どんなおっさんや。
顔がぜんぜんちゃうでしょう? |
糸井 |
いいなぁ、やっぱり。
1回目の段田安則さんのものも、
よかったですよね。
やっぱり、緊張はしてましたよね。 |
鶴瓶 |
そうそう。
最初で、こっちも
まったくなにもわかっていないから。 |
糸井 |
鶴瓶さん、しゃべんなくてもいいのに、
カメラに向かって、
「俺は何とかで何とかで……」
って解説してましたよね。 |
鶴瓶 |
もう、意味わかれへんからね。
こんな番組やりたいねんて
言うてるけども、
できへんかったらアカンでしょう?
そういうときは、キューッて集中して……
この『スジナシ』だとか、
『らくごのご』のスタートのときには、
ほんとに何も見えないところからでしたから。
相手は、何するかわかれへんのですから。 |
糸井 |
相手はきっと、もっとこわいですよ。
だから、最初のほうに来てくれた人って、
ほんとにえらいと思う。 |
鶴瓶 |
それは、ぼくは段田とのつきあいがあり、
で……そのへんで
理解ができているということが、
大事だと思うんです。 |
糸井 |
うん。
確かあの回、ズボン脱いだりしたよね。
両方が好きな
ドラマのイメージがあるんですよね?
小津みたいな……。 |
鶴瓶 |
そう。
誰の葬式やわからんけど、
葬式から帰ってきて……。 |
糸井 |
あれが1回目っていうのは、
ほんとにすごいです。
段田さんって、
もともと遊眠社の人だから、
反射神経を鍛える練習みたいなことは、
すでにやってたんですよね。
|
鶴瓶 |
もともと、段田は落研なんですよ。
落語も、めちゃめちゃうまいですよ。
……糸井さん、
雛形あきこの回は知らないですか?
雛形あきこのは
「コイツすごいな」と思ったんです。
設定は、地下の倉庫にふたりなんですよね。
ほんで、雛形は、ずーっと、
ハサミをこうまわしてるんです。
俺はまあ、倉庫に入ってくるわけですよ。
雛形は何にも言わない。
ずっとハサミをまわしてる。
生足で、OLで、足を組んで……
どうしようかなと思って、
ぼくが最初にしゃべりだしたのが
「こんな大企業に入れたんは、
俺のおかげやねんから、
とにかくおまえ、
部長とケンカしたからいうて、
こんなところへ
いっつも入ってきたらあかんで」と。
「お母さんに頼まれて
就職決めたんやから。
ふつう就職難やのに、
こんな大きな会社、通れへんで。
俺の顔潰れるし、
もういちいちスネて、
こんなところに入るのだけ止めてや、
ほんまに。
お母さんが、
どないしてここに入れた思てんねん」
俺がずーっとまくしたてると、
向こうが「奥さんから電話あったわよ」と。 |
糸井 |
すごいね、それ。 |
鶴瓶 |
「そら、おまえ、
ど、ど、どない言うたん?
なに言うたん?」
「……聞きたいんだけど、
私と奥さんとどっちが好きなの?」
「いやいやいや、そ、そ、そ、そんな、
おまえ、あのな、そんなこと言いないな。
おまえも結婚するねんしな。
何々課の木下くんと結婚すんねんから」
「好きじゃないもん。
あなたがくっつけたんでしょ」
「いや、せやけど、
もう式も決まってるし、
そんなこと言うたらあかんで。
俺とも、もうそんな……
ないねんからやな。
まぁ、前はそういうことも
あったやろけども……
あの、そのこと、
絶対言うたらあかんよ?
もう、これはもう、絶対。
絶対にしゃべったらあかんで。
で、奥さんは、どない言うた?」
「いや、黙って切った」
「それそれ、それでええ。
言うことあらへんしな」 |
糸井 |
うまいなぁ。 |
鶴瓶 |
もうほんとに、
スッ、スッ、スッと突いてくるの。 |
糸井 |
そんなことができるんだ。 |
鶴瓶 |
あいつがすごいと思うのは、
それはやっぱり
子を産んでるからでしょうね。
バラエティでも鍛えられてるんですよ。
ナイナイに、やっぱり、
アドリブは鍛えられてんねやろな。
ずーっと組んでるんですよ、足を。
「いやもうとにかく、ここを出ないか?
あんまり長かったら、
また変に思われるし……もう俺は帰るぞ」
そう言ったら、
グーッとクビにハサミを当ててくる。
「なにすんの。したらあかん。
そんなことしたらあかんがな」
俺がそう言ったら、ブスッと突きよって。
こっちは倒れな、しゃあないでしょう?
倒れた。そしたら、そこからですよ。
生足で、スカートでっせ。
ガーッとまたいできて
「一緒に死のう」ってグッとハサミで突いて、
グーと抱いてきよるんですよ。
「好き」いうて……
それでもうオッケーですよ。
これは、めちゃめちゃすごいですよ。
中途半端じゃないんです。
パンツのぬくもりを感じるぐらい、
グーッておさえつけんねん……
そんなん、
ふつう恥ずかしがるでしょう?
ええ度胸しとんなぁと思って。
俺からは、行けないじゃないですか。 |
糸井 |
「俺からは行けない」
っていうことを
知ってる人の演技ですよね。 |
鶴瓶 |
それがすごいんです。
「この人は私を抱く演技を
できないだろうな」
と、その逆にいくんですよね。
女であることを十分に利用して。
あれはたいしたもんやなと思って。
男なんていうのは、
かわいらしいもんですね。
女は、そんなん、
おとなしい顔しておまえ、っていう……
おそろしいというのは、
やっぱり、ステキですよ。
まぁもちろん、
まちがった方向に行く人もいますけど。 |
糸井 |
「男どうしでの演技」で、
特に印象に残っているものは
どういうものですか? |
鶴瓶 |
いろいろあるけど、
大杉漣、
あのおっさんもすごかったね。
書斎にふたりいるんですよね。
入ってきて、
ワイン持ってきよるんです。
で、俺は出世した売れっ子作家なんです。
大杉漣は、いろんなところに
日雇いに行ってきた男になったんでしょうね。
どうも、その作家が
前に貸した金があるんですよ。
「友だちが自殺したけど、
その友だちが
オマエに借りた1万円を返しにきた」
ほんで俺がね、
ちょっと小馬鹿にするんです。
「そんな金なら、要らんわ」
そしたら机をバーッと蹴ったんですよ。
「ふざけんな、コラァ!」
「ドアホ!」
向こうは徳島でしょう?
こっちは大阪でしょう?
スタッフも、みんなビビったぐらい、
ケンカの部分は本気で言いあいして……
最後は、
「いや、すまん。
俺、おまえをバカにしてた」
「あいつ、ずっとその金のこと、
心配していたんだ」
で、パーンと終わるんですよね。
あれのヤマの作り方、うまかったですよ。
あの人やっぱり、ほんまに
ガーンと蹴ってくるという……。 |
|
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