ほぼ日 |
タムくんって、
実際に会うとどういう人ですか? |
星野 |
タムくんは、
ぼくより年上ではあるんですけど、
実際に会うと、そんな気がしなくて。
ふつうに、優しくて
ふつうに、いじわるなことも言うし。
「キモイ!」とか平気で言うし(笑)。 |
ほぼ日 |
(笑) |
星野 |
あと、タムくんと話したときのことで、
すごく印象に残っているのは、
「タイの人が、
人のことをバカにするのが
イヤになっちゃった」
って言ってたことなんです。
これは、ぼくの想像なんですけど、
タムくんって、タイで暮らしながら、
「自分は何かが違うなぁ」と感じていて、
自分のアイデンティティを
いちからつくりあげていった人なんじゃないか、
っていうふうに思うんですよね。 |
ほぼ日 |
そういえば、『タムくんとイープン』の中にも
そういうことが書いてありましたね。 |
星野 |
ええ。ああいう意識を持てるっていうだけでも
すごいことですよね。
なかなかできることじゃない。
しかも、タイには
「マンガ家」っていう職業が
ちゃんと確立されてないらしいんですよ。
それでもやるっていうのも、かっこいいですよね。
「葉っぱ」より(『タムくんアニメ イエロー』収録) |
ほぼ日 |
そういうふうに
「自分のやり方を大切にする」というところは
タムくんと星野さんのおふたりに
共通しているように思います。
タムくんは、本の中で
「自分のやり方で人を幸せにしていきたい」
って書いていらっしゃいましたよね。
「マンガ家だからとか、ミュージシャンだから、
ということを気にしていたら
世界が狭くなっちゃう」とも。 |
星野 |
ぼくがSAKEROCKをつくったときは、
まわりの人はみんなコピーからはじめたりとか、
自分の好きな人たちの真似して曲をつくるとか、
そういう人が多かったんです。
たとえばスカバンドだったらスカバンド、
ロックバンドだったらロックバンド、
っていう状態からはじめるやり方がすごく多くて。
それが「なんだか納得いかない」
という気持ちだったんですよね。
SAKEROCKはそれを、
「自分たちの方法をいちからつくっていった」
っていう感じがあるんです。
とりあえず、コピーや真似を
全部拒否するところからはじめて。 |
ほぼ日 |
ああ、なるほど。 |
星野 |
と、言いながらも、最初は、
細野晴臣さんの『トロピカル三部作』みたいなのを
やりたかったんですけれど(笑)。
ただ、そういうものが自分たちには
やれないっていうことはわかっていて。
だから、自分がおもしろいと思うもの、
それに加えて、とにかくまわりを見て
「やりたくない」と思った事はやらない!
というところからはじめたんです。
リズムとかも、いちから全部。
「人は何故、まずエイトビート
から始めてしまうんだろう?」
っていうところから考えるっていうような
あまのじゃくなやり方で。
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ほぼ日 |
そこまで徹底して。すごいですね。 |
星野 |
「気持ちよければいいっていうことじゃない」
っていうところからはじめたんです。
だから、最初はすごく楽しくなかった(笑)。 |
ほぼ日 |
めずらしいですよね、そういうやり方って。
「楽しい!」っていうところから
はじめる人がほとんどなのに。 |
星野さん |
そのころ、知り合いのライブに行くと
楽しそうに演奏しているじゃないですか。
観てるこっちはぜんぜん楽しくないのに
なんで楽しそうに演奏しているんだよ、
って、思うことがたくさんあって。
その時に、自分たちが楽しまずに
周りを楽しませるっていうことができるのが
一番いいなと思って。
まずは、自分たちが楽しまない
っていうことをやりたかった(笑)。
だから、曲をつくる段階で、模倣というか、
何かを取り入れてということではなくて、
逆に、何かになりすぎたら
そこから離れていくというやり方を
ずっとやっていたんです。
そうやってつくっていったら
自分たちでもよくわからないものができあがって、
知り合いの人たちに聴いてもらっても
すごく反応が悪くて。
「よくわからない」という反応ばかりで。
そういう手探りな中、不安な中で
夜通し録音をして、やっぱりやめようか、
ということをずっと繰り返していたので
全然すすまなかったんですよ。
みんなが許せる何かが生まれるまで
やらない、みたいな感じで。 |
ほぼ日 |
いったん、どこかまでいってみて
やっぱり違うからやめようということを
繰り返すみたいなことですか。 |
星野さん |
そうですね。その時はなんか
そういうやり方でやっていたんですね。
「葉っぱ」より |
ほぼ日 |
ある種、修行みたいな感じで。 |
星野さん |
そうなんですよ。まさに、修行ですね。
だから全然楽しくないんですよ(笑)。
しかも、いいものをつくっているんだっていう
自分の確信もないわけですし。
自分自身が、そういうふうに
しむけているんですけれど、自分でも不安で。
「こういう方向でいく!」っていう勘だけしかない状態。
はじめて自分のつくったものを世に出したのは
「これを置いてもらえませんか」と
レコード屋さんに持ち込んだ時だったんですが、
「聴かせてもらって、判断するよ」と言ってもらって。
何日か後に、そのレコード屋さんに行ったら
「こういう風に持ち込まれるものって
大概受けないんだけれど、
これはすごくよかったから売るよ」
って言ってもらって。その時にはじめて、
「自分たちのやっていたことは、
間違ってなかったんだ!」と思えたんですね。
そこから、いろんな人の手に渡って
「いいね」と言ってくださる方もいて。
そこではじめて、自分たちが
どういうものをつくったのかわかったんです。 |
ほぼ日 |
本当に、自分のやり方だけを信じて。 |
星野さん |
はい。SAKEROCKは、そうやって
いちからつくっていった感じだったんですよね。
だから、『タムくんとイープン』を読んだときも
「ほんとうにそうだよな」と思ったんです。
タムくんのマンガも絵柄が妙に懐かしい、
みたいなところはあると思うんですけれども、
やっぱりどこにも寄っていないというか
「支えのないマンガ」っていう気がすごくして。
そこが、すごくぐっときたんですよね。
自分で方法を編み出す、
開拓していくというような感じが。 |