第5回 おサルに
道具を与えるみたいに。 |
── |
糸井さんは歌詞という形で
矢野さんとかかわるようになったわけですね。
なんだかとても楽しそうに見えます。 |
糸井 |
それはもう、楽しいですよ。楽しいです!
一つじゃ成り立たないものを作るわけですから、
歌詞っていうのは。
歌詞として読んでねってものを
作ってるわけじゃないんで、
足りないものをわざと作るんですよ。
詩っていうものを、
僕は作る気になんないんですよね。
どっかで、このまんまじゃちゃんと
立たないんだよねってものを
作るのが好きなんです。
で、曲をお願いしまーすっていう関係だから、
こんなにうれしいことはないですよ。
その代わり、いつでもできるわけじゃない、
っていう欠点があるんですけどね(笑)。 |
矢野 |
まあね。 |
糸井 |
僕も常にいつでもできるわけじゃなくって、
アッコちゃんはアッコちゃんで
いつでもできるわけじゃなくって、
なんか、なんて言うの、風が吹いて、
種がまかれてさぁ、太陽が照って、
植物ができるみたいなさ、
‥‥けっこう農作業っぽい(笑)。 |
矢野 |
ていうか、サルがこう‥‥、
ジャングルの中で、一人でキッキッキッって、
それだけでもけっこう楽しいんですけども、
糸井さんが、こう、木の枝とかさ。 |
糸井 |
(笑)投げつけて! |
矢野 |
ロープとか。色んな遊び道具を、
「こういうのどうだい?」みたいに。
そうすると、あのサルはどうやって
遊ぶかな? みたいな。
わたしが思い通りに遊んで
楽しそうにしてる時もあれば、
木の枝あげたのに、あれ? なんか、
あんな風にしてるよ、みたいな。 |
糸井 |
うんうんうん。 |
矢野 |
あっち行っちゃったよ! とか。 |
糸井 |
全然オッケーだからね。それも。 |
矢野 |
そうそうそうそう。
で、つなぎあわせて、わたしが、
「ホーッ!」とか「キーッ!」って
あっち行っちゃったりとかするのも
オッケーみたいな。 |
糸井 |
うんうん。そういうつきあい方は他にはないね。
作詞っていうことだけで言うと、
色々ちょこちょこしてきたし、
たまーに今でもなんか事情があってね、
有名になろうとか、金を稼ごうとかさ、
そういう邪念でね、
引き受けることだってありますよ。
でも、それはね、何て言うんだろう、
形を作んなきゃなんないんですよね。
アッコちゃんとやってる時は、
形作ってないんですよ、全然。
できちゃった、みたいなところがあるんです。 |
── |
他の人の時は、
ある程度完成されたものを作らなくちゃって? |
糸井 |
東海道線に乗るのか、上越線に乗るのかみたいな、
説明できることをしてるんですよ。どっかで。
‥‥アッコちゃんの時は、
説明しても聞いてくれなそうだしさ。
枝持って逃げちゃったりするからさ(笑)。 |
矢野 |
うん。 |
糸井 |
「にぎりめしとえりまき」の時は
絵を描いて説明したけど。
要求されてさ。 |
矢野 |
そうだっけ。 |
糸井 |
周りにいる外国人にちょっと説明したいんで、
絵があるといいなあって。
で、ファクスで絵を送ったんだよ。
これは唯一の説明じゃないかな。 |
矢野 |
うん。そうかもね。 |
── |
じゃあ、普段、他の場合は詞を送るだけ。 |
矢野 |
もう、いつもそうですね。 |
糸井 |
うん。 |
── |
こんな気持ちで書きました、とかは、
一切ないですよね(笑)。 |
矢野 |
なし。 |
糸井 |
なしなしなし。
たまーにアッコちゃんが、
こういうようなことを書けたら、
歌を作ってみたいなっていう
リクエストがある時がある。
それがけっこう曖昧なのよ。
曖昧じゃないと困るんだけど(笑)。 |
矢野 |
まあね。それがあの、ほら、
親だってほめられたいよね〜っていうので、
「お母さんもほめられたい」という歌詞の
「いいこ いいこ」になって。 |
── |
ああ、なるほど。 |
糸井 |
それは電話でアッコちゃんから聞いて、
そりゃそうだよね、って思ったから、
その段階でもう、できたも同然ですよね。
そりゃそうだよねって思ったらね。 |
── |
普段の木の枝は、
どういう風にどう思って書くんですか? |
糸井 |
‥‥わっかんない‥‥! |
矢野 |
それはほら、あの、んー、
やっぱりサルの生態に詳しい人は、
ちゃんと適切な遊具を、‥‥こう。 |
一同 |
(笑)。 |
矢野 |
リンゴを与えたらこう剥くだろうなとか、
耳の穴には入れないだろう、とか。
という程度の、観察があってのこと、ですから。 |
糸井 |
そうかもしれない。 |
矢野 |
で、わたしも、それは、これ、リンゴ食ったら、
毒入ってんじゃない? とか、
そういう風には思わなくて、
ちゃんとわたしが楽しむためにくれたんだわ!
と思いつつ、
じゃ、これ割ってみようかしら? みたいな。
ある程度の、そういう共通の基盤ていうのが
あってのことですよね。
ない人とは、できないことはないけれども、
おそらく偶然でしかできないのかもしれないな。 |
糸井 |
偶然ではないよね。明らかにね。 |
矢野 |
これは偶然じゃないです。
やっぱり大森さんの見立てがね、
正しかった! |
糸井 |
お見合いがね(笑)。 |
矢野 |
それから長年一緒に、間接的な観察をね、
ずーっとこう、してきたっていうのは、
コマーシャルソングっていう、
ガラスばりの中での仕事が大きいと思うよ。
わたしも、自分のしたいことを一番先じゃなくて、
商品のための、プロジェクトのための
音楽であるっていう。 |
糸井 |
うんうんうん。 |
矢野 |
その中から、お互いの技とか、
それを通して、お互いをちゃんと知っていく。
そういう積み重ねが、随分長いこと、あるからね。 |
糸井 |
ああ! ルールが意識された時期が
ちゃんとあるってことだな。そうだ。 |
矢野 |
そうそう。
プロフェッショナルな言葉をちゃんと紡ぐ人と、
音を書く人、作る人との共同作業が、
まずちゃんとできるっていうことが、あるよね。
で、その上で、そういう枠がなくなった時でも、
根本の部分がわかってるから、
この人は、わたしのリンゴに毒は入れない! と。 |
糸井 |
うんうんうん。そうだ! |
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2006-11-30-THU |
(明日に、つづきます!) |