第4回 家庭菜園は「オレの話を聞け!」?

柳瀬

「野菜は体にいいから、まずくていい」
っていうイデオロギーが、
かつてあったと思うんですよ。

僕は子供のころ、
ものすごい好き嫌いが激しくて、
ニンジンにしろ、タマネギにしろ、
ぜんぜん食べれなかったんですね。
ま、これはただの好き嫌いなんですが(笑)

とにかく、
あの「野菜は体にいいから、まずくていい」
というイデオロギーの究極は、
青汁だと思うんですけど。

糸井 あの、「良薬は口に苦し」
という言葉に救われてる商品は
いっぱいあるんですよね。

実際には、野菜の場合、
まずい野菜は、ぜんぶ毒です。
精神的にも毒なんですけども、
なぜ毒なのかっていうことは、
諏訪さんが説明してくれると思います。
諏訪

ちょっと長くなりますけど、いいですか。
いま、有機野菜、
オーガニック野菜、ブームですよね。
有機野菜って
すごく安全でおいしいって思うんですけども、
ほんとうに、
「有機野菜ってうまい!」
って思ったことありますか?

僕は家庭菜園を15年弱、
ずーっとやってます。
ほんとうに10年間、
自分でやるなら有機野菜だって決めて、
ひたすら、牛糞鶏糞集めてきて、
畑を牛の糞と鶏の糞だらけにしたいくらいの勢いで、
有機に凝ってたんですよ。
自分の畑で穫れたものですから、
新鮮でうまいなー、
って思ってたんだけども、
いざ永田野菜に出会ったときに
なんだよ、もっと全然うまいじゃん、
ってことでびっくりして、
「当然、これ、有機でしょ?」
って、永田先生に聞いたら、
「有機じゃないんですよ」って。
永田野菜は、
化学肥料の液体肥料を使ってるだけで、
いっさい、有機肥料を使いません。
牛糞鶏糞もたい肥もいっさい使いません。

今、ブームということもあって
有機野菜って、なんとなく
すごくいいと思われてるんですけど、
日本で牛や鶏が育ててられてる環境が
今と昔と変わってきてるという事実を
私たちは知らないでいるんです。

牛や鶏は、狭いところに押し込められて、
いっぱいミルクを出さなきゃいけないとか
毎日のように卵を産まなきゃいけないという
環境に育ってるから、
抗生物質とか、時にはホルモン剤とかが、
投与されてるんです。
で、当然、その糞にもそれが入ってきますから、
その牛糞鶏糞で作ったたい肥で、
野菜を作ったら、畑の中に
抗生物質やホルモン剤が入ることになる。

それから、また、
牛糞鶏糞は、
畑にそのままでは入れられませんから
発酵させるわけですけれども、
その時にメタンガスが大量に発生します。
実はこれ、二酸化炭素の17倍くらいの
地球温暖化効果があるので、
温暖化に拍車をかける原因にもなっている。

有機肥料がダメで、
化学肥料がいいってことではなくって
もうちょっと冷静に、肥料を考えましょう、
ということを言おうとしてるんですけど、
化学肥料って、なんか、みんな毒で、
コワイ、コワイって思ってると思うんです。

でも、化学肥料というのは、
植物の三大栄養素
「窒素、リン酸、カリ」を含んでいるんですけど
もともと地球上には、
約118個の元素があって、
そのうちの3つが
「窒素、リン酸、カリ」なんです。

そんなものを人間が作れるわけなくて、
リン鉱石とか、カリ鉱石っていう
天然の鉱石から
化学的な方法でもって取りだしてるのが、
化学肥料です。
それに、空気中の75%が、窒素ですから、
人間が自然界にあるものと違うものを
化学的に作ったわけではないですし、
「窒素、リン酸、カリ」
の三大栄養素でできてる化学肥料のもとは
ある意味では、
100億年以上も前に宇宙が
生まれたときから存在する天然資源なわけです。

それに、
植物が根から栄養素を吸うときには、
無機肥料に分解されて
はじめて吸えるようになるので、
極端に言うと、
化学肥料をあげても、
牛糞をあげても、鶏糞をあげても
植物が吸ってる要素は同じものなんですね。
むしろ、有機肥料のほうが、
土にいれてから
無機物に分解するまでに時間がかかるので、
有機肥料で野菜を育てていた頃のぼくも、
農家のかたも、
ついつい多量に入れてしまいがちなんです。

抗生物質とか、西洋医学の薬は
ちょっとしか飲みたくないけど、
漢方薬だったら
少し多めに飲んでもいいじゃん、
みたいな感覚が
なんとなく人間にあると思うんですけど、
そういうのが、野菜作りにもあって、
化学肥料だったら
最低限のルールを守るんだけど、
有機肥料だったら
あげすぎはないんじゃないかって
思っている。
実はいま、環境汚染の最大の原因は、
日本の畑が肥えすぎてて、
畑のダイエットをしなくちゃいけないってことなんです。

野菜っていうのは、
与えた肥料のうちのおおざっぱに言えば
8割、9割は吸わないんですね。
そこへもってきて、
有機肥料を大量にあげすぎるから、
ほとんどが畑に残っちゃって、
それが雨水になって、河川に流れてって、
富栄養化になって、青潮だ、赤潮だ、って
海の汚染につながってっちゃうんです。
それに、肥料を与えすぎた野菜は、
窒素が多過ぎてえぐみが出ちゃう。
ピーマンが苦かったり、
タマネギが辛かったり、
まさに永田先生が言うところの
「子どもたちが野菜を食べないのは、
まずいからなんです」
というのは
「肥料の与えすぎで育った野菜だからなんです」
というようなことなんです。

そういう意味で
いままでの価値観を
いろんな意味でもう一回見直すことが
できるんじゃないかとか、
そのあたりに野菜づくりのヒントが
あるんじゃないかなという気がします。

糸井

その話、ぜひしてほしかったんですよ。

ほうれん草は、生で食べちゃだめだと、
常識的に言われていましたけど、
これも同じ構造です。
ほうれん草が
たくさんの肥料を取り過ぎているために、
シュウ酸がたまっちゃうわけですよね。
で、それを生で食べると、
体に毒だってことなんですけども、
シュウ酸がたまっちゃうことの原因は、
もともと
人間が与えすぎていた肥料だったわけですよ。
過栄養で悲鳴を上げていたほうれん草を
人間が食べるわけです。

なぜ、そんなことになっちゃったかと言うと、
たくさん作りたいからなんですよ。
たくさん作らなければ、商売にならない
という構造の中での悲劇です。
ちゃんと作ったほうれん草は
まったくまずくないし、
栄養価もずっと高いわけです。
「良薬は口に苦し」って言葉ひとつが柱になって、
ものすごくいろんなことを
ダメにしちゃってる。

似たような言葉に「努力」とか、
「ひたいに汗をする」とかって
あるんですけど、
ひたいに汗するというのは、
ぼくは、
ほんとに大事なことだと思うんですけど、
それに寄り掛かったとたんにダメになるっていう、
魔の言葉だと思うんですよ。

たとえば、
野球の練習をするのにね、
ぶっ倒れるほど素振りしてたらうまくなるか?
ということなんですよ。

ひたいに汗はしてて、いいんだけど、
その人が何をしていいかわからないがゆえに、
素振りをしているとしたら、どうだろう?
たしかに素振りも必要なんだけれども、
闇雲に「とにかくやろう」といって、
押し付けたりしていいものなんだろうか。
わかりやすそうでいて間違ってる考え方とか
たくさん作るためにやってきたこととか
あるいは、健康になるからと言って
我慢をして食べてきたこと、とかについて
いままでとは違う見方、考え方をする時期に
来てると思うんですよね。

なんかね、いいことっていうのは、
だいたい気持ちいいんですよね。
寝不足のときに眠るって
気持ちいいでしょう。
そういうのと同じように
やっぱり人間のボディを、
快感として感じるものを、
もっと信じたほうがいいですよね。

 
(つづきます)
2006-05-08-MON