POMPEII

第1回 スケッチブック

去年12月、田中靖夫さんというひとが
鼠穴こと糸井重里事務所にふらっと来たのですが、
彼の持つスケッチブックに並ぶ絵は……↓


これ全部ガイコツ。

ガイコツ・ガイコツ・ガイコツ……。
これは、数枚で終わる絵ではないのだっ。
100枚程度のスケッチブックで10何冊。
つまりこういう絵が1000枚以上もあるのだった。
ガイコツは1枚に10体くらいいるのだから、
単純に計算しても10000体を軽く超えているんだよ!



田中さんは関東自動車工業デザイン課に
16年間勤めた後にフリーのイラストレーターとなった。
エッチング『滑走する足』、ドローイング『Count Down』、
『絵本徒然草』などを著すとともに数冊の絵本に挿絵を描く。
キリン「一番搾り」CMにおけるオブジェを制作するなど、
コマーシャルアートの分野でもすごいひとなのよん。
 
「とりあえず糸井さんに観てもらおうと思って」



そうして鼠穴のみんながぞろぞろ揃っては
うへえ、とか、すげえ、とか言いながら
ガイコツスケッチブックを繰っていたのでした。
やむにやまれぬ迫力があるんだよっ!

「これは、すごい! 般若心経みたいだ!
 何でこういうことをできちゃうかなあー。
 素養があるうえに自由にやっているから、
 これは若い奴が情念に任せて描いたのともまた違う。
 しかも今の二十歳のやつは
 こういうのをやるほどの気持ちもない。
 田中さんー!ぼくは久しぶりに参りました」



darling糸井はそんなこと言って楽しそうだったし、
この日の鼠穴は田中さんのガイコツ尽くしだったのだ。
何でガイコツなの? 何でたくさんなの? 
商売にも関係のない膨大な数の自由な絵。
これは、何?


気になって仕方なくなっちゃったぼく木村が
田中さんの仕事場におしかけていったのは、
それからしばらくしてのことでした。


(つづく)

2000-02-02-WED

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