POMPEII
千体のお気楽な骸骨たち。
田中靖夫さんの手が産み出した天然。

第10回 フリーになる前後の話

16年勤めた会社をやめてフリーで
絵を描くようになるきっかけをききました。


このホイップクリームのようなところから
天使の画像は、生まれていったのだ。


----絵でやっていけるというふうに思った
  きっかけって、あるんですか。

俺のときは、今とおんなじスケッチブックで
ボールペンを使って描いていたんだけど、
極端なことを言えば、ぼくは1日24時間、
自分のスタイルで描き続けてやれるっていうか、
「いいよ!」っていう感じがあったわけ。
それって極端な話、24時間以上描いているやつは
世界中にいないってことになるじゃない?
24時間描いてるやつもいるかもしれないけど、
それを世界で俺もやっていけば、世界タイだって。
ずうっとやれる時間だけはこれ、自信があると。
だから、時間をかけてやっていれば絶対、って。

----24時間やるというか絵を描くというのは
靖夫さんにとって、どういうことですか?

当時会社をやめようとしていた頃って結局、
それもなんか、自分のスタイルを通していれば
通用するというか時間をかけてれば大丈夫かというか、
何か確信というか、そういうのだったんじゃないかな。

----やればやるほどおもしろくなりそうだったのですか。

客観的にどうのっていうのはわからないわけです、
まだそのはじめの頃には仕事していないわけだから。
ただ、それくらい時間をかけても耐えられるというか、
それにすごい手ごたえを感じたんですよ。
結局、絵って、続けられるか続けられないかが
分かれ道みたいなのってあるじゃない?
小学校のときにほめられた、とか、
それでずうっとやるようになった、とか。

----会社辞めたあとは羽がはえたような気分でしたか。

半分不安で半分みたいな。
あ、不安は3分の1くらいかな。
かみさんが働いていたから、
どうにかなるだろうというのはあった。
仕事はじめちゃうと、もうぜんぜん今と変わらない。
時間が自由になるから、荒川区のテニスコートで
毎日のように近所のおばさんとテニスをやっていて。

でも今、会社に勤めてフリーになってからのほうが
長くなってますね。フリーでもう18年くらいで、
会社入っていたのが16年ですから。
会社に長くいたのがいろいろな意味で
ためになってるっていうか、
あとは節目節目でタイミングよくというとこで。
だから今の若い学生とかでいきなりイラストレーターに
なっちゃうひととはまったくタイプが違うというか、
逆にいろんな表現方法を試していましたから。



これ、 前述のホイップクリーム出しみたいなので
つくってくれました。できたてで浮き出てる。


----気をつけていることってありますか。

ないけど・・・
いけるときにだーんといくしかないというか。
だからよく、いろんなひととしゃべっていて、
「何々をやりたいんですよ、時間ができたら」
とかきくと
「やればいいじゃない?」
って、思う。

----それ、いつか、じゃなくて、
   今やるものだろって思うんですか。

うん。その差だと思うよね。
もう、いけーって感じでやるというか。
ごくごく普通のひとって、その、何か
はじめるときに躊躇したり、それから、
つづけるのに躊躇しちゃったりするというか。
その差はあるよね。
例えば、軌道に乗る前って、
何の仕事でもそうだけど、特に絵の仕事なんて、
ほんとにいけるかなー?とか、
こういうので、大丈夫かなあ?って思うときがあって。
そこで立ちどまったらすぐふりだしに戻っちゃうしね。
絵なんて例えば、描き続けて、
続けていれば前に進めるけど、
止まっちゃったら、こう、
いろんな手の感じとか忘れちゃうから、
スタートに戻っちゃう。
そうすると何かそこで中断しちゃうというか。
ふりだしに戻るんだったらいいけど、
何やってもだめだっていうのを、
ぼくだったら、例えば英会話をね(笑)、
何やってもだめ、ちっともか、ってね、思うんだよ。

・・・あ、今度スペイン語やろうと思うんです。
あそこのNHKの文化センターのカルチャースクールで。

----カルチャースクールって
  何だかんだ言っておもしろそーだな。

おもしろい。
すごいよ。エネルギーがあるよね。
やってるひとたちが歳とってるからさ、
こんな楽しいことがあったのか、って。
俺なんかも、ジャワサラサの講座行ってたけど、
歳とった女のひととかすごい上手。


もちろん骸骨のジャワサラサ。
そのときカルチャーセンターでつくったもの。



上手っていうか、丁寧に時間をかければ
うまくいくんだけど、それが見事な出来栄えになって。
5年も10年もやってるようなひとばっかり。
プロのひとたちよりも、1点の作品に、
コストを度外視してやってるから。
絵とかに比べると、丁寧にやってるっていうだけで
技術的なというのはほとんど関係なく。

----ところで、趣味は?

趣味って、ひまな時間にやることだよね。
そうするとやっぱりものをつくってたり、
例えば釣りとかいろいろやってみたいとは思うけど、
それで時間とられちゃうじゃない。
これ以外にやりたいことがあったら、ばちがあたるよ。
だって、自分で
「これやってたら楽しい」
ってことを、やってるんだから。

----広告のときも、そういう感じですか。

広告の仕事のときは、ほとんどサービス業ですからね。
エンターテインメントというか、相手側、
グラフィックデザイナーだったりクライアントであったり、
そのひとたちがよろこぶように持っていかないと。
ただ、それでけっこう、相手をよろこばせるというのは、
たのしいと言うかおもしろいじゃないですか、ゲームみたいで。
プレゼンテーションは結局何案かが出てきますよね。
30社とか多いときにはそれこそほんとにいっぱいあつまって
コンペをやるわけです。そのときにコンペでどうしたら通るか。

----コンペで通るこつってあるんですか。

こつはね、あの、ちょっと手が込んでる感じにするのかな。
あの、うまいへたとかいうのはなかなか
相手もわかりにくいっていうのと、だからあの、
時間とけっこう手間をかけてるというか、それをやんないと
たくさんいろいろあつまってるコンペで通るのは、
なかなかむつかしいというか。あと、コンペって、
お金のことでもあるんだよね。印刷代のこととか。

*****!!!!

これも、イラストレーションと立体をくみあわせたわけ。



わざわざこれを立体でつくったりして、
それですぐそのコンペで、そうすると
イラストレーションだけよりもこれ立体にしてるわけ。
こういうちょっとしたうきあがってるの、そうすると、
きめるひとが何か「得した」という感じだとか。
そのかわり立体だけど、写真に撮んなきゃ行けないから、
そのお金どうするんだっていうことはありますけど(笑)。
これはコンペで通ったので、1年間
横浜の駅ビルをやることになったんですよ。


カラスのオブジェ

2000-03-07-TUE

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