千体のお気楽な骸骨たち。 田中靖夫さんの手が産み出した天然。 |
第13回 プログラムの内容は? 前々回から、このコーナーでは、 ライターの田中弘子さんにきいた、 アートにまつわる話を連載しています。 アメリカの大学で日本人を迎えるプログラムがあり、 そこに弘子さんは教師として深く関わっていました。 今は、そのプログラムについてうかがっています。 「参加されるかたの年齢もまちまちで、 高校卒業後にすぐのひともいるし、 4年制を出てきたひともいる。 日本で大学を卒業しても、なにをやったらいいのか わからないひともいるんですね。 とりあえずニューヨークに留学すれば、 何かできるかもしれないと思うひともいるわけです。 大学4年のあとに来たひとに関しては、 やっと卒業して、そのあとまた何年か 学費出すのって、よくやるなあ、 親は甘いなあ、とも思いましたけどね。 まあ、働けないからね、アメリカに来てもね。 大学が忙しくて、バイトする暇はないもん。 すごい頑張る子なんて、 1か月間風呂に入らないとかいう生活してました。 そのプログラムには、英語の授業だけで、 1日2.5時間を5回、週に12時間半あったんですね。 そのうえにアートの単位は 18クレジットまで取れましたから、 レギュラーの学生よりも、よっぽど大変ですよ。 生徒がばらばらで、おもしろかったです。 19歳くらいのひともいれば、 自分のお金で来た35才の若いおじさんも混じって」 8年間教えてると、のちのちアートの世界で ちゃんとやっていけるひとと、そうでないひとの 差をわかるようになったりするんですか? 「それは何とも言えないけど、 私は面接してそのプログラムに学生を取るときには、 いつも作文書いてもらったんですよ。1000字くらいの。 『なんでこの学校を選んだのか、なぜニューヨークか』 について、書いてもらうのですが、 その字数のなかでおもしろいことを書くひとは、 そのあとにも、おもしろいことをしましたね。 だから、文章って大事だなあ、と思いました。 頭のなかに ぜんぜん思っていることのないひとって、 やっぱりアートのほうも、こう、目立つものがない。 だから、できる学生は、だいたい 書いてもいい文章を書くひとが、多かったですね。 ベターっとした普通の文章を書くひとは、 やっぱりおもしろいこともできないんですよ。 だから、800字、1000字のなかでも 自分の世界を持っているひとは、 おもしろいことをしましたね」 ふーん、書くことは、 美術の世界ですらも重要なんですか! 「大学で教えるときも、 アートについて書くことを教えていたんですよ。 けっこう、いろいろ感じるひとが多かったですよ。 あらかじめの知識はなくても感じるひとが多かった。 学生の文章も読んでいておもしろかったですね。 そのプログラムの 後半のセメスターからは 英語で書くようになるんですけど、 はじめは日本語で書かせていました。 常に800字で書かせていまして、 800字というのが すごくものを言える空間だなっていうのは、 よくわかりましたよ。 いつも、 『アペタイザーみたいなのはやめて、 メインコースから書きはじめなさい』 と言ってました。だいたい学生って、 『今日はソーホー行って何を見た』 とか、そんなのを書く。 『それだけはやめてくれ』 ってしょっちゅう言ってました。 そうやって書くと、800字は大きい空間なんです。 文章のうまいひともいましたし、 さっきも言いましたけど、 おもしろいことをやるひとの文章は、 際立っていましたね。美文というんじゃなくて」 わかります。中身がおもしろいんでしょうね。 「そう、考えていることがほんとにおもしろい。 考えていることがおもしろくないと・・・。 文章ってみんなそうですね。 考えていないと・・・ だから、形式がいくらきれいでも、 それだけではおもしろくもなんともないんです。 スタイルの問題じゃないんですね」 おもしろさが、スタイルだけの問題じゃないことは ぼくも切実によくわかり、共感しながらきけました。 (明日につづく) |
2000-03-21-TUE
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