糸井 |
最後の部屋ですね。
ここは、新作ばかりなんですか? |
横尾 |
新作だけど、またY字路なの。
前の部屋にあったのは
夜のシーンばかりだったでしょ?
だけど、ここはちがう。
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糸井 |
Y字路ネオ! Y字路に、
新しい表現が加わったんですね。 |
横尾 |
うん、そうね。
Y子さんがY次郎になったのかな? |
糸井 |
アハ、ハハハ・・・。
Y字路って、
あれほどまでに暗ーいかんじだったんだけど、
どんどん、乗り越えちゃったんですね。
横尾さんは、暗いのがいま、嫌なんですか? |
横尾 |
というより、もっと描いていくと、
Y字路でもなくなってくるんじゃないかな? |
糸井 |
Y字路じゃなくなる?! |
横尾 |
これなんかもう、
全体がうねってるじゃない?
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糸井 |
これはもう・・・
Y字路じゃないですね。 |
横尾 |
Y字路はもう、どうでもよくなってるんじゃない?
どんどん発展させていくと、
まったく違うものに
なっていくんじゃないかしら。 |
糸井 |
それは、自分でも
わかんないわけですか。 |
横尾 |
ううーん、この先どうなるかはねぇ。
もしかしたらここで
Y字路をやめて、
また次のモチーフに移るかもわかんない。
これを続けて描くような、
なんていうのかなぁ、
「忍耐力」みたいなものがあれば、いいけども。
たいていの人はあるんだよね。
うん、たいていの人はあるんですよ。 |
糸井 |
もしかしたら「描くことが仕事」に
なっちゃった人は、
Y字路をやめないんでしょうか。 |
横尾 |
いや、ちがうな。
「芸術がすべて」みたいにして、
芸術と、自分の生き方や実生活を
いっしょにしている人が、
ひとつのものを
どんどんどんどん追究していくと思うわけ。 |
糸井 |
なるほど。
ひとつのものを
掘ってくんですかね? |
横尾 |
うん。芸術の達成を、まるで、
その人間の人格の、人生の達成だと
勘違いしてる人が
いっぱいいると思うわけ。
ぼくは、そうじゃない。 |
糸井 |
ああ、ちがいますね。 |
横尾 |
ぼくは、生活だとかなんかの「現実」の反映が
たまたま、絵であればいいと思ってるわけよ。
だから、現実がおもしろくなければ、
絵がおもしろく描けないんです。 |
糸井 |
うん。そうですね。
現実がおもしろくなければ。 |
横尾 |
でも、絵を
生活そのもの、自分自身そのものに
してる人もいるよね。
そういう人はたぶん、
私小説作家みたいになっちゃうと
ぼくは思うわけ。
そうなると、最後は自殺するかもわかんないね。
だって、そうでしょう。
芸術の問題を、実生活のなかに取りこむと
そうなっちゃうでしょう。
さらにそこに、女性がからんだりしてさ。
それで情死したり心中したりしちゃう。
だから、ぼくは芸術と自分の生活とは
切り離しています。 |
糸井 |
そうか。私小説的なかんじの、
ケツの穴の小ささのようなものは
横尾さんの絵には感じられないです。 |
横尾 |
うん。
ぼくはちがうんだよね。
我々の、この世界は、
ある意味で「色即是空」の「空」だけども。 |
糸井 |
だけど、「色」について
ものすごい好きなんだ、ということですね。
こうしてざーっと見わたすと、
この絵をもって、
たぶんY字路は終わりのような気がするんですけど、
このあとの展開はあるんですかね?
|
横尾 |
ところがね糸井さん、このなかで
いちばん最初に描いたのが、
この絵なんですよ。 |
糸井 |
あれ? そうなんですか。 |
横尾 |
ここでの展示は
端から暗い絵の順番に
たまたま並べただけなの。
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糸井 |
人はぜったいに、順路どおりに見て、
これで終わりだな、と思いますよ(笑)。 |
横尾 |
そうかもね。あれがこの部屋のなかではいちばん最初。
あの絵がね、ある日唐突にできてしまったの。
それで、次に、これを描いたの。
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糸井 |
もし横尾さんのいまの発言がなければ、
後世、絶対にこの「暗い順」で解説をするでしょうね。 |
横尾 |
そうだろうね。 |
糸井 |
あぁ、言われたからわかるのでしょうけど、
比べて見てみれば、
ぼくが「最後に描いた」って思っちゃった絵は、
まだ幾何学模様を入れるような飛躍はしてないですね。 |
横尾 |
そうだね。
幾何学模様を入れたのは、
最後のほうだよ。 |
糸井 |
色でいうと、いちばん端に飾ってある絵が
いちばんはじけてるんだけど、
「飛んでるなー」って思う順でいうと、
こういうものが最後のほうだ、という気がします。
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横尾 |
うん、うん。 |
糸井 |
屏風のような組みの絵がありますけど、
これはなにか新しい企みなのですか?
|
横尾 |
手前に突起してるのと、
向こうに消失点が2点あるっていうふうに
立体的にわかりやすいようしたんです。 |
糸井 |
なんだか、この作品には特に
怪しい気配を感じます。
次の時代をね(笑)。
横尾さんが、何かの展示用じゃないときに、
思いっきり精緻な絵を描くのとおんなじような企み。
横尾さん、バンッバン描いてますよね。 |
横尾 |
思想とか、メッセージ性とか、
そいういうのは一切ないけどね、この絵には。
そうだ。まだ、1点、絵を描いてないの。
それを明日持ってこないといけない。 |
糸井 |
まだ場所を空けてあるわけ? |
横尾 |
そう、空いてるんだよ。 |
糸井 |
言いわけなら、いくらでもできそうですけどね。
空けとくのがいいってわかった、とか(笑)。 |
横尾 |
ま、描けなきゃ、空けててもいいか。 |
糸井 |
・・・「絵を描く人」って、
その人といること自体がおもしろくなってきた。 |
横尾 |
ハハハ。 |
糸井 |
(よーく考えて)
変だ・・・変だよ(笑)! |
横尾 |
何の役にも立たないことを
やってんだよねぇ。
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糸井 |
ええっと、ここの最寄り駅は、
どこでしたっけ? |
横尾 |
木場とか?
南さんに聞いてみて。 |
学芸員の
南さん |
清澄白河駅とか、菊川です。
くわしくは、こちらを。 |
横尾 |
あんまり「都心」ってかんじのとこでもないけどね。
みなさんにぜひ来てほしいですよ。 |
糸井 |
ここまでの道案内を
したりすると来てくれるかも。 |
横尾 |
ダメダメ、ダメだよ。
それでもし途中で寄り道なんかしちゃったらさ、
展覧会の時間が終わってしまうよ。
寄り道はダメだよ。
いちもくさんにここに来なきゃ。 |
糸井 |
あ、じゃあ、あえて
「ディズニーランドより近い」
っていう紹介のしかたはどうですか? |
横尾 |
え?
そんなふうに書くと、
ふっとディズニーランドを思い出してさ、
ディズニーランド行こうっていう
気持ちになるじゃないの。 |
糸井 |
大丈夫ですよ、横尾さん(笑)。
ディズニーランドとこの展覧会、
お客さんは別の人たちですよ。 |
横尾 |
いやいや、そう書かれちゃったら、
ぼくだったらディズニーランドに行くな。 |
糸井 |
そう言われるとな・・・(笑)。
でも、こんなにたくさんのことを思える
展覧会はまずないよ。
ほんとうに来てよかったです。
ありがとうございました。 |
横尾 |
こんなにいっぺんに見れる機会は
そうそうないからね。
何度も足を運んでくださいね。
しかし、都現美(註:東京都現代美術館のこと)は
いいね。きれいなところだね。 |
糸井 |
ぜいたくなつくりの建物ですね。 |
横尾 |
ほんとにいいところだよ(しみじみ)。
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