第35回 《 旅の予感 》 |
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『たんじょうび付近は 運気が落ちるから
それをもりあげるために
みんなが集まってお祝いするんだって』
スピリチュアル的なことをあまり信じそうにない
ともだちが言うからなんとなく信憑性が高い。
思えばこの言葉に毎年深く頷いている。
そして今年もまた同じく。
せっかくの たんじょうびだから これまでの人生を
ロールケーキに置き換えて 振り返ろうとしたが
あまりに長過ぎて食べきれない。
ほんのすこし手前の “お直し” の部分だけを
切りとり 眺め 咀嚼する。
デニムの巻きスカートを作った人がいる。
最初に着ていた人がいる。
それをどこかで手に入れ つぎはぎし作品にした人がいる。
新たな持ち主になった人がいる。
いくつかの布がはがれ落ち 再びお直しが必要となり
ついにあたしのもとへとやって来た。
ひとつの穴はチクチクと運針して繕う。
布がそこにいたという痕跡のミシン糸は フレームとして残し
もうひとつの穴には モケモケのモチーフを縫い付けた。
裾に少し残った布の繊維をフリンジのようにふらし
新たに肌なじみのよい布巾を かぎ針編みと合わせて縫い付けた。
お直ししてでも着たい服があるというのは幸せなことだ。
お直ししてでも着たいと思わせる服をつくった人もまた幸せだ。
ひっそりとその間をつなぐ 名誉な仕事をあたしはしている。
反芻し終え そう思えたならば
縫い編む手の すすみが 早くなりそうなものなのに
それとこれとは話が別な様子。
そういう時期なら仕方がないとあきらめて
環境を変えてみることにしよう。
ひとり合宿に行ってきます。