永田 |
第45回を観おわりました。 |
西本 |
お疲れさまでした。 |
糸井 |
西本さんの家は日曜日はカレーですか? |
永田 |
また今週も唐突ですね。 |
糸井 |
ま、重い回でしたから、
そういうところからね。 |
永田 |
歓迎します。 |
西本 |
カレーだったかどうかということでいえば、
日曜日はカレーではありませんでした。 |
糸井 |
じゃあ、なにを食べたんだっ! |
永田 |
意味もなく怒らないでください。 |
糸井 |
怒りキャラです。
じゃあ、おまえはなにを食べたんだっ! |
西本 |
日曜日に何を食べたのかということでいえば、
炊き込みご飯を食べました。
厳密にいうと、この前の社員旅行で、
小布施で休憩したときに買ったなめ茸で、
炊き込みご飯をつくりました。
つくりすぎたんで今日のお昼ご飯も
なめ茸ご飯でおにぎりです。 |
糸井 |
なめ茸って炊き込みご飯にして、
おいしいんですか? |
西本 |
そもそも炊き込みにするかどうかは
知らないんですが、
「炊き込みがいいんじゃないか?」
と嫁に言ったら本当にそうなったと。 |
糸井 |
へえ、そうですか。
ぼくは、日曜日に久々にカレーを食べました。 |
永田 |
それが言いたかったんですね。 |
西本 |
カレーは糸井さんがつくるんですよね。 |
糸井 |
いえ、カレーはたまねぎを炒めるまでが
ぼくの仕事なんです。おいしくできました。 |
西本 |
ちなみに、日曜日の食事は、
「8時までに終わらせないとね」ということで
『新選組!』のまえに終わらせました。 |
糸井 |
源さんに備えたんですね。 |
西本 |
ええ。源さんでしたから‥‥。 |
永田 |
源さんでしたねえ‥‥。 |
糸井 |
さあ、どっからいきましょうか。 |
西本 |
CG問題じゃないッスか? |
糸井 |
え! いきなりですか。 |
西本 |
なにしろ、メールが山ほど来ましたからね。
今回は素直にCGの話題から
入ってもいいんじゃないですかね。
じゃあ、ぼくから話しましょうか。 |
永田 |
おお、めずらしい展開ですね。 |
西本 |
行かせていただきます。
まあ、とにかくたくさんメールが来て、
「マトリックス」「マトリックス」と
やたらに書かれてありました。
たしかに弾丸がスローモーションになった瞬間、
「あれ?」とは思いました。でも、そんなに
「マトリックス」「マトリックス」と
言うことでもないだろうと。
源さんが死ぬことに対して台本上では
そのような演出は
なかったんだろうとは思いますが
スタッフ全員の、
「なにか自分にできることはないか?」
という思いが凝縮されたのが
あのシーンだったと思うんです。
ぼくは、そこにぐっときました。 |
糸井 |
ありかなしかで言われると、ありだと。 |
西本 |
ぜんぜんありですよ。 |
糸井 |
なるほど。 |
永田 |
ぼくはまあ、ありとかなしとかじゃなく、
どっちでもいいというか、
「どうでもいい」という派なんですよ。
「いかようであってもかまわない」というか。 |
糸井 |
ふんふん。 |
永田 |
観たときは、「え、そう来るんだ」と思って、
別にひきずらずにそのまま観てました。
なので、メールがたくさん来たことについて
ちょっと違和感があったくらいです。
「CGけしからん!」っていう
意見がけっこうありましたけど、
「CG」っていうくくりは
ちょっと乱暴なんじゃないかなと思いました。
なにについて怒っているのか
はっきりしてないというか。
カメラワークの速度変化がいけないのか、
弾丸の軌跡が見えているのがいけないのか、
それとも、特殊効果は抜きにして、
「刀で弾をはじいた」ということがいやなのか、
そのへんがごっちゃになったまま
「とにかくCGけしからん!」
みたいになってる感じがして。
CGそのものはこれまでもあったし、
おそらく、ぼくらが気づかないところでも
使われていると思うので、
CGそのものがいけないとは
ぼくはぜんぜん思いません。
観た瞬間にちょっとイヤだったのは、
「マトリックスというほかの作品を連想させて、
観てた意識がちょっと逃げたこと」ですかね。
ま、多くの人があの場面で、
「腑に落ちない感じ」を持ったみたいですけど、
なんか、その原因がごっちゃになったまま、
「意見、言うべし!」みたいな
感じになっているのは、
ちょっともったいないなあというのが感想です。 |
糸井 |
なんて落ち着いた意見だろうね(笑)。 |
西本 |
あり派の意見として補足すると、
あれは、「マトリックス」じゃないですよ。 |
永田 |
というと? |
西本 |
源さんが迫ってくる弾を
身をのけぞってよけたら
「マトリックス」ですよ! |
ふたり |
わははははははははは! |
西本 |
(のけぞってバタバタしながら)
こんなんなって、こうなら、
「マトリックス」ですけどね。 |
糸井 |
そういう問題かよ(笑)。 |
永田 |
のけぞらなきゃ
「マトリックス」じゃないと(笑)。 |
西本 |
そうです! もしくは源さんが
鶴の拳の構えでジャンプして
カメラがぐるっと回ったら
「マトリックス」ですよ。
(鶴の拳の構えをしながら)
こうですよ、こう! |
糸井 |
わははははははは。 |
永田 |
それもう、完全に話変わってる(笑)。 |
糸井 |
ずるいよね。 |
西本 |
いやいや、あそこで源さんがのけぞったら
それは「マトリックスだ!」と
非難するに値するが
のけぞってない限り単なる技法であると。 |
糸井 |
それが西本説。
で、ありかなしでいわれるとありだと。 |
西本 |
ありですよ。 |
糸井 |
ぼくは永田説に賛成で、
「よきにはからえ」ということですね。
つくっている人がそうつくったんですから
そうかと。 |
永田 |
うん。 |
糸井 |
まあ、予告編で泣かせちゃってるくらいだから
少し散らさないとやってられなかった
という気もするんですけどね。 |
西本 |
あ、なるほど。 |
糸井 |
だから、さっき永田くんの言ったことで
集約されてるんだけどさ、
そういうことで言いたくないですよね。
正直言うと失敗だったと思いますよ。
よかったか悪かったかでいうと
ぼくにとってはよくなかった。
でも、そうしたかった人がいて
そういうことでGOしたんだから、
それはぼくら視聴者は
作り手にとって部下みたいなもんだから
そうか、ということです。
だから、なんていうのかな、
「それは違うよな!」みたいなさ、
タクシーの運転手が‥‥。 |
西本 |
プロ野球の采配を語るみたいな。 |
永田 |
ま、語っちゃう楽しさもあるんですけどね。
この雑談なんて、基本はそれだし。 |
糸井 |
でも、語られるに決まってるところで
語るのはさ、誰かに
まかしておこうじゃないかと。 |
永田 |
ちょっと思ったのは、
あの場面があったことで、こう、
「許せんスイッチ」みたいなものが
オンになってしまって、
まあ、観る人の自由ですから、
オンになっちゃうことはしかたないとしても、
もしも残りの場面で、
「あえて涙を我慢しちゃう」みたいなことが
あったとしたら、それはちょっと、
もったいないなあと思いますね。
娯楽ファンとして。 |
糸井 |
全体でいえることなんですけどね。
「許せない」というスイッチはね
なにも生み出さないんですよ。
「許せない」と決めることは
可能、不可能でいうと、
「不可能」を広げることですからね。
「可能ができない」っていうことは
全体を小さくしちゃいますよね。
ま、この話はこのへんにして、
鳥羽伏見の戦いですよ。 |
永田 |
はい。 |
糸井 |
近藤不在をこんなに上手に描けたというのは
史実かもしれないけど見事でしたねえ。
だって、ほんとに指揮系統がないんだもん。 |
西本 |
旧幕府軍はばらばらでしたね。 |
永田 |
だって、あの若い頃の加藤茶みたいな人が
旧幕府軍の指揮官でしょ。
竹中なんとかっていう人が。
この回を観おわったあとに、
糸井さんから借りた
「その時、歴史は動いた」の
鳥羽伏見の回を観たんだけど、
あの人、しょっちゅう、
戦場からいなくなっちゃうんだよ。 |
糸井 |
新選組のほうもひどいもんでしたよ。
土方が平気で持ち場を離れて
飛んでいっちゃうんだから。 |
永田 |
「ちょっと見てくる」かなんか言って。
たしかに、あれ、流れ弾にでも当たったら
どうするんだろうという話ですよね。 |
糸井 |
かっちゃんがいないと
デビュー当時の歳三に戻っちゃうんですよ。
敗走するまえの奉行所の場面でも、
バカどもが薩摩に奇襲を計ろうとしたときに
身を挺して止めるわけでもなく。 |
永田 |
修学旅行で「女子風呂、覗きにいくぜ!」
みたいなテンションでしたね、あそこ。 |
西本 |
どたばたですよね。
でも、斎藤のはしゃぎっぷりとかは、
嫌いじゃないです。 |
糸井 |
近藤のいない戦場を
そう描いたということですね。
組に勇がいないというのはねえ、
宗教でいえば、
教祖様がいないのと同じことですから。
だから、土方は
パウロじゃなかったということですよね。
勇の思っていることを
ぜんぶの人に伝えられる人じゃなくて
あくまでも土方は勇を支えてた人なんだね。
違う見方をすると、
土方ファンがたまらないのは
そういうところなんだろうね。 |
西本 |
刀が握れなくなるという診断を下した
山崎に取り乱して、
「そんなことになったらお前、切腹だぞ!」
と、軽々しく、「切腹」という
ことばを持ち出すあたりも、
近藤の代役ではないんだなという感じでした。 |
糸井 |
ひょいと「刀の時代はもう終わった」
というあたりもね。
やっぱり土方は剣にすべてを賭けるような
剣術マニアじゃないんだよね。
彼にとっての剣は、
「捨てられる剣」なんだよ。
「オレに剣術を教えてくれ」と言ってたけど、
ないがしろにされた自分から
はい上がるための手段なんだよね。 |
西本 |
出世のための道具なんですよね。
いまでいえば、MBAみたいな感じで。 |
永田 |
近藤不在といえば、前半のところで、
「局長の仇を討つ!」というので
全員が立ちあがって
源さんに止められるシーンがありますよね。
あそこは、源さんの存在感もさることながら、
久々に、土方を含めた隊士たちの
目的意識がはっきりとして、
一致団結するさまが清々しくもありました。
というか、これまで、いかにあの人たちが、
すっきりしない目的のままに行動していて、
もやもやしていたのか、ということが
浮かび上がった気がして。 |
糸井 |
「局長がやられた!」ということで
久しぶりに明確になったんだよね。
それは、やっぱり新選組が
ものすごく狭い集団なんだともいえるね。 |
永田 |
そうですね。国を思うという大義では、
じつは隊士ひとりひとりは
リアリティーを持てないわけですから。
だからこそ、近藤の存在が大きい。
あそこで、近藤の代役をするのが、
土方じゃなくて、源さんなんですよね。
だから、その源さんも
いなくなっちゃうというのは
新選組にとって痛いですよねえ。 |
西本 |
糸井さんは以前、
「源さんというのはとにかく
剣道が大好きな人で、
剣道の喜びを体現している人だったらしい」
って言ってましたよね。
今回は「源さん、死す」という
タイトルでしたけど
「源さん」というところを
「剣」と入れ替えると
今回のテーマが大きく見えてくると思いました。
つまり、「剣の時代=幕府の時代」が
本当に終わったということで、
今までは政治の世界でしかなかったものが
表に見えてしまったということを
源さんの死を通して伝えたかった
という回なんじゃないかと思いました。 |
糸井 |
思い知らされたというか、
本当に「剣」が死んだというか、ね。
だって、勝てる理由が見つからないもんね。
憂さ晴らしのように斉藤が斬りかかったり
照英が材木を投げたりしてたけど、
どちらかというと「本当の強さ」じゃなくて
子どもっぽい集団のように描かれていたね。 |
永田 |
ただ、全体としては、どうなんでしょう。
史実云々じゃなくて、ぼくは今回、
ドラマ全体がとっちらかっちゃったな
という印象があって。
なんか、落ち着いて観られなかったんですよね。
たとえば、いつもって、
観てても時間が気にならなくて、
「次回予告」っていう文字が出て
ほおっと息をつくみたいな感じなんですけど、
今回はこう、ドラマの盛り上がりと
自分の盛り上がりが
うまくシンクロしなかったというか。
鳥羽伏見の戦いの、敗走する感じと、
現場での数日の時間経過が
自分のなかでうまく
つかめなかったという感じがあって。 |
糸井 |
もっと刻んでほしいということですかね。
追いつめられかたをもっと
グラデーションで描いてくれたら
いいのにと思うんです。
ただ、そういう混乱ぶりも、
近藤がいないせいだと思ったほうが
オレはいいと思っているんですよ。 |
永田 |
え、その混乱した伝えかたですら、
近藤の不在を表すということですか。 |
糸井 |
ということもいえると思うんです。
つまり、永田くんが鳥羽伏見の敗走を
うまくつかめなかったというのは、
土方たちが追いつめられていく感じを
情報化できていなかったということですね。 |
永田 |
ええと、はいはい、そうですね。 |
糸井 |
それが、土方たちの感じた、
鳥羽伏見だったのかもしれないんですよ。
逆にいうと、追いつめられ方が
描けているということは、
隊士達が自分達が置かれた状況と
敵の状況を判断できる情報として
確実にとれているということじゃないですか。
それがまったくできてませんよ、
という話ですよね。
まあ、そこは地図でも画面に出したりして、
視聴者にだけは情報を整理して
伝えるという手もありますけど。 |
永田 |
ああ、そうですね。
ぼくが望んでるのは、そういう、
教育ビデオみたいな情報把握じゃないですね。 |
糸井 |
だから、最低限、
いつものように日付だけを出して、
いまどこでどう戦っているのか
わからないままにしたんじゃないですかね。 |
永田 |
なるほど、そういう解釈があるとは。
今回って、全体にいえるんですけど、
その、源さんの例の場面をふくめて、
つくり手の「あえてそうしてる感じ」
っていうのが随所にあるような気がします。
というのも、みんなが納得するようにも、
できたと思うんですよ。
つまり、『太陽にほえろ!』の
殉職の回のようにきっちりつくるという。 |
西本 |
ああ、そうですね。 |
永田 |
すっごく単純なところでいうと、
源さんが倒れる場面を、
夜というか、もっと暗くして、
ドラマの時間帯のもっと後ろにもってくる。
今回、思い入れある人が死ぬ時間にしては、
明らかに前すぎますから。
そのふたつでずいぶん殉職風になる。
でも、つくり手は
そんなことは百も承知のうえで、
そうはしないんだと決めて、
つくっていったんでしょうね。 |
糸井 |
つまり、源さんの死と、
鳥羽伏見の戦いを両方を描いたんですよね。
もっというと、その両方があるという
混乱を描いたんでしょう。
たとえばこの回に
「鳥羽伏見、敗走!」というタイトルを
つけることもできたと思うんですけど、
それだと源さんがワン・オブ・ゼムになって
いなくなっちゃいますからね。
だから、大きなセットをつくって
鳥羽伏見を描きながらも、
「源さん、死す」というタイトルをつけて、
源さん側の物語にしちゃったということで
歴史的に大きい物語の方を
「たかが」という風に見せる。
そういう視点があったような気がするね。
たとえば、その意味では、
「旗の扱いにみんな注目してね」というくらい
あからさまに色んな旗を見せてましたよね。
ようするに、そんなもんよと。
そういう「戦」の扱いに比べると、やっぱり、
おにぎりを配っている源さんの姿こそが
今回のタイトルなんですよね。
そこのところを描いたんでこういうかたちに
なったんじゃないですかね。 |
永田 |
なるほどー。 |
糸井 |
で、自分の感想になりますけど、
今回、ぼくがすごいなと思ったことのひとつは
近藤なんですよ。
今回、初めて近藤が政治をやったんですよ。
今まで一切、政治をやってこなくて
要するに火事場があったら飛び込むような
生きかたをしてきた近藤が、
「錦の旗がなんです!
勝てば取り返せます!」と言ったという。
あれは大変化ですよ。 |
永田 |
たしかに。これまでの近藤は、
ややもすると平和主義一辺倒、
みたいな感じでしたけど、
今回のひと言で変わりましたよね。 |
糸井 |
あれは近藤が休んでいたがゆえに
言えたと思うんだよ。
つまり現場にいたらあれは言えないと思う。
納得のいかない選挙を強いられて負けそうだ、
っていうときに
「投票箱を燃やしちゃいましょう」
というような話じゃないですか。
あのリアリズムを近藤が言ったということは、
ある種、これまでの近藤が終わったとも
いえると思うんです。
刀の時代が終わったと同時に、
近藤の魂も終わっていて、
鉄砲で撃たれたのと同時に
違う人になっているんですよ。
大阪城にいたんじゃ近藤勇じゃないんだよ。
そこは個人的にショックでねえ。
近藤と土方が離れたら
そっくり入れ替わっちゃった、
みたいな感覚があるんです。
ふたりでいるときには役割がしっかりあって
なにを演じればいいか
わかり合っているという関係だったのに。
だから、近藤を撃ったあの鉄砲1発が
どれほど大きいかということですよね。 |
永田 |
それは、あの近藤の進言が、
正しいとか正しくないとかいうことでなく。 |
糸井 |
負ける側の船に乗っているときは、
正解なんて出ないですよ。
あえて言うなら、結果論としての正解は
徳川慶喜なんじゃないですか。 |
西本 |
「逃げる」と。見事な切り替えでしたね。
しかも、近藤の進言を聞いた
すぐあとのシーンでしたからね。
「決めた」と。 |
永田 |
あの人が「決めた」と言うときは
ろくなことがない(笑)。 |
糸井 |
近藤がカマキリ将軍を
説得できなかったともいえますよね。
つまり、あそこで進言した近藤は、
「政治」としての発言だったんですよ。
その近藤は、慶喜にとっては弱かったわけです。
それを三谷さんが意図して書いていたとしたら
ものすごいなと思いますね。
意図したかどうかわかりませんが、
ぼくはそんなふうに感じたわけです。
つまり、ついに近藤が政治をした。
ところが徳川慶喜は、
「その政治のレベルじゃ
オレは説得されないぞ」と感じた、
というふうにとれるんですよ。
甲子太郎が自分の心をひっくり返したときと
正反対ですよね。あそこでの近藤は
政治じゃなかったじゃないですか。
あの説得は、「命をかけてる」んです。
ところが、今回の進言は
「命をかけてる」んじゃなくて
「対面をかけてる」。
自分の戦いじゃなくて他人の戦いだから、
政治ができちゃう。このあたりはねえ、
三谷さんがどういうふうに考えたのか
あとで聞いてみたいね。ぼくには、
「近藤が初めて政治家になったけど、
それはいいことなのか?」と思えるんです。
将軍は言うだけ言わせといて
心をひっくり返しにしたでしょ。
近藤は、勝てなかったんですよね。 |
西本 |
近藤からの提案というかプレゼンですものね。
で、そのプランに諸葛孔明のような
根拠があるのか? といえば、そうでもない。
「とにかく勝つんだ」と。 |
糸井 |
「私は負けたことがありません」と、
それだけだよ。 |
西本 |
ふつう、あのくだりだと
「近藤、よくぞ言った!
すぐに攻めるのだ!」
と攻撃に入るはずなんですけど
そうはならなかった。 |
糸井 |
ようするに、「私はバカじゃない」
という発言になっちゃったんだよ。
「バカのほうがなにかを変えるじゃないか」
と相手に思わせて、通じさせてきたのが
これまでの近藤勇のおもしろさなんでね。 |
永田 |
うーん、ぼくは、近藤の変化というより、
近藤の真っ直ぐさでも通じない、
「慶喜の非常識さ」、ひいては、
「将軍という職業の特殊さ」を
表しているように思えました。
これまでの手法では
「どうやってもダメなんだ」という
見せかたで、慶喜という
「おかしな将軍」を表現しているような。 |
糸井 |
だけど、それだったらもっと、
わからずやに描いたほうがいいんですよ。 |
永田 |
あああ、慶喜を。 |
糸井 |
うん。でも、慶喜はいちおうは、
近藤の話を聞いて、判断してるからね。 |
永田 |
たしかに、これまで近藤が
「命がけ」で説得してきた相手って、
狭い世界のなかでの敵でしたからね。
慶喜にくらべたら、身内ともいえる。 |
糸井 |
それは政治ではないよね、やっぱり。
あと、これはまあ、近藤勇というより、
香取くんをほめたいんだけど、
ほんっとにSMAPの香りが抜けてるよね! |
西本 |
ああ、そうですね。
NTTのテレビ電話のCMとかで
香取さんを見かけると
軽すぎて違和感を感じるくらいですからね。 |
永田 |
ぼくはあの、
冒頭のところがすごいなと思いましたよ。
撃たれて、ひとりで奉行所に帰ってきて、
廊下を歩いてくるところのうつろな感じ。
なんていうか、下から移したあの表情が、
「ぶおとこ」に思えたんですよ。
いままでって、すごみとか重みとかあっても、
絵としては「二枚目」の枠で
収まってたじゃないですか。
けど、ぼうっと廊下を歩いてくるところは、
「アイドルとしてはNG」
みたいな顔だったんですよ。
でも、それがすごくオッケーじゃないですか。 |
西本 |
そのあとの、肩から弾を取り出すところも、
ちょっとしたもんでしたよ。
背中の筋肉を動かすことで
痛さを表現してたのがよかったなあ。 |
永田 |
さすが、インナーマッスルを
鍛えてる人の視点ですね。 |
西本 |
筋肉は、観ちゃいますね。
こっちの肩をいじられるとき、
こっちの背中がぴくっと動くんですよ。 |
糸井 |
もう、バラエティーのにおいなんていうのは、
とんじゃってますよね。
ぼくはSMAPがどれだけ忙しいかということを、
ちょっとくらいは知ってるつもりですけど、
あれをやっているあいだに
『スマスマ』とか『スマステ』だとか
さまざまは「スマなもの」をやってて、
それで隙間を縫うように大河のスタジオに
やってきてるわけですよね。
その時間のとれないなかで、
「バラエティーっ気」みたいなものを
削ぎ落として、近藤をやってるのはね、
やっぱりすごいというか、びっくりしますよ。 |
西本 |
役どころのほうでいうと、
今回の近藤の出世ぶりはすごかったですね。
永井さんが急いで報告にくるあたりなんか。 |
永田 |
あの走ってくるところ、すごかったね。
最初の伝令の人より明らかに速い。
ずいぶん後ろから走ってきたということかな。 |
西本 |
めちゃめちゃ焦ってましたよね。
しかも、近藤に江戸の情報を
伝えに来たというだけですからね。 |
糸井 |
立場が逆転してるよね。 |
西本 |
さらに容保公の相談。 |
永田 |
時代が緊迫してくるにつれ、
容保公の「ぼっちゃん要素」が
浮き彫りになってきてますよね。
「これは先の帝に賜った衣でつくった
陣羽織ではないのか?」って、
そりゃそうなんだけどさ。 |
西本 |
佐々木サマだけが生き生きとしてましたね。 |
糸井 |
ぼっちゃん系の多い旧幕府側のなかで、
ひとり、丸太棒みたいな。 |
永田 |
せめてあの丸太棒が、
前線ではなく指揮系統のトップに
いてくれたら戦略も立てられるんでしょうけど。 |
糸井 |
ばらっばらだからねえ。
土方だけじゃ軍を引っ張ることはできないし。
土方ファンはこのところさみしいだろうね。 |
西本 |
そうですかね。 |
糸井 |
だって、いままで、
ぐいぐい引っ張っていたわけじゃない。
法度を厳守させたり、西本願寺に引っ越したり、
すごいことになっていたわけよ。
それが今や源さんが死んで大泣きしてたり、
「この戦、負けだな」なんて言ってたりして。 |
永田 |
土方ファンも2種類いるんじゃないですか。
新選組を仕切る土方と、
純粋な山本土方のファンと。 |
西本 |
ぼくは山本土方のファンなので
今日なんかは最高でしたけどね。 |
永田 |
あ、そうだよね。
溜飲が下がるような感じで。 |
糸井 |
ああ、そうかー。 |
永田 |
前半の「切腹だぞ!」って
近藤を思うあまり取り乱してしまうところとか、
「早いな!」っていうツッコミだとか。
たまんない回じゃないですか。 |
糸井 |
あれ、そうなのか。
おれ、けっこう、土方ファンだったんだけどな。 |
永田 |
だから、糸井さんは両方ないとダメなんでしょ。
ぐいぐい新選組を引っ張る土方と、
子どもみたいな顔で泣くような土方と。 |
糸井 |
ぼくにとっての土方はね、
いうなれば、
「ベビーフェイスの悪魔」ですよ。 |
ふたり |
「ベビーフェイスの悪魔」(笑)! |
糸井 |
ええ。 |
西本 |
「ベビーフェイスの悪魔」ですか‥‥。 |
永田 |
まさか「源さん、死す」の回で
そんなフレーズが出てくるとは‥‥。 |
糸井 |
「ベビーフェイスの悪魔」が
ぶんぶん日本を振り回す感じがよかったんだよ。
具体的にいうと、土方がいちばん強いときに
山南さんが死んで、
顔を崩して泣いていたときは
ドッカーンだったんだよ。 |
西本 |
「ドッカーン」ですか。 |
糸井 |
「ドッカーン」ですよ。 |
永田 |
なるほど。そのへんの土方には、
厳しい仕切りとベビーフェイスと
両方がありますね。 |
糸井 |
うん。だから、今回のように
為す術もない土方というのは、
源さんに対して泣いていても
切ないだけで、
「ドッカーン」とはいかないんだよ。 |
永田 |
いや、だからその切なさが
いいじゃないですか。 |
西本 |
この使い方が正しいのか
いまいちわかんないですけど
「土方萌え」じゃないですか。 |
糸井 |
「萌えない」よ! もっとつっぱってくれ! |
永田 |
ほんとに両輪がないとダメなんだな(笑)。 |
糸井 |
だから、オレは土方が
けっこう深く好きなんだよね。 |
永田 |
そういうことになりますね。 |
糸井 |
いまは筋肉が出てないんだよ。
ベビーフェイスだけじゃ泣けないんだよ。 |
永田 |
ぼくは今回、土方の泣き顔だけで
簡単に泣けちゃいましたよ。
ぽろぽろ泣きながら、
あっという間に泣けたなあって
自分でちょっと思ったくらい。 |
糸井 |
土方が泣いているというだけで? |
永田 |
というか、これまで観てきた
蓄積というか歴史があるじゃないですか。
40何回ぶんの『新選組!』を観てきて、
血だらけの源さんがいて、
それを泣きながら抱く土方がいるんですよ?
「局長も総司もいないのに
なにやってんだよ!」って
くしゃくしゃになって言うんですよ?
もう、それだけで、十分ですよ。
我ながら簡単な構造です。 |
西本 |
ああ、これさえあれば
何杯でもご飯たべれるわ、みたいな。 |
永田 |
ぼくはあの場面が
『ひょうきん族』と
『ごっつええ感じ』のあいだに
5分間番組として入っていても
泣けるんじゃないかと思いますよ。 |
西本 |
『ひょうきん』と『ごっつ』の
おもしろサンドイッチに
はさまれても簡単に泣けると! |
糸井 |
バカなんじゃないのか。 |
西本 |
バカなんじゃないのか。 |
永田 |
バカなのかもしれない。 |
糸井 |
話は戻りますけれど、
どうやら、ぼくは土方については、
コクのある好きさだったんですね。
この『新選組!』というドラマは
近藤じゃなくてほんとうは
土方の物語だなとも思えるんですよ。
まあ、分けるとしたら、
「新選」が近藤で、
「組」とついたら土方の話だなと。 |
永田 |
また不思議なことを言い出しましたね。 |
西本 |
うかがいましょう。 |
糸井 |
「組」をまとめるのが土方の物語なんです。
でも「新選」というシンボルが必要なんです。
それで、土方にとっては近藤が必要なんです。
そういう物語がすごくおもしろいなと思って
これまで観てきたんだけど、ここにきて、
どんどん「組」成分が減ってきてて、
「新選」成分が増えてきているわけですよ。
ぼくはいままで土方ファンだとは
公言しなかったけど、これはね‥‥。 |
永田 |
コクのある土方ファンとしては。 |
糸井 |
痛いんだよね。あの、山本さんが、
以前、それこそ、土方が
隊士をどんどん切腹させて
ぶいぶい言わせていたようなときに、
演者が集まった飲み屋かなんかで、
「みんな、オレを殺せばいいんだよ!」って
言ったらしいんだよ。 |
西本 |
ええ、そういうエピソードがあるそうですね。
「オレを殺せば、丸くおさまるじゃないか」
って、土方として、叫んだという。 |
糸井 |
熱い話だよね。ま、山本くんの熱さはさておき、
いまの土方だと、
そういうことが言えないと思うんだよ。
あのころの土方は、存在が大きかったからこそ
「オレを殺せ!」って言えたと思うんだけど、
いまはそれほどの存在じゃないんだ。
「組」の成分がドラマに足りないんだよ。 |
西本 |
それは、山本土方のファンとして、
すごく、わかります。 |
糸井 |
にしもっちゃんは性格が弱いから
土方が好きなんですよ。
「ぼくは、彼の進む方向が
間違ってたとしても土方ですね」
と言いたいわけでしょ?
でも、それがいま、
なにもできてないじゃないですか。
このままで終わっちゃうかも
しれないじゃないですか。 |
西本 |
そうですね。だからこそ、
ぼくは五稜郭での土方が観たいんですよ。 |
永田 |
あ! なるほどね! |
西本 |
土方が洋服姿になって、
近藤から離れたところで
どんなことをしてたんだろうってことが
興味がありますね。 |
糸井 |
そうだね。だから、三谷さんが、
もしも「その後の土方」を
描きたいんだとしたら、
それは終盤の土方がきちんと
描ききれなかったから、
もしくは、あえて描かなかった
からじゃないかと思うんだよね。 |
永田 |
はっはぁー、なるほどなあ‥‥。
たしかに、「その時歴史が動いた」を観ると、
史実の土方のほうがよっぽど働いてますよね。
作戦もどんどんたてていくし、
勝利寸前まで薩摩を追い込んだりもしてる。 |
糸井 |
だから、いまの土方は、
三谷さんがあえて、ああしてるんですよ。
ま、土方の話はこのくらいにして、
最後にもう一度、源さんの話をしましょうか。 |
永田 |
幽霊として戻ってくる源さん。
あのファンタジーは、ぼくは大好きです。 |
糸井 |
あなたそういうの好きですよね(笑)。 |
永田 |
もう、ああいうのを観られることが、
ぼくにとってのドラマを観る意味です。 |
西本 |
幽霊ものとしては『北の国から』での
いしだあゆみさんが
いちばん印象に残っていたんですけど
ちょっとそれを超えましたね。 |
糸井 |
ぼくにとってのは最高の幽霊ものは
小説の『鉄道員(ぽっぽや)』ですね。
でもまあ、あの場面は、
幽霊がどうこう言うよりも、
源さんがよかったんじゃないですかね。 |
永田 |
そう思います。2回目は、
純粋に小林さんの演技だけを
集中して観ていたんですけど、
1回目よりも泣けました。 |
糸井 |
舌をぺろっと出すところとか、
よかったよねえ。 |
永田 |
よかった。あと、あの、
すべてがあふれ出すかのような、
「‥‥楽しゅうございました!」
っていうセリフです。
あれは、『新選組!』を
ぜんぶ観おわったあとで
名ゼリフをいくつか選ぶとしたら、
ぼくは必ず候補として入れます。 |
糸井 |
楽しかったんだよね。きっとね。
人生、長い短いじゃないなというのを
あんな説得力をもって
観させてくれたというのは
あんまりないよな‥‥。 |
永田 |
そうですね。死んじゃったけど、
ほんとに源さんは楽しかったんだろうと、
そう思うんです‥‥あ、ちょっと、
話してると泣けるので、やめますが(笑)。 |
西本 |
惜しむらくは江戸に帰りたかったと。
ちょっとのつもりで
京都に来たはずだったんですよね。 |
永田 |
近藤の「ここまでつきあわせてしまって」
っていうのもよかったなあ。
あそこは、香取さんも、
すっごくよかったですよね。 |
糸井 |
源さんって、新選組のなかで唯一、
「侍になりたい人」じゃなかったんですよ。
あの人は、剣道が好きで、
ご飯やお茶を準備するのが
好きな人だったんですよ。
その人がお侍さんの役をつきあいでやって、
死んじゃったから悲しいんだよね。
それはね、みんなが源さんのなかに
「女性」を見ているんだと思う。
そういう人が計らずも命を落とした物語だから
悲しいんじゃないですか。しかも、最後に、
「たのしゅうございました」と言ってね。 |
西本 |
‥‥あと、4回ですか。 |
ふたり |
あと4回だねえ。 |