darling、墓まいる。 地味で静かな正月特別企画。 |
第2回 青山霊園では反省する。 新年あけましておめでとうございます。 いつからはじまるんだ、と お思いの方もおられましたでしょうが、 唐突にはじめてみました。 元旦。 つまり1月1日。 2004年の第1日。 予定どおり、青山墓地に行ったのであります。 ただしくは「青山霊園」というんですね。 実は、この広大な霊園、ほとんど毎日のように ぼくは訪れているのです。 1月2日の「今日のダーリン」でもふれていますが、 ブイヨンさんの散歩で、墓の間を迷路遊びのように 歩いたり走ったりしているのです。 しょっちゅう目にする墓というのが、 「小村寿太郎」という昔の外務大臣の墓で、 これがものすごく立派なんです。 この墓のあたりには、軍人さんの墓が多いんですが、 軍人系は、だいたいご立派な墓ですね。 死ぬことさえ仕事のうち、という職業の人たちですから、 残った人たちが 墓を立派にしなくてはいられないのでしょうね。 死んでも立派に祀られるという背景があると、 仕事上の死を恐れにくくなる というようなこともあるかもしれない。 そんなことを思っているうちに、 墓ってのは、おもしろいなぁと思ったわけでして。 いろんな人のお墓をお参りしてみようということに、 なったわけでした。 しょっちゅう、足を運んでいる青山墓地には、 どうやら、誰もが知っているような人物のお墓が、 たくさんあるらしい。 誰のお墓にお参りしたい、ということではないのだけれど、 自分で探せる範囲で、「ああ、この人の」というお墓を 見つけて手を合わせてみようということにしました。 正月でひまでしたから、カミさんに助手をしてもらえます。 もちろん、ついでに犬の散歩もできますね。 カメラがわりにケイタイを持ち、 まず、見つけたのが「赤星家」の墓でした。 大きな墓石と、ひとまわり小さな墓石とふたつあります。 「赤星」というちょっとめずらしい姓で思い出すのは 実業家にして、日本のバタ臭い遊びの開祖のような人物、 「赤星鉄馬」であります。 この人が日本の「芦ノ湖」にブラックバスを移植したのが、 そもそものバス釣りの始めという歴史があります。 赤星家の墓に、「鉄馬」という文字が刻まれていないか、 ぼくは目を凝らしてみました。 すると、まぁ、すぐにありました。 「鉄」の字は旧漢字の「鐡」でしたが、 はっきりと、「鐡馬」の文字が。 『ブラックバッス』という本の編集者の福原毅さんが、 「青山墓地に赤星鉄馬の墓があるらしいので参りたいが、 見つけられなかった」と言っていたのを思い出しました。 次は、「志賀直哉」の墓があるというあたりを、 少し探しました。 これは、わりあいに早く見つかりました。 ファンが無闇に来たりするのがいやなのかもしれません、 志賀家の他の方々といっしょに、 生垣に囲まれるようにして眠っていました。 ぼくは、志賀直哉のよい読者だというわけではないのです。 志賀直哉というと、吉本隆明さんが、 「文学の才能があるという意味では、志賀直哉」という 言い方をしていたのが、妙に記憶に残っています。 また、どうでもいいことなのかもしれないけれど、 木村拓哉くんの「哉」は、志賀直哉の「哉」から もらったのだという話です。 きっと木村くんのお父さんが、 志賀直哉に感動したことがあったんでしょうね。 そのくらいのことしかないのに、 あらためてお参りするというのも、やや心が痛みます。 もうちょっと、他の人のお墓も探してみました。 玄洋社の「頭山満」のお墓が見つかりました。 この人の名は、小説『ドグラマグラ』の著者、 夢野久作を知ったころに、 その父杉山茂丸関連で目にしたのが最初でした。 いわば、歴史的な国粋主義者のお墓ですから、 元旦から、新しい花が供えられているのも さもありなんという感じです。 とんでもない大物、というような伝説の人ですが、 墓はそれほど大げさなものではありませんでした。 これも、本気でお参りするのは失礼な気がしました。 こんなふうに有名な人のお墓を探すのが、 目的だったのかというと、そんなつもりはなかったわけで、 じゃぁなんだったんだと言われたら、 もう少し「いいこと」考えていたような気がするんです。 こう、いまの時代を生きている人たちと、 昔を生きていた人たちは、つながっているんだというような リアリティが、感じられたはずだったんです。 しかし、いざ、ほんとうにやりはじめてみたら、 たんなる観光地巡りみたいな感じになっていました。 でも、もうひとつくらいは、ということで、 外人墓地方面に行ってみました。 日本以外の土地で生まれた人たちが、 この日本で墓を立てられるまで生きたということに、 なんだか不思議な感慨があったのでした。 で、「エドワルド・キヨッソーネ」の墓に。 明治時代にお札や株券なんかの印刷技術を持った人として、 明治政府に雇われた外国人です。 自分が版画家でもありましたから、 日本の浮世絵にも強い興味をもち、 たくさんの浮世絵を収集していました。 その収集品の展覧会を、ぼくも見たことがありますが、 そりゃぁすごいコレクションでした。 展覧会を見に行ったということでは、 多少、ぼくも縁を感じないでもない人でした。 しかし、わざわざお参りするというほど、 キヨッソーネのことを考えていたことはございません。 そんなわけで、近所だから、散歩コースだからといって、 青山霊園に墓参りというプランは、 なんかハンパなものになってしまいました。 そうこうしているうちに、日も暮れてきて、 誰なんだかわからないけれど、 とても「真面目」らしい人の お墓の写真を撮らせていただいて、帰りました。 青山霊園には、たくさんの偉人や有名人のお墓があります。 だからといって、その墓に参るかどうかは、 やっぱり、縁の深さに関わると思うのです。 うーむ、墓参りを、ちょっと自分、甘く見たでありました。 次回は、墓の前でしっかりと手を合わせたい人のところに 行くことにします。 ちょっと、あてはあります。 |
darlingへの激励や感想などは、
メールの表題に「墓まいる」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。
2004-01-02-FRI
戻る |