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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

When I'm sixty-four その1
自分の夢は幾ら?


ノリスケ 老後のことを、僕はたぶん、
いちばん考えてないと思いますっ。
『婦人公論』読んで思った。
つねさん あらどうしたの、反省して。
ジョージ 誰も考えてないんじゃないの?
ノリスケ そんなことないはずよ。
「僕らを襲うのは容赦のない老後」って
言ったのは、あなただもの。
つねさん そっか。
ノリスケ 老後は、男女関係なく、
パートナーがいるいないに関わらず、
仲のいい仲間で集まって暮らしたいねって
いう話も、前、してたじゃない。
自分の老後は自分でめんどう見たいと思いながら
お金をちゃんと貯めた人たちで集まって、
コーポラティブ・ハウスのようなホーム、
ケア付きのを一棟を、
まるごと買ったらどうだろうって話。
本気なんでしょう? ファンタジーなの?
ジョージ うん、わりと本気だよね。
本気なんだけど、だ・け・ど、ん〜、
どうなんだろうな〜。
…老後。…老後。年を取るということ、ね。
ノリスケ ちょっとは(年)取った、よね?
ジョージ うん、取ったよ〜。
僕は、カワイイ、カワイイ男の子だった時代から、
もう20年も経ったんだもん。
今もカワイイけどっ。
つねさん 生意気ねえ。あなたって、
自分の価値を絶対にもってるのね。
相対じゃなくて。
ジョージ その、かわいくてかわいくて仕方がなかった、
その20年前と、おんなじ20年が経つと、
僕、60歳になるんだよ!
……老後って、いくつから老後って言うの?
ノリスケ 定年したら……ていうか、仕事をリタイアしたら。
つねさん もう、ぼくらの仕事って、どうなんだろう?
すごい線引きづらいとこってあるじゃない、
3人とも。
ノリスケ いわゆる「サラリーマン」ではないからね。
でも、ジョージさんは、経営者として、
ある意味リタイアするって線引きする日が
来るんじゃないの?
ジョージ んー、そっかー。たぶんあれだね、
「新たなものを生産しなくなってから」が
老後なんだろうね。
ノリスケ うん。
ジョージ たとえば、働かなくなるから
老後を迎えるんではなくって、
収入がなくなるから老後になるんだよね。
ノリスケ ってことは、ちゃんと自分の生活費が、
資産の中から生まれてくように計画してる人は、
老後がおとずれない?
ジョージ いやいや、それも老後だよ。うん、だって、
貯金が絶対増えないもの。これは老後だよ。
つねさん あ、じゃ俺、すでに老後かな?
ジョージ それは、増やさないだけであって、
増えないわけではない。
つねさん (笑)あ〜れ、すいません。
ジョージ で、おんなじ生活をずーっと
維持しているのであれば、
働いて収入があるっていうことは、
貯金が増え続けることなんだよね。
それでも貯金が増えないのは、
自分の好きなことにお金を使って生きているから
貯金が増えないだけであって。
だけど年を取ったら、
年を取って仕事を辞めて?
老いていくということは、もう、ねえ?
自分の今までの蓄えで
生きていかないといけないのが
老後なんじゃないの?
つねさん ん〜。
ジョージ で、それは、おそらく僕たちは、
そうなってみないと
絶対その時のことってわかんないよ。
失業したことある人いる?
つねさん 失業? リストラとか?
ノリスケ 会社を辞めたことはあるよ。
働いてない時期はあった。
でもリストラみたいにして
辞めたわけじゃないよ。
ジョージ 来月の収入が無いかも知れないんだけど、
今日生きてかないといけない時って、どう思った?
ノリスケ なんとかなるか、と思ってやってた。
ジョージ そうだよね〜。いつかもう一回
仕事ができるから、って思うからなんだよね。
でも、年を取ると、
次の仕事がなくなって辞めたまんまだよね。
つねさん そうだね。
ジョージ ね〜、すごいよね〜。なんかね〜。
つねさん 老後とかって考えたことなかった。
60になった自分っていうのを
想像したくなかったっていうか、
想像したことないっていうか。
もう、そのぐらいになったら死んでもいいや、
みたいな。極論だけど。
ノリスケ 60の知り合いがいないんで、具体的にね、
こういう60は、いいじゃない、
かっこいいじゃない、っていうような人がいない。
けど、かっこいい50はいるんだよ、まわりに。
そこまでは想像できる。
でも50って、ぜんぜん現役だものね。
老後のサンプルにはならないのよね。
ジョージ そっか、そっか。あのー、あれだよね、
会社経営してる人と、会社で働いている人の
いちばんの違いっていうのを、
一回考えたことがあってね。
でね、会社経営してる人ってね、
一生収入が無くならないと思ってるんだよ。
で、引退しても、会社から
お小遣いをくれるようなかたちにして
引退しようと思うから。
ノリスケ 相談役とか。
つねさん そうそうそう、そうするとね、
ものすごく生き方が甘くなってくるの。
で、会社勤めしてる人っていうのは、
いつか収入がゼロになることを、
もうわかっているから、
収入がゼロになる日をスタートにした人生を
考えないといけないんだよね。
つねさん あ〜。
ジョージ で、それをたぶん、
昔の言葉では「老後」って言ったんだと思うんだ。
60で会社を辞めて給料を貰えなくなって、
65か70で死んでいった
昔の人たちっていうのは、
5年から10年くらいの老後じゃない?
だけど今は、現役で元気があって、
旅行もどんどん行けて車も運転できるのに、
収入が無くなってしまう人が
いっぱいいるんだよね。
で、それを老後って言っていいのか
どうかっていうのは、よくわかんないんだけど、
でも、老後なんだよね。昔風の考え方でいうとね。
で、ん−、どゆのかなー、
毎日毎日楽しく面白く生きていくことも
大切なんだけど、その、たまには、
いつか自分は収入がゼロになってしまって、
今までの蓄えを崩していくことで生きていく
新しい人生を迎えないといけないと思って
生きていくことは大切だよね。
で、おねえちゃまたちには、
これがいちばん欠けてるんだよね、
なんか知んないけど。
つねさん あ〜、確かに、欠けてるわ。
ノリスケ 自分に欠けてるもの。
そろそろ変えたいなと思っては、いるのよ。
つねさん 僕も。
ノリスケ ただ、そんなの別に、自分でえいやーと思って
変えないからさ。なんで変えないのかな?
って思うんだけど。可処分所得が多いから?
つねさん うん、多い。
ノリスケ つまり、同世代で、同じ収入のある
友だちがいるとして、
そいつが結婚して子供がいる、
あるいは家のローンがあるとか、
いろんなこと考えると、
ぼくらは明らかに使えるお金は多いんだよね。
つねさん うん。
ジョージ ただ、それだけが問題じゃないんだよ、多分。
「人生のことを相談する相手」がいないから、
気付かないだけなんだよ。
で、結婚するっていうことは、夫婦二人でもって、
人生のことを相談するわけじゃない?
つねさん そっか。
ジョージ 毎日毎日相談するわけじゃないけど、
たとえば子供が一人生まれたら相談するんだよ。
この子を学校に出して、
一人前にするのにいくらかかるんだろう?
その間にいくら僕たちは稼げてるんだろう?
さっ引いたらいくら残るんだろう?
っていうことを、相談してるんだよ。
つねさん うんうん。
ジョージ だけど、ゲイ・カップルには、
そういう相談があんまりないんだよ。
つねさん 確かにないね。
ジョージ きっかけがなくて。
それで、ゲイ・カップルだけじゃなくて、
もしかしたら、今のノンケの夫婦たち?
ノリスケ ディンクス。
ジョージ 友だち、同棲の延長線上で
結婚しちゃってる人たちっていうのは、
そういうきっかけはないのかも知れないよねー。
つねさん 旅行できないから子供作らない、
というカップルを知ってるよ。
ノリスケ 相談しないよね。僕も、夢物語のように、
ハワイに住むのも、いいね〜、
みたいなことは言ってみたりとかするけど(笑)。
ジョージ そうだよね。
ノリスケ でも、じゃあ、現実的に
ハワイに住むっていうことは、どういうこと?
っていうことを突き詰めて考えよう、
っていうふうには至らないの。
そのために今からいくらお金を貯めるんだとか、
グリーン・カードはどうやって取るんだとか、
不動産はどうするの? 税金どうするの?
向こうに行ってから生活はどうするの?
何を生き甲斐にして生きてくの?
みたいなことまで、もし本気だったら、
全部考えるだろう話なんだけどさ。
ただ、老後を考えてるふりをしたいがために、
つまり、ずっと、将来も一緒にいたいね、
っていうことを表示するために、
そういうことを言ってみたりしているだけなの。
それって、全部ファンタジー。実は。
ジョージ 何で、ファンタジーなの?
ノリスケ 現実味が無さ過ぎる。
ジョージ なんで?
ノリスケ 最後にこうなりたいね、
っていう形、見えていないんだもの。
その日その日を楽しく生きていく、
っていうだけのものでしかないんだもの。
その延長でしか、ないんだもの。
つねさん でも、一緒に住みたい、っていうのは、
ファンタジーじゃないよね。
ジョージ うん…
ノリスケ だって、わかんないじゃん。
つねさん わかんないけど。
ジョージ いや、わかんない理由は、明快だよ。
その夢が、幾らで買えるのか知らないからだよ。
だれも値段つけないんだもん、自分の夢に。
ノリスケ そっ(笑)、そうかも知んない。あ〜。
(つづきます)

2001-12-19-WED
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