ジョージ |
バリが
あんなことになっちゃったじゃない?
アマヌサからね、
2カ月おきに手紙が来るんだよ。
一番切実だった手紙が、
例のバリ島でテロ事件があった時。
はがきを開くとね、
手描きの絵が描いてあって、
それがバリ島のバロンダンスの
お面があるじゃない?
そのお面が、
下向きになって描かれてあって、
涙を流してる絵なんだよね。
で、メッセージが、
「ジョージさまのとても大切な
バリ島でのセカンドハウスが
心ない人たちによって
その安全と信頼を穢されてしまったことを
私たちは悲しんでおります」と。
「何よりももう二度と皆様に
お越しいただけなく
なるのではないかと思うと
心配で眠れなくなります。
是非今一度私たちのあのスイート31号を
ジョージさまの旅行の
ファイナルデスティネーションとして
お使いいただける日が来ることを
心待ちにしております」
というものなの‥‥。 |
ノリスケ |
うーん。すばらすぃ〜。
とても、いいね。
それはビジネスの世界じゃない
部分でやってるね。 |
ジョージ |
そう、ない世界なんだよね。
それでもう今は多分
安全とかそういうの関係なく
別の意味でもって
行っても
心から楽しめない自分がいたりして。
そういうのがね、
ものすごく悔しいと思うよ。 |
ノリスケ |
アマンはすごいね。
心ない貘側の人だったらね、
「そんなの経営者が困るから、従業員に、
お前ら書けって書かせてるだけだよ」
って言うかもしれないけどね。 |
つねさん |
でも違うよね。 |
ノリスケ |
うん。たぶん違う。
いい音楽をつくる音楽家や
すばらしい絵を描く画家と
おなじような気持ちで、
あの人たちはリゾートをつくっていると
ぼくは思いたいの。 |
ジョージ |
うん、そう。 |
ノリスケ |
バリ島の観光の歴史とか重みって
そういう人たちを生んだんだね。 |
ジョージ |
生んだんだと思う。
多分自分たちの人生の中に織り込まれた、
生活のステージとしてホテルがあるんだよ。
だから彼らは自分達の生活を守る以上の
守るべき価値を見出してるんだろうね。
だから一生懸命になれるんだと思う。
で、そうやって考えるとさ、
日本人が今、日本中の不景気のことを
他人事みたいに言うじゃない。
これって、日本にもう守るべきものを
みんなは持ってないからかもしれないよ。
で、何より自分達が勤めてる会社を
守らなくていいと
思ってるのかもしれないし。
でもそういう発想ってさ、
自分たちの生活とか
自分たちの人生っていうのは、
自分が命をかけて守るほどの
価値のないものだって
自分で自分をおとしめてるような
行為だと思うんだけどね。
で、そんなこと考えると何か、
ものすごくせつないの、今って。 |
ノリスケ |
せつない話になったなあ。 |
つねさん |
ほんとだなあ、なんか。 |
ジョージ |
でしょう? だからね、珍しくね、
強気イケイケで
生きてきたジョージがね、
何か今寂しいみたいな。 |
ノリスケ |
旗を持って先頭に立って
「みんな、行くわよ!」
って叫んでたあなたが。 |
ジョージ |
旗ボロボロよ、今。
風が強くてそこらじゅう
ピシピシ破れるみたいな感じ。
ずっと自分の立場は月のようなもので、
自分の立場は旗のようなものって
思ってたけど、
このままぼやぼやしてたら
月を照らすものも旗をなびかせるものも
なくなるんじゃないかと思って。
これからは私が太陽、私が風って
なんなきゃいけないんじゃないのかな、
とかってね。
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ノリスケ |
それはそうかもしれない。 |
ジョージ |
そんなふうに思ったりとかする今日この頃。
けっこう厳しい感じよ。
でもほんとにね、
世の中って変わったんだなって思う。 |
つねさん |
ふーん。 |
ジョージ |
リストラを望む経営者のところに行くとね、
みんなすごい怖がってるね。
何かしなきゃいけないって
思ってるんだけどね、
何をすればいいのか分からないんだよ。
見当もつかないんだよ。
これってさあ、
今世の中が真っ暗だからなの。
今まではその経営者たちが
何で歩けてたかっていうと、
周りが明るかったから歩けてたんだよね。
ところが今真っ暗になっちゃって、
自分達は懐中電灯が必要なのに、ないんだよ。 |
つねさん |
備えてなかったの。 |
ジョージ |
だけど、歩かなくちゃいけないの。
すごい怖いんだろうと思うんだよね。 |
ノリスケ |
うん。 |
ジョージ |
だけどね、ものすごく前の方には
カンテラ持った人が
歩いてそうに見えるの。 |
ノリスケ |
うん。 |
ジョージ |
でもそれってね、
私のトラウマに焼き付いてる
パニック大作、
ポセイドン・アドベンチャー。 |
つねさん |
ああ、あの違う方向に。
亡霊みたいに歩いて行くヤツね。 |
ジョージ |
そう、牧師が一人沈んで行ってしまう方に
みんなを連れて行くシーンを思い出すの。
そんなカンテラかもしれないんだよ。
後ろの方には若い子たちが
ろうそくを灯して
消えそうになるのを持って、
一生懸命自分たちの足で
自分たちの足元照らして
歩こうとしてるんだよね。 |
ノリスケ |
うんうん。 |
ジョージ |
で、そん時に先頭を歩いてる人たちが
振り返って、その灯りを見ながら
「みんなが歩く方向に行け、
俺もついて行くから」って言えば、
もしかしたらいいかもしれないんだけど、
そうしないんだよね。
先頭が前ばっかり見てんのよ。 |
つねさん |
ああ、後ろ見れないんだ。 |
ジョージ |
そう。で、多分ね、
気がついて後ろを振り返ったらね、
誰もいないんだよ。 |
つねさん |
離れてしまってる。 |
ジョージ |
そう。だって彼らは彼らで、
自分たちの灯りでもって
安全な方に行くんだもん。
で、何年かしてパッと灯りがついた時に、
全然別の場所にいるんだろうね。 |
つねさん |
ああ。 |
ジョージ |
で、まあ若い子がいるところが
ほんとに幸せな場所かどうかは
分からないけれど、でもまあ、
彼らは彼らで
選んだ道だろうなと思うよね。
で、そん時に若い子たちが
それぞれ持ってるろうそくを
みんながちょっとずつ集め合って、
大きいたいまつか何かにボッとつけて、
それをトップの人か何かに渡して、
一緒に持って歩きましょうって言えば、
誰も取りこぼしなくね、
どこか一か所に
行けるかもしんないんだけどね。 |
つねさん |
うん。 |
ジョージ |
でも、そん時にさ、
せっかく燃え盛ってるたいまつ作っても
トップの人は、やけどしそうだから
ヤダって言うかもしんないけどね。 |
ノリスケ |
うん。 |
ジョージ |
まあそれはそれで、
じゃあ置いて行きますからって
言えばいい話であって。
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