APPLE
新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

不景気になんか負けないわ。その5
私が太陽、私が風。


ジョージ バリが
あんなことになっちゃったじゃない?
アマヌサからね、
2カ月おきに手紙が来るんだよ。
一番切実だった手紙が、
例のバリ島でテロ事件があった時。
はがきを開くとね、
手描きの絵が描いてあって、
それがバリ島のバロンダンスの
お面があるじゃない?
そのお面が、
下向きになって描かれてあって、
涙を流してる絵なんだよね。
で、メッセージが、
「ジョージさまのとても大切な
 バリ島でのセカンドハウスが
 心ない人たちによって
 その安全と信頼を穢されてしまったことを
 私たちは悲しんでおります」と。
「何よりももう二度と皆様に
 お越しいただけなく
 なるのではないかと思うと
 心配で眠れなくなります。
 是非今一度私たちのあのスイート31号を
 ジョージさまの旅行の
 ファイナルデスティネーションとして
 お使いいただける日が来ることを
 心待ちにしております」
というものなの‥‥。
ノリスケ うーん。すばらすぃ〜。
とても、いいね。
それはビジネスの世界じゃない
部分でやってるね。
ジョージ そう、ない世界なんだよね。
それでもう今は多分
安全とかそういうの関係なく
別の意味でもって
行っても
心から楽しめない自分がいたりして。
そういうのがね、
ものすごく悔しいと思うよ。
ノリスケ アマンはすごいね。
心ない貘側の人だったらね、
「そんなの経営者が困るから、従業員に、
 お前ら書けって書かせてるだけだよ」
って言うかもしれないけどね。
つねさん

でも違うよね。

ノリスケ うん。たぶん違う。
いい音楽をつくる音楽家や
すばらしい絵を描く画家と
おなじような気持ちで、
あの人たちはリゾートをつくっていると
ぼくは思いたいの。
ジョージ うん、そう。
ノリスケ バリ島の観光の歴史とか重みって
そういう人たちを生んだんだね。
ジョージ 生んだんだと思う。
多分自分たちの人生の中に織り込まれた、
生活のステージとしてホテルがあるんだよ。
だから彼らは自分達の生活を守る以上の
守るべき価値を見出してるんだろうね。
だから一生懸命になれるんだと思う。
で、そうやって考えるとさ、
日本人が今、日本中の不景気のことを
他人事みたいに言うじゃない。
これって、日本にもう守るべきものを
みんなは持ってないからかもしれないよ。
で、何より自分達が勤めてる会社を
守らなくていいと
思ってるのかもしれないし。
でもそういう発想ってさ、
自分たちの生活とか
自分たちの人生っていうのは、
自分が命をかけて守るほどの
価値のないものだって
自分で自分をおとしめてるような
行為だと思うんだけどね。
で、そんなこと考えると何か、
ものすごくせつないの、今って。
ノリスケ せつない話になったなあ。
つねさん

ほんとだなあ、なんか。

ジョージ でしょう? だからね、珍しくね、
強気イケイケで
生きてきたジョージがね、
何か今寂しいみたいな。
ノリスケ 旗を持って先頭に立って
「みんな、行くわよ!」
って叫んでたあなたが。
ジョージ

旗ボロボロよ、今。
風が強くてそこらじゅう
ピシピシ破れるみたいな感じ。
ずっと自分の立場は月のようなもので、
自分の立場は旗のようなものって
思ってたけど、
このままぼやぼやしてたら
月を照らすものも旗をなびかせるものも
なくなるんじゃないかと思って。

これからは私が太陽、私が風って
なんなきゃいけないんじゃないのかな、
とかってね。

ノリスケ それはそうかもしれない。
ジョージ そんなふうに思ったりとかする今日この頃。
けっこう厳しい感じよ。
でもほんとにね、
世の中って変わったんだなって思う。
つねさん

ふーん。

ジョージ リストラを望む経営者のところに行くとね、
みんなすごい怖がってるね。
何かしなきゃいけないって
思ってるんだけどね、
何をすればいいのか分からないんだよ。
見当もつかないんだよ。
これってさあ、
今世の中が真っ暗だからなの。
今まではその経営者たちが
何で歩けてたかっていうと、
周りが明るかったから歩けてたんだよね。
ところが今真っ暗になっちゃって、
自分達は懐中電灯が必要なのに、ないんだよ。
つねさん

備えてなかったの。

ジョージ だけど、歩かなくちゃいけないの。
すごい怖いんだろうと思うんだよね。
ノリスケ うん。
ジョージ だけどね、ものすごく前の方には
カンテラ持った人が
歩いてそうに見えるの。
ノリスケ うん。
ジョージ でもそれってね、
私のトラウマに焼き付いてる
パニック大作、
ポセイドン・アドベンチャー。
つねさん

ああ、あの違う方向に。
亡霊みたいに歩いて行くヤツね。

ジョージ そう、牧師が一人沈んで行ってしまう方に
みんなを連れて行くシーンを思い出すの。
そんなカンテラかもしれないんだよ。
後ろの方には若い子たちが
ろうそくを灯して
消えそうになるのを持って、
一生懸命自分たちの足で
自分たちの足元照らして
歩こうとしてるんだよね。
ノリスケ うんうん。
ジョージ で、そん時に先頭を歩いてる人たちが
振り返って、その灯りを見ながら
「みんなが歩く方向に行け、
 俺もついて行くから」って言えば、
もしかしたらいいかもしれないんだけど、
そうしないんだよね。
先頭が前ばっかり見てんのよ。
つねさん

ああ、後ろ見れないんだ。

ジョージ そう。で、多分ね、
気がついて後ろを振り返ったらね、
誰もいないんだよ。
つねさん

離れてしまってる。

ジョージ そう。だって彼らは彼らで、
自分たちの灯りでもって
安全な方に行くんだもん。
で、何年かしてパッと灯りがついた時に、
全然別の場所にいるんだろうね。
つねさん

ああ。

ジョージ で、まあ若い子がいるところが
ほんとに幸せな場所かどうかは
分からないけれど、でもまあ、
彼らは彼らで
選んだ道だろうなと思うよね。
で、そん時に若い子たちが
それぞれ持ってるろうそくを
みんながちょっとずつ集め合って、
大きいたいまつか何かにボッとつけて、
それをトップの人か何かに渡して、
一緒に持って歩きましょうって言えば、
誰も取りこぼしなくね、
どこか一か所に
行けるかもしんないんだけどね。
つねさん

うん。

ジョージ でも、そん時にさ、
せっかく燃え盛ってるたいまつ作っても
トップの人は、やけどしそうだから
ヤダって言うかもしんないけどね。
ノリスケ うん。
ジョージ まあそれはそれで、
じゃあ置いて行きますからって
言えばいい話であって。



自分の足下照らさなきゃ。つづきまっす。

2003-04-07-MON

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