つねさん |
僕だって、昔あったよね。
どこぞのニューヨークのホテルの。 |
ジョージ |
あ、幽体離脱の話ね。
そんなのはしなきゃダメよ。 |
ノリスケ |
えーっと、Wホテルで、
ジョージさんがどんぴしゃタイプの
人みつけちゃって
あまりにぼ〜っとなっちゃったんで
つねさんが焦った、って話? |
つねさん |
そうそう。 |
ジョージ |
だって、キレイな女の子が歩いてたら、
一応そのキレイな女の子の
美しさに対して敬意を表すために、
振り返んなきゃダメよ。
んで、振り返ったときに、
感想を言わなきゃいけないの。 |
つねさん |
隣りにいる人にね。 |
ノリスケ |
それ、女の子じゃないよね‥‥。 |
ジョージ |
例としてよ。
「いや、キレイだね」って言いながら、
でもニコッてしたら、
あの子はたしかにキレイだね、
でも振り返るほどにキレイな彼女より、
君の方がいいんだよ、
っていうことになるわけじゃん! |
ノリスケ |
ふふふふふふふふ。
言い訳がましいけどっ。 |
ジョージ |
どぉ? だって、世の中にね、
絶対的な愛とか、絶対的な美しさは
ないわけであって。そうすると‥‥。 |
つねさん |
相対的に。 |
ジョージ |
そう、相対的に、
あれもいいけど、おまえがいい、ってね。
で、そういうのはね、
どんどんどんどんすれば。 |
つねさん |
もうちょっと潤滑になると。 |
ジョージ |
ってことは、やっぱり。 |
ノリスケ |
あの時、ほんとにビビッたって
言ってたよね。 |
つねさん |
あれはちょっとビビッたよ。 |
ノリスケ |
こいつ‥‥。 |
つねさん |
だって、心ここにあらずだったもん。 |
ノリスケ |
綱付けとかなアカン、
っていう気持ちになったって言ってたよ、
つねさんがあの時(笑)。 |
ジョージ |
フンガッ。 |
ノリスケ |
あの時はね。 |
ノリスケ |
ハンターの目をしてたのかも知れない。 |
つねさん |
いや、ハンターじゃなかったね、
あれはね。どっちかっていうと、
ウサギの目だった。 |
ノリスケ |
「僕を狩って」(笑)。 |
つねさん |
そう。でも、その後、
俺が言ったのが
「俺も連れてって」って(笑)。 |
ジョージ |
ワッハッハッハ!
イヤだよう、まったく‥‥。 |
つねさん |
だって、そう言うしかないじゃないの。 |
ノリスケ |
あのー、言っていいのかしら。
お友達の伯母様の話なんですけど。
いいわよね。
たいそう美人の伯母様が
いらっしゃるんですって。
その方、愛人で通したらしいの。
もうおばあちゃんに
なっちゃった方なんだけど。
戦時中に、満州で、
恋愛関係になったわけ。
二十歳の娘だった伯母様は、
当然、もうこの人と結婚するんだわ、
と思う恋愛をしてた──
ところが。
日本に奥さんとお子さんがいたのね。 |
つねさん |
ありゃっ。 |
ノリスケ |
男は言えなかったんだね。
で、さあ、どうしよう? と。
まだ二十歳です、やり直しができます。
だけど、弟妹が何人もいる
長女でありながら、親と家族に
「みんな、私は結婚しないから。
こういうことになったから。
これで行くから。よろしく」
って言って! |
つねさん |
すごいね(笑)。 |
ノリスケ |
彼のほうは、政治の世界に行ったり、
事業をやったりしながら、
いい人過ぎて失敗もしたり
騙されたりもして、
落ちぶれたりもしながらも、
子どもたちを上場企業の
重役にまで育て上げて。
で、長い月日が経ち、
奥様が亡くなられました。
そしたら、伯母様の存在を
知っていた息子たちは、
伯母様にね、
家に入ってくれないか? と。
あなただったら大丈夫だから、
親父の面倒を、見てくれないか。
って言われ、本人からも、
やっと結婚できるな、結婚しよう、
って言われたらしいの。
もうそのときに中年‥‥老境よね。
ところが、伯母様は、断った。 |
つねさん |
プライドだったのかしらね。 |
ノリスケ |
ん、プライドだったのかもね。
結婚はしませんって。
だけど、一緒に住んで
お世話をするっていうことは引き受けます、
って言って、お手伝いさんとして
一人暮らしの彼の家に
住み込むようになった。 |
つねさん |
幸せじゃないの‥‥。素敵。 |
ノリスケ |
ところがね、ここからがまたドラマでね、
彼のほうが倒れてしまったの。
寝た切りになってしまったんです。
入退院を繰り返して
家にいても酸素ボンベをずっと横に
置いているような生活になった。
一生懸命看病をしたけど、
最期は布団の上で転んで骨を折って、
そのまま起き上がれなくなって
死んじゃった。
でね、僕の友だちは、伯母様に、
訊いた事があるんですって。
いつフッ切れたの?
奥さんが死んだとき?
そしたらね、
奥さんが死んでもフッ切れなかった、
彼が死んだときにフッ切れたんだって。 |
つねさん |
あ、その彼が。 |
ノリスケ |
彼が。
「あ、やっと私のものになった」
って思ったんだって。
で、もうね、後は余生だからね、
明るく楽しく
暮らしてらっしゃるみたい(笑)。 |
ジョージ |
ウチのおばあちゃんも、
わりと早い時期に亭主と死に別れて。
で、68か9のときに、
ボーイ・フレンド作ったよ。 |
つねさん |
ほぉー! |
ジョージ |
で、そのボーイ・フレンドには、
奥さんがいたの。 |
つねさん |
ありゃま。 |
ジョージ |
で、奥さん公認だったの。 |
つねさん |
へぇ‥‥。 |
ジョージ |
で、その奥さんっていう人が、
ものすごく古風な人で。
で、ご自身のご主人っていうのが
やっぱり、活発な方だったんだよね。
海外旅行が好きな人で、
ゴルフが好きな人なんだけど、
海外旅行はひとりでできないじゃない?
夫婦で行ったほうが楽しいわけ。
で、そのね、海外旅行に行ったり
ゴルフに行ったりするパートナーとして、
ウチのおばあちゃんと付き合ってたんだよ。 |
つねさん |
へぇー。 |
ジョージ |
で、色っぽい関係もあったと思うんだ、
その年齢でね。だけど、奥さんは
「外と中」っていうふうに言ってて。
わたしは中の奥さんにしかなれないから、
外の奥さんになっていただけるんであれば、
よろしくお願いします、
って関係だったんだよね。
んで、そのボーイ・フレンドが
亡くなったのも、
ウチのおばあさんの家なんだけど、
危ないっていうときに、
ウチのおばあさんが、
奥さんのところに電話を掛けて
「どうしましょうか?」って言ったら、
「あの人は外で死ぬのが幸せだと思うから、
外で死なせてあげて下さい」って。 |
ノリスケ |
うわぁ‥‥! |
つねさん |
へぇ‥‥なんかすごいね。 |
ジョージ |
そんで、看取って、冷たくなったときに、
奥さんが取りに来たんだよ。
でね、そのときに、
冷たくなって取りに来たときに、
ウチのおばあさん、
ものすごい泣いたの。 |
つねさん |
あぁ、最後は、って? |
ジョージ |
うん、
やっぱりわたしのものじゃなかった、
っていって、すっごい泣いたんだよね。
んで、そのときに、奥さん、
ものすごく凛とした態度で
「ほんとうに、ありがとうございました」
って言って遺体を引き取ったんだって。 |
ノリスケ |
すっごいねぇ‥‥。 |
つねさん |
なんか、できた、っていうか、
怖いよね、そこまでいっちゃうとね。 |
ジョージ |
だからね、そのね、
愛の表現の仕方っていうのは、
昔の日本の人って、
いろんな表現の仕方を
してたんだと思うんだよね。 |
ノリスケ |
ねぇー! |