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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

浮気について考える。その4
古風な恋、二つの話。
つねさん 僕だって、昔あったよね。
どこぞのニューヨークのホテルの。
ジョージ あ、幽体離脱の話ね。
そんなのはしなきゃダメよ。
ノリスケ えーっと、Wホテルで、
ジョージさんがどんぴしゃタイプの
人みつけちゃって
あまりにぼ〜っとなっちゃったんで
つねさんが焦った、って話?
つねさん そうそう。
ジョージ だって、キレイな女の子が歩いてたら、
一応そのキレイな女の子の
美しさに対して敬意を表すために、
振り返んなきゃダメよ。
んで、振り返ったときに、
感想を言わなきゃいけないの。
つねさん 隣りにいる人にね。
ノリスケ それ、女の子じゃないよね‥‥。
ジョージ 例としてよ。
「いや、キレイだね」って言いながら、
でもニコッてしたら、
あの子はたしかにキレイだね、
でも振り返るほどにキレイな彼女より、
君の方がいいんだよ、
っていうことになるわけじゃん!
ノリスケ ふふふふふふふふ。
言い訳がましいけどっ。
ジョージ どぉ? だって、世の中にね、
絶対的な愛とか、絶対的な美しさは
ないわけであって。そうすると‥‥。
つねさん 相対的に。
ジョージ そう、相対的に、
あれもいいけど、おまえがいい、ってね。
で、そういうのはね、
どんどんどんどんすれば。
つねさん もうちょっと潤滑になると。
ジョージ ってことは、やっぱり。
ノリスケ あの時、ほんとにビビッたって
言ってたよね。
つねさん あれはちょっとビビッたよ。
ノリスケ こいつ‥‥。
つねさん だって、心ここにあらずだったもん。
ノリスケ 綱付けとかなアカン、
っていう気持ちになったって言ってたよ、
つねさんがあの時(笑)。
ジョージ フンガッ。
ノリスケ あの時はね。
ノリスケ ハンターの目をしてたのかも知れない。
つねさん いや、ハンターじゃなかったね、
あれはね。どっちかっていうと、
ウサギの目だった。
ノリスケ 「僕を狩って」(笑)。
つねさん そう。でも、その後、
俺が言ったのが
「俺も連れてって」って(笑)。
ジョージ ワッハッハッハ!
イヤだよう、まったく‥‥。
つねさん だって、そう言うしかないじゃないの。
ノリスケ あのー、言っていいのかしら。
お友達の伯母様の話なんですけど。
いいわよね。
たいそう美人の伯母様が
いらっしゃるんですって。
その方、愛人で通したらしいの。
もうおばあちゃんに
なっちゃった方なんだけど。
戦時中に、満州で、
恋愛関係になったわけ。
二十歳の娘だった伯母様は、
当然、もうこの人と結婚するんだわ、
と思う恋愛をしてた──
ところが。
日本に奥さんとお子さんがいたのね。
つねさん ありゃっ。
ノリスケ 男は言えなかったんだね。
で、さあ、どうしよう? と。
まだ二十歳です、やり直しができます。
だけど、弟妹が何人もいる
長女でありながら、親と家族に
「みんな、私は結婚しないから。
 こういうことになったから。
 これで行くから。よろしく」
って言って!
つねさん すごいね(笑)。
ノリスケ 彼のほうは、政治の世界に行ったり、
事業をやったりしながら、
いい人過ぎて失敗もしたり
騙されたりもして、
落ちぶれたりもしながらも、
子どもたちを上場企業の
重役にまで育て上げて。
で、長い月日が経ち、
奥様が亡くなられました。
そしたら、伯母様の存在を
知っていた息子たちは、
伯母様にね、
家に入ってくれないか? と。
あなただったら大丈夫だから、
親父の面倒を、見てくれないか。
って言われ、本人からも、
やっと結婚できるな、結婚しよう、
って言われたらしいの。
もうそのときに中年‥‥老境よね。
ところが、伯母様は、断った。
つねさん プライドだったのかしらね。
ノリスケ ん、プライドだったのかもね。
結婚はしませんって。
だけど、一緒に住んで
お世話をするっていうことは引き受けます、
って言って、お手伝いさんとして
一人暮らしの彼の家に
住み込むようになった。
つねさん 幸せじゃないの‥‥。素敵。
ノリスケ ところがね、ここからがまたドラマでね、
彼のほうが倒れてしまったの。
寝た切りになってしまったんです。
入退院を繰り返して
家にいても酸素ボンベをずっと横に
置いているような生活になった。
一生懸命看病をしたけど、
最期は布団の上で転んで骨を折って、
そのまま起き上がれなくなって
死んじゃった。
でね、僕の友だちは、伯母様に、
訊いた事があるんですって。
いつフッ切れたの?
奥さんが死んだとき?
そしたらね、
奥さんが死んでもフッ切れなかった、
彼が死んだときにフッ切れたんだって。
つねさん あ、その彼が。
ノリスケ 彼が。
「あ、やっと私のものになった」
って思ったんだって。
で、もうね、後は余生だからね、
明るく楽しく
暮らしてらっしゃるみたい(笑)。
ジョージ ウチのおばあちゃんも、
わりと早い時期に亭主と死に別れて。
で、68か9のときに、
ボーイ・フレンド作ったよ。
つねさん ほぉー!
ジョージ で、そのボーイ・フレンドには、
奥さんがいたの。
つねさん ありゃま。
ジョージ で、奥さん公認だったの。
つねさん へぇ‥‥。
ジョージ で、その奥さんっていう人が、
ものすごく古風な人で。
で、ご自身のご主人っていうのが
やっぱり、活発な方だったんだよね。
海外旅行が好きな人で、
ゴルフが好きな人なんだけど、
海外旅行はひとりでできないじゃない?
夫婦で行ったほうが楽しいわけ。
で、そのね、海外旅行に行ったり
ゴルフに行ったりするパートナーとして、
ウチのおばあちゃんと付き合ってたんだよ。
つねさん へぇー。
ジョージ で、色っぽい関係もあったと思うんだ、
その年齢でね。だけど、奥さんは
「外と中」っていうふうに言ってて。
わたしは中の奥さんにしかなれないから、
外の奥さんになっていただけるんであれば、
よろしくお願いします、
って関係だったんだよね。
んで、そのボーイ・フレンドが
亡くなったのも、
ウチのおばあさんの家なんだけど、
危ないっていうときに、
ウチのおばあさんが、
奥さんのところに電話を掛けて
「どうしましょうか?」って言ったら、
「あの人は外で死ぬのが幸せだと思うから、
 外で死なせてあげて下さい」って。
ノリスケ うわぁ‥‥!
つねさん へぇ‥‥なんかすごいね。
ジョージ そんで、看取って、冷たくなったときに、
奥さんが取りに来たんだよ。
でね、そのときに、
冷たくなって取りに来たときに、
ウチのおばあさん、
ものすごい泣いたの。
つねさん あぁ、最後は、って?
ジョージ うん、
やっぱりわたしのものじゃなかった、
っていって、すっごい泣いたんだよね。
んで、そのときに、奥さん、
ものすごく凛とした態度で
「ほんとうに、ありがとうございました」
って言って遺体を引き取ったんだって。
ノリスケ すっごいねぇ‥‥。
つねさん なんか、できた、っていうか、
怖いよね、そこまでいっちゃうとね。
ジョージ だからね、そのね、
愛の表現の仕方っていうのは、
昔の日本の人って、
いろんな表現の仕方を
してたんだと思うんだよね。
ノリスケ ねぇー!

ああ‥‥(ジーン)。つづきます。

2003-05-26-MON

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