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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

夏休みの東京デート その6
ミラノの一夜。
ノリスケ オペラ見るのって、やっぱり、
すごーいことなわけ?
すごーいたいへんなわけ?
ジョージ だって、映画だったら
支度して出かけて映画見て
そのあとお茶を飲んだとしても
4時間くらいで終わるんだよね。
オペラになると
丸1日費やすことになるんだよ。
ノリスケ そうなんだ。
つねさん それもあれでしょ? 服とか気にして。
ジョージ そうよ、服とか気にすることを
考えると、もう。
つねさん 何日間か?
ジョージ

何日どころじゃないよ。
だってお洋服、あつらえなきゃ
いけないから。
そうすると2か月くらい前から
準備しないと。

ノリスケ つねさん、ジョージさんといっしょに
そういう服、作るとか
言ってたことなかったっけ。
つねさん ニューヨーク行く時作ったね。
ジョージ 作った。
ノリスケ 作ったんだ。
ジョージ うん。ブラックスーツ作った。
でも、あれだとね、
日本ではオペラは見れるけど、
ミラノのスカラ座に行けなくなっちゃう。
つねさん そうなの?
ノリスケ ミラノのスカラ座は何着て行くの?
タキシード?
ジョージ ミラノのスカラ座はね、
ミラノのスカラ座ってもう、
すばらしい環境で、
そんなに大きい劇場じゃないんだけど、
それこそ特等って呼ばれてる
プレミアの1のシートから
11のシートまでランクがあるんだよ。
11っていうのは天井桟敷の近くのやつ。
ノリスケ うんうん。
ジョージ で、ステージのところが
豆粒のようにしか見えないのね。
だけど、歌舞伎座の桟敷と一緒。
ノリスケ はいはい。一幕とかね。
ジョージ そう。で、そこには生まれた時から
オペラを見て育ってる職人さんとか
おじさんたちが一張羅着てるの。
基本的にタキシードであるか、
スーツであるか、
ナポリ仕立てかなんかの
ちょっとスキッとした
そういうの着ているんだけど、
今日はミラノのスカラ座に行くっていうと
彼らは前の日に宴会をするんだよ。
ノリスケ ほお。
ジョージ で、前の日に宴会をしながら
宴会の席上で翌日見るオペラのCDとか
レコードをかけてみんなで歌いながら
酒を飲んで食って、
夜中の2時くらいまで
明日見るオペラの話をして、
もうぐでんぐでんになって
くたびれて寝るの。
で、寝ると目が覚めるのが
10時とか11時でしょ。
ノリスケ うん。
ジョージ で、エスプレッソ飲みながら、
床屋に行って髪きれいにして
ヒゲ当たってもらって、
床屋のおじさんと
今日はこの演目に行くんだよって言うと、
いや昨日行って来たお客さんがうちに来てね、
こうこうこういうふうに言ってたよ、
っていう床屋談義をしながら、
また盛り上がっていって、
うちに帰る前にバラの花1本でも買って、
奥さんにちょっとそれを渡しつつ。
つねさん いやあ、すごいね。
ジョージ うん。で、昼ご飯作ってもらって
昼ご飯食べて、お風呂に入って体を磨いて、
出て来て一張羅の洋服を着て
オーデコロンたっぷりばーっと振りまいて、
でミラノのスカラ座に行く手前の
屋台のカフェでもって
フォカッチャとか
立ち食いのピッツアとかつまんで、
きゅっと1杯引っ掛けて
タッタッタッタッて上がって行くの。
つねさん へえ。
ジョージ だからほんとに
前の晩から始まって24時間。
つねさん ああ、すごいね。
ジョージ そういう人たちがすごいかっこいいんだよ。
つねさん すごいかっこいい。
ジョージ 例えば日本の今のファッションは
高級な洋服はあるけど、
一張羅っていうのが少なくなったんだよね。
ノリスケ ないね。
ジョージ で、そういう街の人たちっていうのは
毎日はとんでもないものを着てるんだけど、
何でとんでもないものを
平気で着るかっていうと
ミラノのスカラ座に行く時に着て行ける
一張羅が自分ちのクロゼットの
一番奥に大切にいつもかかっていて、
明日それを着ろと言われても着れるの。
明日そういうところに来いと言われても。
つねさん 行けるんだ。
ジョージ 着れるんだよね。
だから毎日粗末なものを
着ていられるんだよね。
ノリスケ 素敵ねえ。
ジョージ 日本からミラノのスカラ座に
オペラを見に行くツアーとかってあってね。
ノリスケ うん。
ジョージ そうするとみんな、
一応作って行って
大量の荷物を抱え込んで行くんだけど、
だけどね、ミラノの街の床屋さんの
一張羅にはかなわないよね。
僕らの服は高級なだけであって
一張羅じゃないんだなっていう感じがするよ。
だって、靴だって本当にきれいだしね。
ノリスケ 向こうの文化だからねえ。
日本の着物みたいなもんでさあ。
ジョージ うん。で、スーツの下のワイシャツのね。
ノリスケ カフスから?
ジョージ カフスの第一ボタンとかが
ペロンと取れててそこが
めくれ上がってたりとかするんだよ。
で、それを何分かおきに
正しくめくれ上がった状態に
こういうふうに変えて行く
60代くらいのオヤジとかがね、
中2階の階段のところでもって
幕間に酒を飲んでたりとかするの。
ノリスケ はあーん。
ジョージ 僕らは一番下のところ、
グランドホールのところで
シャンパンかなんかを
飲ませてもらってるんだけど、
何か上でいる人たちの方が
えらそうでかっこよくって
楽しそうだったりとかするのが、
悔しかったりするんだよね。
ノリスケ ベースが違うね。
そこに混ぜていただいてるんだよね。
つねさん 歴史が違う。
ジョージ ミラノのスカラ座ってね‥‥椅子も堅いしね。
目の前にそれこそ背筋のしゃんとした
イタリアの女が来てみ、見えないよ。
2人 ははははは。
ジョージ ほんとに。
ノリスケ そっか。
ジョージ 髪の毛だけでも50cmくらい
上に上がってるようなもんだから、
こうやって(体をねじる)見ないと
見えないんだよ。
つねさん そうなんだ。
ジョージ で、あんまり横を向くとね、
後ろの方からゴホンゴホン(せき払い)
とかって言われるんだよ。
つねさん へえ。
ノリスケ でも素敵。すごく素敵。
それを知ってるからその人は
あなたのことを振ったのね(笑)。
好きにすればっていうレベルを超えてたね。
ジョージ だから映画とかはとても気軽に行けるけど、
こと舞台っていうのはめんどくさいものだよね。
オペラとかバレエとかっていうのは
本当に究極にへんてこりんなものよ。
ノリスケ うんうん。
ジョージ 勉強を必要とする。
ノリスケ そうね。歌舞伎でも何でもね。
ジョージ 例えば演劇にしても、
何の前情報もないところで
ポンと連れ出されて、
ここに座ってみてなさいって言われたら
どうしようかって思っちゃうもんね。
ノリスケ 最初嫌だったもん。
生身の人間が目の前で
何か変なことしてるのが。
ジョージ 変なことだもんね。
ノリスケ それ自体恥ずかしくてしょうがなくて、
何だろうこれは、って。
でも、慣れちゃうのよ。
ジョージ あんまり変なことって思わずに
すっと入り込める自分って
もっと変なのかなって思うけどね。

ミラノのスカラ座は諦めましたよ。続きます。
(もはや東京の話じゃないんだけど〜!)

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2003-08-22-FRI

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