ジョージ |
海外の劇場は素敵だね。 |
ノリスケ |
そうですよ。劇場見るだけで素敵ですからね。
ウイーンの国立歌劇場、楽友協会ホール、
見学だけしたけど素敵だったわ。 |
ジョージ |
うん。それと、
そこにいる人たちの空気っていうの? |
つねさん |
そう。何か違うのね。 |
ジョージ |
あのね、まずね、
日本の劇場が開場するでしょ?
そうするとみんなが急ぎ足で
我先に自分のシートに
行こうとするんだよね。
しかもその人たちは
パンフレットを片手に持って、
下手するとパンフレットを読みながら。 |
つねさん |
うん。先に読んでるよね。 |
ジョージ |
そう。で、頭の中は
今日は見に来たんだ、
この公演を見に来たんだ、
早く行かなきゃ早く見なきゃ、
っていうふうにバーっと行くから、
エレガントじゃないんだよ。
せっかくものすごいお金を払って、
時間もかけてこの劇場に来て、
自分の街の隣の映画館に行くのとは
違うのに。ほとんどの人が電車に乗って、
あるいは飛行機に乗って、
電車を乗り継いで何時間もかけて
やって来たところなのに、
我慢もしないでバーッと
シートに行こうとするでしょ?
でも、たとえばアメリカって違うよね。 |
つねさん |
うん。何か違う。 |
ノリスケ |
飛行機の乗り降りだって、
ちゃんと暗黙のルールがあって
「我先に」なんてふうにならないもの。 |
ジョージ |
ミュージカル行っても、何に行っても、
ロビーをちょっとうろうろしながら
劇場をこうやって眺めたり。 |
ノリスケ |
入場を楽しむ。 |
ジョージ |
緩やかな人の波が、
有機的にダーッと流れながら
一定の方向に向かって。 |
ノリスケ |
それはね、日本でできてるのはね、
永ちゃんしかいないかも。
永ちゃんの世界はねえ、
永ちゃんがコントロールしてるからできる。 |
ジョージ |
宗教だから。 |
ノリスケ |
カリスマだから。
普段の永ちゃんのコンサートってさあ、
永ちゃんそっくりの人たちが
何万人も来るようなことなんだけど、
1回アコースティックコンサートを
東京国際フォーラムでやったのね。
それはもうチケットからね、
ちゃんとしたかっこうして来いよって
書いてあったの。
いつものかっこうして来んなよって
言ってるの、要するに。 |
つねさん |
へえ。 |
ノリスケ |
すると、ふだんは永ちゃん的というか
素肌に白いスーツみたいなかっこうの人まで
ちゃんとみんなスーツ着て来るの。
あ、すごいや永ちゃんって思った。 |
つねさん |
みんな従順なんだ。 |
ノリスケ |
従順。もちろんヤンキー上がりの
若くして結婚したような夫婦とかも多いんだけど、
もうねえ一生懸命。
永ちゃんの臨む場の雰囲気を壊さないように、
すごく一生懸命なの。 |
つねさん |
ほお。 |
ノリスケ |
お客さんも、かっこよかったよ、だから。 |
つねさん |
ああいう人たちって根性入ってるの? |
ノリスケ |
入ってる。 |
ジョージ |
入ってる。
あのね、命をかけてると思うんだよ。
1ステージ1ステージね。
例えばオペラ歌手で黒人女性で
ジェシー・ノーマンっているのね。
アメージング・グレイスを歌う人で、
普通のオペラのガラコンサート、
ガラコンサートっていうのは
オペラ全部をやるんじゃなくて
オペラの中のアリアだけを
1人とか2人がオーケストラをバックに
やるやつなんだけど、それをやるとね、
延々お客さんの状態がいいと
1人で1時間半歌ったあと、
1時間くらい平気でアンコールするんだよ。 |
ノリスケ |
へえ。 |
ジョージ |
でね、1時間もアンコールしはじめると
帰ってしまうお客さんが出るんだよね。
で、何曲か歌って楽屋に入って、
拍手してるとしばらくして出て来て、
のくり返しでしょ?
そうするとその楽屋に入ってる時間の
インターバルが長くなってくるわけ。
で、だいたい半分くらいに
お客さんがなったころは、
ほんとに10分くらい拍手しないと
出てこなくなるんだよ。 |
つねさん |
うんうん。 |
ジョージ |
みんな「アメージング・グレース」を
一番最後に歌うはずだと思ってるから、
それを歌うまでは絶対帰らないって根比べ。
で、一番最後にステージ真っ暗な状態で
彼女がろうそく1本持って来て、
誰も楽団連れないで、
そうすると一際バーッと拍手が大きくなるの。
「今日私の歌は一番最後のここまで
残っていただいたみなさんのために
歌いました。
じゃあ、最後の1曲」って歌うんだよ。 |
つねさん |
うん。 |
ジョージ |
で、そこに残っててくれた人には
全員に握手をする。
|
2人 |
へえー。 |
ジョージ |
で、今日も生きて歌えてよかったって。 |
ノリスケ |
へえ。 |
ジョージ |
一流の人たちって
命を1回1回懸けると思うね。
日本のわがままオペラ歌手、
お友達なんですけど、
誰とは言わないけどね。 |
ノリスケ |
うふふ。 |
ジョージ |
この前渋谷の某所でもって、
お呼ばれしてコンサートだったんだよ。 |
つねさん |
B村で? |
ジョージ |
そう。B村ね。 |
ノリスケ |
B村のOホール。 |
ジョージ |
同士の女性と参りました。
一応ゴージャスオペラ歌手のリサイタルだよ。
ところが東急系のなんかが冠だったんだよ。 |
ノリスケ |
へえ。 |
ジョージ |
そうすると、はがきを送って
無料で来てる客もいるの。 |
ノリスケ |
ああ。 |
ジョージ |
で、まず、まずですよ、
私たちはそれなりのかっこうをして
行ったんだけど、見ると
「あれ? いいのですか、
こんなところにこんなかっこうで
いらっしゃって」
みたいな人たちがいるわけよね。 |
つねさん |
おばちゃまとか? |
ジョージ |
おばちゃまはまだいいの、
オシャレしてくるから。
困るのは、おじちゃま系。 |
ノリスケ |
ポロシャツに? |
ジョージ |
そうそうそう。 |
つねさん |
ちょっと汚れたズボンみたいな感じの。 |
ノリスケ |
ズボン(笑)。ひざの出たズボン。 |
ジョージ |
それで登山帽をかぶったまま
それを脱ぎさえしないで
聞いているとかっていうのがいて。 |
つねさん |
ああ。 |
ジョージ |
もうね、ステージに出て来た瞬間に、
わかるじゃない? その歌手、顔が怖いのよ。
「あ、顔が違う。怖い。この女顔が違う」
っていう顔なんだよ。 |
ノリスケ |
この客はっていう(笑)。 |
ジョージ |
それで、1曲歌うとすぐ楽屋に引っ込むんだよね。 |
ノリスケ |
どうして? |
ジョージ |
見たくないんだろう。客を。
|
2人 |
(笑)。 |
ジョージ |
歌うのは仕事だから歌うけど。 |
ノリスケ |
すげえ。 |
ジョージ |
客を見てしまうと
歌う元気がなくなるのね、きっと。 |
ノリスケ |
あそこすぐ近いからね。 |
ジョージ |
そう。それで指揮してる人が
その間をつなぐんだよね、
いろいろトークをしながら。 |
ノリスケ |
指揮者がトーク(笑)。 |
つねさん |
大変(笑)。 |
ジョージ |
もう、大変なんだよ。
それでしばらくするとまた
ダーッと出て来るから、
出て来るとまた1曲。
で、1幕終わって休憩が入ったから
楽屋に行って
「今日嫌でしょ?」って訊いたの。すると
「私何のために今日来たのか分からない」。
|
2人 |
はははは。 |
ノリスケ |
怒ってる怒ってる。 |
ジョージ |
「本当に分からない!」
「そうなんだ」
「昨日はね、今日のために
飲みたいお酒も飲まなかったのよ」
「あ、飲まなかったんだ」
「今朝も私ね、お腹いっぱいになると
声が出ないから・・・」
歌う人ってお腹いっぱいにすると
声がでないんだって。
でも2時間ステージをやると
体重5kgくらい減るんだって。 |
ノリスケ |
あ、そうなんだ。
すごいねえ! |
ジョージ |
だから栄養のあるものを
食べなきゃいけないんで、
彼女はレバーとか
フォアグラとかを食べるんだって。
「私はね、今朝ね、
フォアグラを食べて来たの。
ホテルオークラのフォアグラ。
最低だった」
|
2人 |
(笑)。 |
ジョージ |
「それで機嫌が悪いのに、ここでしょ。
こんな感じでしょ」って言うから
「言えばいいじゃない、
今度ステージ出たらさあ。
言った方がいいと思うよ」って言ったら、
「そうよね。2度と東急から
仕事来なくったっていいわ。言おう」。
でステージに出て行って、
「今日私、みなさんとちょっと
お話ししたいことがございます。
みなさま、私の歌を聞きに
いらっしゃったんでございましょうか」
って言い始めたんだよ。 |
つねさん |
ひひひひ。 |
ノリスケ |
うわあ。 |
ジョージ |
すげえぞ、いいぞいいぞ、
もっとやれーとかって。
「今日これから歌うこの歌は
マリア・カラスが
持ち歌にしていた歌であって、
この歌が持っている背景が
こうこうこうでこういうのがあって
こういうふうになって」
って言い始めると、その段階でね、
20人くらい帰った。
残った人たちはステージの方に
体がクッと向いて、
ふんぞり返ってた人も
椅子に深く腰を掛けて
聞くようになったの。 |
ノリスケ |
ほお。 |
ジョージ |
で、そっから先はね、
8曲くらい立て続けに歌ったんだよ。 |
ノリスケ |
へえ。 |
ジョージ |
やればできるじゃん、
みたいな感じじゃない? |
つねさん |
はははは。 |
ジョージ |
だけどね、アンコールは1回しかしなかった。
で、そのあとわがままオペラ歌手が
入り浸ってる某レストランで。 |
つねさん |
赤坂の。 |
ジョージ |
赤坂の某中国料理のレストランで、
お食事会、打ち上げをして、
ほとんどの人が
「何で今日アンコール1曲しかしなかったの?」
って聞くんだけど、僕らは
「よくアンコール1曲でも歌ったね」
って感じだよね。 |
つねさん |
がはははは。 |
ジョージ |
「そうなの。歌ったわ」とかって、
「歌いながら、ああ、アンコールなんか
してやるもんかって思ったのに、
私も日本人よね」って。
「イタリア人だったら
1幕目でもう帰ってた」とか。 |
つねさん |
そんな(笑)。 |
ジョージ |
でも、ライブってそういうもんだよね。
|