ジョージ |
やっぱりね、いい観客と
悪い観客がいると思うの。
悪い観客っていうのは、
これだけ金払ったんだから、
何か楽しいことしてくれるんでしょ、
お前有名なんだから歌うまいんだろ、
歌ってみろよ。そういう観客。
あるいは演劇でね、
おもしろいことの一つもやってみろよ、
って言う客はいい客じゃないんだよ。
で、いいお客さんっていうのはさ、
今日はいったいどういうものを
見せてくれるのかなあとかね、
このシートの本来の倍率って
どうだったんだろう、
ああもうここに来れただけで
すごく幸せだって思ってくれてる人。
そういう人の割合が多い空間は
すごくいい空間なんだけど。
もうね、すごい空間あるからね。
エンタテイメント系じゃないけど、
僕、ゼミとか講演会とかを、
お仕事でするんだけど、
自前でやるやつっていうのは
とても素敵なの。暖かいのね。
みんな聞きに来てくれてるから。 |
ノリスケ |
呼ばれて行くのは? |
ジョージ |
あのね、あんまり講演会とかで
失敗することはないんだけど、
今までの人生の中で最大の失敗っていうのは、
日本老舗旅館女将さん100人。 |
ノリスケ |
あはははは。うわー。 |
ジョージ |
呼ばれて行ったの。 |
ノリスケ |
恐ろしい(笑)。 |
ジョージ |
でね、行った場所が
お台場のグランパシフィック
メリディアンの大会議室かなんかで、
僕の前に入ってた人が
カラーコーディネーターの女の人で、
僕が控え室でこうやって待ってたら、
彼女の講演が終わったのね。
バラバラバラバラって拍手がしたと思ったら、
その女の子が泣きはらして帰ってきたの。 |
つねさん |
泣きながら! |
ジョージ |
泣いてんのよ。
うわあ、すごいなあと思って。
「どうかしたんですか?」
って言ったら、
「みなさん好意的じゃないんです」って。
うわあ、好意的じゃないんだって思って
入って行ったんだよね。
入って行ったら、ほとんどの人の頭が
菩薩様みたいなの。 |
つねさん |
岩石みたいに、でっかくアップになってるの? |
ジョージ |
そう。ぐわーってなってて。 |
ノリスケ |
鬼だ、鬼。 |
ジョージ |
半分着物、半分ドレスなんだよね。
ドレスなんだけど、頭は和髪なんだよね。 |
ノリスケ |
女将さんだから。 |
ジョージ |
それでね、粉臭い、香水臭い。
粉の匂いと動物の匂いが混じり合って。 |
ノリスケ |
地獄だ。 |
つねさん |
むせるよ。 |
ジョージ |
もうね、「あらー」だよ。
しょうがないからその時は
一番最初に正直に
「申し訳ありません。本日私、
話すことを準備して
来ておったんですけども、
みなさんのお顔を拝見して、
しゃべることは一切忘れて
頭の中は白紙でございます」
っていうふうに言ったら、
パチパチパチパチって拍手してもらって。 |
つねさん |
逆に受けたの? |
ジョージ |
そこから先は何かしんないけど、
世間話を1時間半、
ベラベラベラベラしゃべって。
もう、おばさん丸出しで! |
2人 |
ははははははは。 |
ジョージ |
そしたらね、けっこう受けたんだけど、
仕事としては大失敗だ。 |
ノリスケ |
なるほどね。 |
ジョージ |
そん時しゃべったことって、
それこそ「バリ島にこの前参りましたら
どこそこのお部屋が
こういうふうになっておりまして、
こうこうこうだったらこうだったんですよ」
って言ったら、みんなが
「ああーー」とかって言うのね。
「同じ系列なんですけど、
フィリピンの方のこういう
ホテルに参りましたらこうこうこうでこう。
まあこれもありかな」
「おおーーー」って。
結局私は男・甘糟りり子だったんだって
思いながら帰った。
|
2人 |
(大爆笑)。 |
ジョージ |
あれはね、大失敗。 |
ノリスケ |
いや、講演は難しい。 |
ジョージ |
難しいんだと思った。
難しいと思ったけど、度胸がついたね。
今日は失敗だったって思ったら
素に戻るっていうのが
一番いいんだって思った。
失敗を別のことで取り繕おうとすると、
僕の前の泣かされた女の子みたいに
なるんだと思うんだよ。
あとでその子に
「どういうことだったの?」って訊いたら、
「しゃべり始めて10分目くらいに、
最前列の全員があくびをしたんです」って。
後ろの方でハンドバッグを引っくり返して
中のものをばさっとテーブルの上に出して
ガシャガシャガシャって
整理をする音が聞こえるとか。 |
ノリスケ |
ええ? こわー。 |
つねさん |
ははは。 |
ジョージ |
あと、おしろいはたき始める。 |
ノリスケ |
当然だね。 |
ジョージ |
口紅を塗る。あまつさえ
マニキュアを塗り始めるとか。 |
ノリスケ |
すごい。 |
ジョージ |
後ろの方はおしゃべりが始まって、
おしゃべりが笑い声になって、
みんながそっちの方を向いて、
そっちの話題ができ始めて。 |
ノリスケ |
おそろしい。 |
ジョージ |
女のいじめよ。怖いよー。
でもね、女のいじめは直接的だからまだいい。 |
つねさん |
男のいじめはね、
その時は一生懸命ノートを取るんだよ。
大阪方面の勉強会に行った時にね、
僕大阪に行くと絶対標準語使わないんだよ。 |
ノリスケ |
関西弁使えるの? |
ジョージ |
関西弁を妙にしゃべると
もっと嫌われるんで、
僕は本当の田舎の言葉でしゃべる。 |
ノリスケ |
へえ。 |
ジョージ |
愛媛県の。そうすると、
これは彼らから見ると異境の言葉だから、
それだけでいろんなことが許されるんだよ。
内容のあることを言わなくたって。 |
ノリスケ |
あなたうまいですね(笑)。 |
つねさん |
策士だから。 |
ジョージ |
それでしゃべったことは一応残るの。 |
ノリスケ |
はいはいはい。 |
ジョージ |
僕の前の子が標準語で
ずっと数字の話をしたんだよね。
そういうのをおじさんたちは
ノート取るんだよ。
おもしろくない話なんだよ。
あ、でも大阪の人って
数字の話ってウケるのかな、
そしたら僕も考えないといけないな、
って思ってて。
彼は「やったぜ」っていうような顔をして
1時間して降りて来たんだよ。
ところが降りた瞬間に
今まで書いてたノートを
誰かがこうやって破ったの。
ビリビリビリって。
ありゃ? って何かこそこそこそこそ
後ろの方でしゃべってるの聞いてたら、
「大したことありませんでしたな」。 |
つねさん |
うわあ。 |
ジョージ |
ああ、これなんだって。
その人がいる時には
聞いてるような振りをして、
最後に0にするのが
男のいじめだなあって思って。 |
ノリスケ |
こわっ。 |
ジョージ |
じゃあ僕はコテコテに行こうって思って、
コテコテコテってやったら、
ノートは取らないんだけど、
聞いてくれるんだよね。
合の手も打ってくれるし、
しっかり拍手はしてくれるわけ。
で、終わってじゃあ次の
懇親会場に行きましょうって言ったら、
みんなが出たテーブルの上、
みんなが書いた数字のメモ、
置きっぱなしなんだよ。 |
ノリスケ |
ははは。 |
ジョージ |
で、懇親会場で名刺を渡しに来るのは、
僕の前がほとんどで彼のところには来ない。
どう思います? 女も怖いけど男も怖い。
どっちの怖さが好きって言ったら
僕は女の怖さの方が分かりやすくて好き。
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