APPLE
新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

夏休みの東京デート その9
いい観客になりましょうね。
ジョージ やっぱりね、いい観客と
悪い観客がいると思うの。
悪い観客っていうのは、
これだけ金払ったんだから、
何か楽しいことしてくれるんでしょ、
お前有名なんだから歌うまいんだろ、
歌ってみろよ。そういう観客。
あるいは演劇でね、
おもしろいことの一つもやってみろよ、
って言う客はいい客じゃないんだよ。
で、いいお客さんっていうのはさ、
今日はいったいどういうものを
見せてくれるのかなあとかね、
このシートの本来の倍率って
どうだったんだろう、
ああもうここに来れただけで
すごく幸せだって思ってくれてる人。
そういう人の割合が多い空間は
すごくいい空間なんだけど。
もうね、すごい空間あるからね。
エンタテイメント系じゃないけど、
僕、ゼミとか講演会とかを、
お仕事でするんだけど、
自前でやるやつっていうのは
とても素敵なの。暖かいのね。
みんな聞きに来てくれてるから。
ノリスケ 呼ばれて行くのは?
ジョージ あのね、あんまり講演会とかで
失敗することはないんだけど、
今までの人生の中で最大の失敗っていうのは、
日本老舗旅館女将さん100人。
ノリスケ あはははは。うわー。
ジョージ 呼ばれて行ったの。
ノリスケ 恐ろしい(笑)。
ジョージ でね、行った場所が
お台場のグランパシフィック
メリディアンの大会議室かなんかで、
僕の前に入ってた人が
カラーコーディネーターの女の人で、
僕が控え室でこうやって待ってたら、
彼女の講演が終わったのね。
バラバラバラバラって拍手がしたと思ったら、
その女の子が泣きはらして帰ってきたの。
つねさん 泣きながら!
ジョージ 泣いてんのよ。
うわあ、すごいなあと思って。
「どうかしたんですか?」
って言ったら、
「みなさん好意的じゃないんです」って。
うわあ、好意的じゃないんだって思って
入って行ったんだよね。
入って行ったら、ほとんどの人の頭が
菩薩様みたいなの。
つねさん 岩石みたいに、でっかくアップになってるの?
ジョージ そう。ぐわーってなってて。
ノリスケ 鬼だ、鬼。
ジョージ 半分着物、半分ドレスなんだよね。
ドレスなんだけど、頭は和髪なんだよね。
ノリスケ 女将さんだから。
ジョージ それでね、粉臭い、香水臭い。
粉の匂いと動物の匂いが混じり合って。
ノリスケ 地獄だ。
つねさん むせるよ。
ジョージ もうね、「あらー」だよ。
しょうがないからその時は
一番最初に正直に
「申し訳ありません。本日私、
 話すことを準備して
 来ておったんですけども、
 みなさんのお顔を拝見して、
 しゃべることは一切忘れて
 頭の中は白紙でございます」
っていうふうに言ったら、
パチパチパチパチって拍手してもらって。
つねさん 逆に受けたの?
ジョージ そこから先は何かしんないけど、
世間話を1時間半、
ベラベラベラベラしゃべって。
もう、おばさん丸出しで!
2人 ははははははは。
ジョージ そしたらね、けっこう受けたんだけど、
仕事としては大失敗だ。
ノリスケ なるほどね。
ジョージ そん時しゃべったことって、
それこそ「バリ島にこの前参りましたら
どこそこのお部屋が
こういうふうになっておりまして、
こうこうこうだったらこうだったんですよ」
って言ったら、みんなが
「ああーー」とかって言うのね。
「同じ系列なんですけど、
 フィリピンの方のこういう
 ホテルに参りましたらこうこうこうでこう。
 まあこれもありかな」
「おおーーー」って。
結局私は男・甘糟りり子だったんだって
思いながら帰った。
2人 (大爆笑)。
ジョージ あれはね、大失敗。
ノリスケ いや、講演は難しい。
ジョージ 難しいんだと思った。
難しいと思ったけど、度胸がついたね。
今日は失敗だったって思ったら
素に戻るっていうのが
一番いいんだって思った。
失敗を別のことで取り繕おうとすると、
僕の前の泣かされた女の子みたいに
なるんだと思うんだよ。
あとでその子に
「どういうことだったの?」って訊いたら、
「しゃべり始めて10分目くらいに、
 最前列の全員があくびをしたんです」って。
後ろの方でハンドバッグを引っくり返して
中のものをばさっとテーブルの上に出して
ガシャガシャガシャって
整理をする音が聞こえるとか。
ノリスケ ええ? こわー。
つねさん ははは。
ジョージ あと、おしろいはたき始める。
ノリスケ 当然だね。
ジョージ 口紅を塗る。あまつさえ
マニキュアを塗り始めるとか。
ノリスケ すごい。
ジョージ 後ろの方はおしゃべりが始まって、
おしゃべりが笑い声になって、
みんながそっちの方を向いて、
そっちの話題ができ始めて。
ノリスケ おそろしい。
ジョージ 女のいじめよ。怖いよー。
でもね、女のいじめは直接的だからまだいい。
つねさん 男のいじめはね、
その時は一生懸命ノートを取るんだよ。
大阪方面の勉強会に行った時にね、
僕大阪に行くと絶対標準語使わないんだよ。
ノリスケ 関西弁使えるの?
ジョージ 関西弁を妙にしゃべると
もっと嫌われるんで、
僕は本当の田舎の言葉でしゃべる。
ノリスケ へえ。
ジョージ 愛媛県の。そうすると、
これは彼らから見ると異境の言葉だから、
それだけでいろんなことが許されるんだよ。
内容のあることを言わなくたって。
ノリスケ あなたうまいですね(笑)。
つねさん 策士だから。
ジョージ それでしゃべったことは一応残るの。
ノリスケ はいはいはい。
ジョージ 僕の前の子が標準語で
ずっと数字の話をしたんだよね。
そういうのをおじさんたちは
ノート取るんだよ。
おもしろくない話なんだよ。
あ、でも大阪の人って
数字の話ってウケるのかな、
そしたら僕も考えないといけないな、
って思ってて。
彼は「やったぜ」っていうような顔をして
1時間して降りて来たんだよ。
ところが降りた瞬間に
今まで書いてたノートを
誰かがこうやって破ったの。
ビリビリビリって。
ありゃ? って何かこそこそこそこそ
後ろの方でしゃべってるの聞いてたら、
「大したことありませんでしたな」。
つねさん うわあ。
ジョージ ああ、これなんだって。
その人がいる時には
聞いてるような振りをして、
最後に0にするのが
男のいじめだなあって思って。
ノリスケ こわっ。
ジョージ じゃあ僕はコテコテに行こうって思って、
コテコテコテってやったら、
ノートは取らないんだけど、
聞いてくれるんだよね。
合の手も打ってくれるし、
しっかり拍手はしてくれるわけ。
で、終わってじゃあ次の
懇親会場に行きましょうって言ったら、
みんなが出たテーブルの上、
みんなが書いた数字のメモ、
置きっぱなしなんだよ。
ノリスケ ははは。
ジョージ で、懇親会場で名刺を渡しに来るのは、
僕の前がほとんどで彼のところには来ない。
どう思います? 女も怖いけど男も怖い。
どっちの怖さが好きって言ったら
僕は女の怖さの方が分かりやすくて好き。

どんどん「東京」からずれてしまった
今回のシリーズでございました。
次回はもう収録ずみ!
ちょっとディープな話題をお届けします。
お楽しみに!

新宿二丁目の方々への激励や感想などは、
メールの表題に「二丁目の方々へ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2003-09-03-WED

BACK
戻る