APPLE
新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

この世界をどこから見たらいいんだろ。その3
悩んだ? 悩まなかった?
ジョージ でも、ゲイである自分に悩んだことある?
つねさん じぇんじぇん。
ノリスケ もちろんありますよ。
つねさん まったく、にゃーい。
ノリスケ まったくない?
つねさん ないよ。
ノリスケ 僕は、20代まで
悩んでました。
つねさん そう?
どういうとこ悩んだの?
ノリスケ 責任が全うできないなと思ったの。
つねさん 結婚できないとか?
ノリスケ うん。望まれるような家庭が持てない。
自分の望むシアワセの形は、
とても愛している人、親ね、の
望んでいるシアワセの形とは、
ぜんぜん違うものだってこと。
で、それを隠していること。
ジョージ 後ろめたさがある。
ノリスケ 後ろめたさがあって、
ふだんはそんなこと、忘れてるの。
でも、何かの瞬間に、
その現実に直面しちゃうのね。
ひとりで。ひとりぽっちで。
ああ、僕はゲイなんだっていうふうに、
すごく真面目に向かい合う瞬間があって。
そんときは、それこそ
全身の毛が抜けるような、
真冬に氷水を頭から
ザーッとかぶったような
悲しさや苛立ちみたいなものを感じて。
それを何度も何度も繰り返してきたよ。
つねさん 今は?
ノリスケ 今は、なくなったけれど(笑)。
年を取ったっていうことなのかな。
それからゲイの友達もいっぱいできたし
ゲイだってことをふつうに受け止めて、
なおかつ一緒に遊んでくれる
ストレートの友達も
たくさんできたの。
男も女もね。
そういうことが大きかったかな。
ジョージ 僕はずーっと悩みもしなかったし、
完全に受け入れたほうだけど、
だけど後ろめたさはあった。
だけどね、人間どんどんどんどん
年取ってくとね、
自分がゲイである後ろめたさ以上の
後ろめたさが
いっぱいたまってくるの(笑)。
たとえば、あんなときについた嘘とか、
あんなときにした不正とか、
あんなときにした、
人をおとしめるような行為とか。
ノリスケ ゲイだろうがストレートだろうが、
仕事だろうがプライベートだろうが
そういうことは、あるよね。
ジョージ いっぱいあるんだよね。
ノリスケ 心ならずもしてしまったようなことが
重なってくるのよね。
ジョージ そうそうそうそう。
それでね、そんなことに比べて、
ゲイってどういうことなんだろう?
って思い始めるんだよ。
ノリスケ そう、だから、
ゲイってことは、
大したことないってね(笑)。
ジョージ なんか人に言えない後ろめたさって、
僕のおやじも持ってて、
おふくろも持ってるはずなのね。
で、その数多くある
後ろめたさのただひとつ、
まあ、彼らと分かち合えない部分が、
せいぜいゲイであることぐらいなのかな?
っていうふうに思うとね、
けっこう安心はするようになったよ。
でも、未だにやっぱりどっかにあるね。
強迫観念っていうか。
だけど、だけどそれは
みんな持ってることだなって、
思えるようにはなった。
ノリスケ 確かにそれ、僕が感じなくなったのも、
結局、もっと他に考えることや
悩むことが出てきたからであって。
ジョージ そうそう、そんな感じ。
ノリスケ そのこと自体、
なにも解決してないんですよ(笑)。
ないんだけど‥‥。
つねさん まあね。でも、
仕方がないじゃんのひとことで、
結局、押し殺すしかないよね、
そういう部分って。
ジョージ そうだね。
ノリスケ うん、まあねぇ。
ジョージ 昔、相談相手とかいた?
つねさん ぜんぜん。
まったくいなかったね。
そもそも悩んでいなかったし、
そういう友だちもいなかったもん。
ノリスケ 僕もいなかったですよ。
だから考えたし、本を読んだよね。
ジョージ そうだよね。
ノリスケ 本は、メチャクチャ読んだね。
ジョージ 僕はね、ゲイであって
良かったっていちばん思うのが、
自分の中に自分の話し相手がいること。
つねさん あ〜。
ノリスケ そうですね。
ジョージ あの、いろんな役割が
自分の中に分かれてあるから、
立場々々に応じて、
自問自答ができるんだよね。
で、それこそ、小っちゃかった頃に、
まだ小学生ぐらいのときに、
たとえば自分がピアノを弾いたり、
お歌を歌ったりすると、
みんな感心をするんだよ。
感心はするんだけど、
どっかに怪訝さが残るんだよね。
ノリスケ この子は、なんでこんなことに
得意になって一生懸命やってるのかしら?
うっとりして、って(笑)?
ジョージ そう。特にね、身近な身内、
中途半端な身内。
ノリスケ 親戚だね。面倒だね。
ジョージ いとこ。いとこの
男の子たちっていうのは、
遠慮がないうえに、
自分の属している社会の規範を
平気で押し付けてきたの。
なんでおまえは
キャッチボールをしないんだ?
なんでそんなにピアノが上手いんだ?
とか、訊くんだよ。
で、訊かれたときに、
自分の中でやっぱりね、
自己問答するんだよね。
なんでだろう?
人前でそんなに歌っちゃいけないのかな?
そう思いながら
一生懸命対話をしていくわけ。
いや、そうじゃない、
だって、自分は歌が上手いんだし、
好きなんだし楽しいんだし、
いいじゃないか。
でも、あの人から言われてる、
さあどうする?
っていうの、自分の中でね、
やっぱりいろいろ‥‥。
つねさん 答えやすい答えを作った?
ジョージ 作ってたよね。
つねさん いいわけみたいなのとか。
ジョージ うん、作ってた。
だから、ひとり遊びが
ものすごく上手だったし、
本読むの好きだったしね。
つねさん ああ、多分に
そういうところもあったのかな。
本ってどういう本?
ノリスケ 同性愛的なものが
書かれているものは、
片っ端から読んだよ。
当時わかる範囲で、ぜんぶ読んだ。
中学生ぐらいで
プラトンの『饗宴』も
サドの『ソドム百二十日』
まで読んでたもん(笑)。
つねさん すごぉーい。
ノリスケ アンドレ・ジッドも読んだし、
三島由紀夫も読んだし。
つねさん あー。
ノリスケ 男色が出てくる
時代小説も読んだし。
ジョージ そうなんだよね。
ノリスケ うん。
たぶんね、量を読むことで、
自分はそんなに異端じゃないんだって
思いたかったんだと思う。
ジョージ かといって、それが
内省的なわけではないんだよね。
ノリスケ 違うねー。


続きます〜!

新宿二丁目の方々への激励や感想などは、
メールの表題に「二丁目の方々へ」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2003-09-12-FRI

BACK
戻る