ジョージ |
でも、ゲイである自分に悩んだことある? |
つねさん |
じぇんじぇん。 |
ノリスケ |
もちろんありますよ。 |
つねさん |
まったく、にゃーい。 |
ノリスケ |
まったくない? |
つねさん |
ないよ。 |
ノリスケ |
僕は、20代まで
悩んでました。 |
つねさん |
そう?
どういうとこ悩んだの? |
ノリスケ |
責任が全うできないなと思ったの。 |
つねさん |
結婚できないとか? |
ノリスケ |
うん。望まれるような家庭が持てない。
自分の望むシアワセの形は、
とても愛している人、親ね、の
望んでいるシアワセの形とは、
ぜんぜん違うものだってこと。
で、それを隠していること。 |
ジョージ |
後ろめたさがある。 |
ノリスケ |
後ろめたさがあって、
ふだんはそんなこと、忘れてるの。
でも、何かの瞬間に、
その現実に直面しちゃうのね。
ひとりで。ひとりぽっちで。
ああ、僕はゲイなんだっていうふうに、
すごく真面目に向かい合う瞬間があって。
そんときは、それこそ
全身の毛が抜けるような、
真冬に氷水を頭から
ザーッとかぶったような
悲しさや苛立ちみたいなものを感じて。
それを何度も何度も繰り返してきたよ。 |
つねさん |
今は? |
ノリスケ |
今は、なくなったけれど(笑)。
年を取ったっていうことなのかな。
それからゲイの友達もいっぱいできたし
ゲイだってことをふつうに受け止めて、
なおかつ一緒に遊んでくれる
ストレートの友達も
たくさんできたの。
男も女もね。
そういうことが大きかったかな。 |
ジョージ |
僕はずーっと悩みもしなかったし、
完全に受け入れたほうだけど、
だけど後ろめたさはあった。
だけどね、人間どんどんどんどん
年取ってくとね、
自分がゲイである後ろめたさ以上の
後ろめたさが
いっぱいたまってくるの(笑)。
たとえば、あんなときについた嘘とか、
あんなときにした不正とか、
あんなときにした、
人をおとしめるような行為とか。 |
ノリスケ |
ゲイだろうがストレートだろうが、
仕事だろうがプライベートだろうが
そういうことは、あるよね。 |
ジョージ |
いっぱいあるんだよね。 |
ノリスケ |
心ならずもしてしまったようなことが
重なってくるのよね。 |
ジョージ |
そうそうそうそう。
それでね、そんなことに比べて、
ゲイってどういうことなんだろう?
って思い始めるんだよ。 |
ノリスケ |
そう、だから、
ゲイってことは、
大したことないってね(笑)。 |
ジョージ |
なんか人に言えない後ろめたさって、
僕のおやじも持ってて、
おふくろも持ってるはずなのね。
で、その数多くある
後ろめたさのただひとつ、
まあ、彼らと分かち合えない部分が、
せいぜいゲイであることぐらいなのかな?
っていうふうに思うとね、
けっこう安心はするようになったよ。
でも、未だにやっぱりどっかにあるね。
強迫観念っていうか。
だけど、だけどそれは
みんな持ってることだなって、
思えるようにはなった。 |
ノリスケ |
確かにそれ、僕が感じなくなったのも、
結局、もっと他に考えることや
悩むことが出てきたからであって。 |
ジョージ |
そうそう、そんな感じ。 |
ノリスケ |
そのこと自体、
なにも解決してないんですよ(笑)。
ないんだけど‥‥。 |
つねさん |
まあね。でも、
仕方がないじゃんのひとことで、
結局、押し殺すしかないよね、
そういう部分って。 |
ジョージ |
そうだね。 |
ノリスケ |
うん、まあねぇ。 |
ジョージ |
昔、相談相手とかいた? |
つねさん |
ぜんぜん。
まったくいなかったね。
そもそも悩んでいなかったし、
そういう友だちもいなかったもん。 |
ノリスケ |
僕もいなかったですよ。
だから考えたし、本を読んだよね。 |
ジョージ |
そうだよね。 |
ノリスケ |
本は、メチャクチャ読んだね。 |
ジョージ |
僕はね、ゲイであって
良かったっていちばん思うのが、
自分の中に自分の話し相手がいること。 |
つねさん |
あ〜。 |
ノリスケ |
そうですね。 |
ジョージ |
あの、いろんな役割が
自分の中に分かれてあるから、
立場々々に応じて、
自問自答ができるんだよね。
で、それこそ、小っちゃかった頃に、
まだ小学生ぐらいのときに、
たとえば自分がピアノを弾いたり、
お歌を歌ったりすると、
みんな感心をするんだよ。
感心はするんだけど、
どっかに怪訝さが残るんだよね。 |
ノリスケ |
この子は、なんでこんなことに
得意になって一生懸命やってるのかしら?
うっとりして、って(笑)? |
ジョージ |
そう。特にね、身近な身内、
中途半端な身内。 |
ノリスケ |
親戚だね。面倒だね。 |
ジョージ |
いとこ。いとこの
男の子たちっていうのは、
遠慮がないうえに、
自分の属している社会の規範を
平気で押し付けてきたの。
なんでおまえは
キャッチボールをしないんだ?
なんでそんなにピアノが上手いんだ?
とか、訊くんだよ。
で、訊かれたときに、
自分の中でやっぱりね、
自己問答するんだよね。
なんでだろう?
人前でそんなに歌っちゃいけないのかな?
そう思いながら
一生懸命対話をしていくわけ。
いや、そうじゃない、
だって、自分は歌が上手いんだし、
好きなんだし楽しいんだし、
いいじゃないか。
でも、あの人から言われてる、
さあどうする?
っていうの、自分の中でね、
やっぱりいろいろ‥‥。 |
つねさん |
答えやすい答えを作った? |
ジョージ |
作ってたよね。 |
つねさん |
いいわけみたいなのとか。 |
ジョージ |
うん、作ってた。
だから、ひとり遊びが
ものすごく上手だったし、
本読むの好きだったしね。 |
つねさん |
ああ、多分に
そういうところもあったのかな。
本ってどういう本? |
ノリスケ |
同性愛的なものが
書かれているものは、
片っ端から読んだよ。
当時わかる範囲で、ぜんぶ読んだ。
中学生ぐらいで
プラトンの『饗宴』も
サドの『ソドム百二十日』
まで読んでたもん(笑)。 |
つねさん |
すごぉーい。 |
ノリスケ |
アンドレ・ジッドも読んだし、
三島由紀夫も読んだし。 |
つねさん |
あー。 |
ノリスケ |
男色が出てくる
時代小説も読んだし。 |
ジョージ |
そうなんだよね。 |
ノリスケ |
うん。
たぶんね、量を読むことで、
自分はそんなに異端じゃないんだって
思いたかったんだと思う。 |
ジョージ |
かといって、それが
内省的なわけではないんだよね。 |
ノリスケ |
違うねー。 |