ジョージ |
あとは、恋人。
愛着を持つべきなのは、恋人。
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ノリスケ |
恋人には、愛着を持つべきよ(笑)。
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ジョージ |
愛着をもって人に接しているのか、
それともその人に執着しているのか?
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ノリスケ |
あ〜。
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つねさん |
あの、たまにいるよね、
外に出したがらないとか、
人に会わせたがらないとか。
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ノリスケ |
その、こだわる、
まさしく拘束。
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つねさん |
あれは、やっぱりおかしいよね。
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ジョージ |
だって、だってー、
僕らみたいな関係なんていうのは、
婚姻契約を結んでいるわけでもなく
いつかはいなくなるかもしれないし。
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つねさん |
ま、いるかもしれない、うん。
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ジョージ |
一生いっしょにいたいねっていってても、
なんらかの問題で、
たとえば僕が死んじゃったりとかすると、
それはもう、否応なしに
別れることになるでしょ?
だから、人同士のつきあいなんていうのは、
恋人であれ夫婦であれ、
いつかは別れてしまうかもしれないと
思いながら、それでも注ぐのが愛着であり
愛情じゃない?
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つねさん |
愛情だよね。
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ノリスケ |
フランスで法律ができたのよね。
パートナーシップも法律で保障する。
それは兄弟でもいいし、
友だち同士でもいいし、
同性の恋人同士でもいい、
未婚の男女でもいい。
あの、つまり、片方が亡くなったときに、
10年一緒に住んできたパートナーが
悲しみ嘆いているのに、
ほとんど会わなかった家族がやってきて
家財道具全部とっていっちゃう、
あるいは、追い出される。
何も残らないっていう状況はおかしい、
っていうふうに思った
フランス人の偉い人が、
その法律を作ったんだよね。
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ジョージ |
そうね。でね、執着してしまうと、
逃がさないように逃がさないように
するんだよね。そうすると、
その人の携帯メールをチェックしたり、
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つねさん |
メールをチェックしたり、郵便物を‥‥。
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ジョージ |
ストーカー行為っていうのは
執着だものね。
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ノリスケ |
そうね。
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ジョージ |
で、世の中には愛情という名前の
ストーカー行為がいっぱいあって、
それは執着だよね。
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ノリスケ |
愛してるからよ!
っていうんだよね(笑)。
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ジョージ |
で、昔からおとなの愛っていうのは、
自分ひとりで独占できない、
あるひとりの魅力的な人間がいてこその
ものなわけでしょう。
だって、誰からも羨まれる、
素晴しい人間だったらば、
僕ひとりにはもったいないわけであって。
で、その人を拘束しようとするから
不幸が始まるんだよね。
で、そこを乗り越えて、
どこへ行ってしまうかもわからない、
でも、あなたが好きですよ、
っていうのがおとなの恋だと思うな。
ウチのね、例のあのおちゃめな
母と父がね‥‥。
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ノリスケ |
はい、必ずサンプルに出てくるね(笑)。
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つねさん |
ははは。
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ジョージ |
今、まさにね‥‥。
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ノリスケ |
なに? なにやらかしてるの?(笑)
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ジョージ |
いやー、これね、すっごい、もうね‥‥。
あー、この人たちは、
もう、んーとね、自分たちの関係の
終わりに向かって、
手に手を携えて歩き始めたの。
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ノリスケ |
あの、聞くたびに仲良くなってるよね。
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ジョージ |
なってるー。
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つねさん |
そう、僕もね、びっくりするんだけど。
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ジョージ |
うん、それで、それがね、
障害を乗り越えた仲良さじゃないんだよ。
なんか、新しいものを見いだした仲良さでね。
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ノリスケ |
はぁー‥‥。
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ジョージ |
で、あの、金星が大接近したじゃない?
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ノリスケ |
それは火星。
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ジョージ |
あ、火星だ、大接近してるでしょう?
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ノリスケ |
6万年に1度。
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ジョージ |
でね、あの、火星がいちばん近づいたときに、
たまたま、うちのおやじとおふくろが
家にいたの。たまたま一緒にいたっていうの、
めずらしいんだけどね(笑)。
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ノリスケ |
それぞれ別宅があるのに(笑)。
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ジョージ |
で、ニュースで、
今日が火星がいちばん接近してる日ですって。
あなた、それじゃあ、見に行きましょう、
っていって、うちの近所でいちばん
小高い丘のとこまで歩いていって、
そこでふたりで火星を見たと。
「手を繋いで私たちは見たのよ」。
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ノリスケ |
それ、息子に言うの?(笑)
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ジョージ |
そう。そしたら、
「なんでまた?」って訊くでしょう?
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ノリスケ |
訊くよね。
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ジョージ |
そしたらね、
「私たちはいつ別れてもおかしくない
夫婦なのよ。よくもまあ、
ここまで続いてこれたわよね、
って、思うのよね」
って。で、
「ほんっとに明日別れてしまうかも
しれないけれど、たとえば別れて
輪廻転生して
もうふたたび人間になって、
なんかの巡り合わせでもう1度
ふたりが結婚したとしても、
この大きさで火星を見ることは
2度とできないと思ったら、
今見とかないと安心して別れることが
できないと思ったからふたりで見てるの。
ねぇ、おとうさん」
って言ったら、もうウチのおやじが
ニコニコニコニコしながら、
「うん、そうだ」
って言うのよ?
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ノリスケ |
はははははは。どういうことだ。
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つねさん |
わっかんないけど、すごい(笑)。
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ジョージ |
ねぇ。それからね、もう、毎晩毎晩。
あそこに行き「火星があるね」、
こっちに行き
「火星があるね。今日はあそこだね」
「大きさが昨日より小っちゃいね」とかね。
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つねさん |
へぇー。
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ジョージ |
んで、おやじが出張に出てるときは
携帯電話で、
「あなた、今日の火星は
どこの位置にある?」って。
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つねさん |
あ、そこまでやってるんだ。
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ジョージ |
そう。で、
「お月さまの斜め、下のこのくらいの
位置だよ」っていうと、
「私もおんなじ火星が見える、
明日もがんばってね」
っていうふうに言ってるの!
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つねさん |
へぇー。なんかラブラブじゃん。
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ジョージ |
ラブラブ。ラブラブなんだけど、
やっぱりね、おとなのラブっていうのは
ここまで真剣になって、
どっかで共通の盛り上がるものを
作り上げないと、なくなるぐらい
デリケートなものなんだね。
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ノリスケ |
確かにそうですね。
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つねさん |
はぁ〜‥‥。
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ジョージ |
んで、そのくらいしか
共通の話題がなくなってたんだよ。
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つねさん |
あぁ、そっかそっか。
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ジョージ |
でもふたりはね、
今それで、すごいラブラブなの。
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ノリスケ |
燃えてるの?
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ジョージ |
燃えてる。ほんで、
ほんっとにふたりの中には、
この人は、私とは一緒に
一生は、いないかもしれない、
というのが前提。で、おやじの中には、
俺はいつかはこいつに捨てられるだろうな、
というのが前提。
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ノリスケ |
あぁ‥‥ま、行いを
改めないにしてもね(笑)。
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ジョージ |
うん、改めないよ、ふたりともね。
でも、そういう、そういう前提で、
それでもあえて一生懸命ふたりでいようって、
思うことって大切よね。
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つねさん |
うん、そうだよね。
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ジョージ |
と思う。その部分がないと、
たとえば男的に
ウチの女房は生活力がないから、
どうせ俺と一生一緒なんだろう、とか、
あるいは奥さんとしてみれば、
ウチの亭主なんて、あんな禿げちゃって
中年太りで腹が出て
私がいなかったらなんにもできないんだから、
少々私が変なことをしたって、
家事の手を抜いたって、
絶対あの人は一生私といるんだ、って、
思ってることが、
いろーんな今の不幸を生むじゃない?
これは執着以前の問題であってね。
人間関係が当然と思うと、
ろくなことはないなと思う。
それは物もそうでしょ?
いつかは壊れてなくなってしまうと
思うものに対して‥‥。
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つねさん |
愛情を注ぐ。
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ノリスケ |
それが「愛着」。 |