ジョージ |
ばぁやさんが亡くなりました、
っていうのを聞いて、
お墓参りに行こう、って家族で行ったの。
その、ばぁやさんには
娘さんがいらっしゃって、
その娘さんのとこに行ったの。
で、けっこういろんな話をしたのね。
75、6歳で死んだのかな?
痴呆をわずらっちゃったんだよ。 |
ノリスケ |
老人性痴呆? |
ジョージ |
そう。で、その、老人ホームに‥‥。 |
ノリスケ |
入れるしかなくなって? |
ジョージ |
そう、特別養護。でね、そこでね、
週に1回ぐらい定期的に、
その娘さんがお母さんのとこを訪ねに行くの。
で、そうすると、店屋物を取るわけよ。 |
つねさん |
ふんふん。 |
ジョージ |
ある日お寿司を取ったんですって。
で、そのお母さん──
僕のばぁやさんだよね、
とお寿司を食べながら、言うんだって。
こんな粗末なお寿司を取って、
ああ、奥さまにしかられる、って。
奥さまっていうのが、ウチのお母様。 |
つねさん |
ゴージャスマミー。 |
ジョージ |
そう。んで、お見舞いの子どもたちが
騒いでるとね、
僕の名前を呼ぶんですって。
坊ちゃんが騒いでる。
しかりに行かなきゃ。って。 |
ノリスケ |
あぁ、教育係でもあったのね。 |
ジョージ |
彼女にとって、彼女の人生の中で
いちばん幸せで楽しかった出来事は、
僕たち家族と一緒にいた時間らしいの。
痴呆になったときに、
いちばん幸せだった自分に
戻ったんだよね。 |
ノリスケ |
うん、そういうよね。 |
ジョージ |
そうすると、もう彼女の中には、
しかられるのは奥さまで、
しからなきゃいけないのは僕で。 |
つねさん |
坊ちゃんで。 |
ジョージ |
そう。それで、あと妹2人いたから、
女の子を見ると、
必ず妹2人のどっちかの
名前を言うんだって。 |
つねさん |
へぇー。 |
ジョージ |
もっと大きくなって
キレイになってくださいね、
ばぁやはお婿さんが見たいです、
っていうふうに言うんだって。 |
ノリスケ |
せつないね。 |
ジョージ |
うん。
そういうのを考えると、
やっぱりなんか、
誰かと一緒に幸せな時間を過ごさないと、
老後ってボケても幸せじゃないのかな?
とかって思ったりするの。 |
ノリスケ |
そうよ、その通りよ。 |
ジョージ |
おやじとおふくろと僕と3人でね、
お墓参りに行ってその話聞いてね、泣いた。
泣いたんだけど、いちばん辛そうだったのが
ウチのおやじでね。
ウチのおやじのことは一切言わなかったの。 |
ノリスケ |
あははははははは!
思い出から消えてる。 |
ジョージ |
ウチのおやじはね、
自分の話がいつ出てくるか
ワクワクして膝を乗り出して
聞いてたのにね。 |
つねさん |
あははははは! それ、悲しい!(笑) |
ジョージ |
そんでね、もうそれで終わりなんだよ。
で、おふくろも訊かなきゃいいのにさ、
あの、ウチの主人のことは、
なんか言ってませんでした?
っていったら、いや、ぜんぜん、って。
ガクーンって肩を落としてね。 |
つねさん |
そんなオチがくるわけね(笑)。 |
ノリスケ |
ちゃんちゃんっ(笑)。 |
ジョージ |
ん〜。でも、それだけね、
やっぱり、
男って存在感がないんだな、って。
おふくろはおふくろでね、
私って、そんなにしかってたかしら?
なんで奥さんにしかられる、って、
私、言われなきゃいけないのかしら〜?
とかって言ってたよ。 |
ノリスケ |
ほんとにしかってたんでしょうね(笑)。 |
ジョージ |
けっこうね、
不幸な女性だったかもと思うんだ。
ご主人に恵まれなかった人だし、
その当時で、もう再婚の人だったし。 |
ノリスケ |
苦労なさったのね。 |
ジョージ |
たぶん、たぶん何か過去のある
女性だったんだと思うんだ。
だけどね、なんかね、
上流階級を気取ってる私たち?
の中に入ってきた、とても庶民的な人で。
たとえばね、魚の煮付けをすると、
残った煮魚、冷蔵庫に入れとくと、
煮こごりが美味しいじゃない? |
つねさん |
美味しいよね! |
ジョージ |
で、あの煮こごりを、
炊き立てのご飯の上に乗っけて食べると、
すんごい美味しいでしょ? |
ノリスケ |
あ〜〜! 美味しいよね。 |
ジョージ |
で、そういうのを、僕といっしょに
こっそり食べるんだよ。
食べてるの見つかると、
すっごいしかられるの、
おふくろに(笑)。
こんなもの食べさせて、とかって。 |
ノリスケ |
ほら、やっぱりしかってた。 |
ジョージ |
すっごいしかられるんだよ。 |
ノリスケ |
彼女も、しかられてるのもわかってるけど、
煮こごりを食べる
お坊ちゃんのニッコリした顔が
思い浮かぶんだろうね。 |
ジョージ |
そうそうそう。 |
つねさん |
両方あったのね。 |
ジョージ |
んでね、内緒で、食べるんだよ。
今日、奥さんは会合で帰ってこないから、
食べましょう、とかって、
デヘッ、って食べるの(笑)。
あとね、その、電子レンジが
はじめてやってきたときに‥‥。 |
ノリスケ |
はぁ〜、ハイカラだったね。 |
つねさん |
すごい。 |
ジョージ |
大昔の電子レンジって、
電波局に申請を出すの。 |
ノリスケ |
やだわ、いつの時代の話なの。
電波障害起すから? |
ジョージ |
うん。申請書がないと置けなかったんだよ。 |
つねさん |
へぇ、マイクロウエーブだ。 |
ノリスケ |
それ英語にしただけじゃないのよ。
はぁ! そんな時代があったんだ。 |
ジョージ |
で、そういう時代に入ってきて。
んで、彼女と、もうひとりね、
お手伝いさんがいたのね。
その子は若い子だったんだけど、
ばぁやさんは、もうぜんっぜん、
想像外の出来事だから。
火を使わないのに物が暖まるっていうのが。 |
ノリスケ |
イオンがぶつかって
加熱されるなんてね(笑)。 |
ジョージ |
そう。その、チンするたんびに、
拝むんだよ、電子レンジの前で。
こうやって(手を合わせる)。
ああ、ありがたい、ありがたい、って。 |
つねさん |
神様なわけね。 |
ジョージ |
そう、ありがたい、って。
んで、それを見てたお手伝いさんがね、
まだ二十歳前だったと思うんだ。
ウチに帰って、自分のお母さんに、
今日、こうこうこういうことがあって、
スイッチを押して一生懸命拝むと、
食べものが温かくなって出てくる箱がある、
って話をしたら、
あんた、もう明日からそこに行くのは
やめなさい!! って。
その屋敷は変だ、
変なものが、たぶんある、って思って、
すっごい真剣に悩んだらしいんだよ。 |
つねさん |
悪魔の館? |
ジョージ |
そう。で、翌日、恐る恐るやってきて。
で、ウチの母にこうこうこういう話をしたら、
明日から行くな、って言われたんですけど、
私どうしましょう? って。
で、ウチのおふくろが、
電話かけて、直談判して、
明日からもお嬢さんをよこして下さい、
っていうことを言ったような、そんな時代。 |
つねさん |
へぇ〜! すごいね。
|