ノリスケ |
その奥様と離婚を考えていたって? |
ジョージ |
そう。 |
ノリスケ |
あらま。 |
ジョージ |
で、その、実際彼女が、
子どもを連れてイギリスに
帰ったこともあるんだ、っていうの。
僕、聞いてもないのに、
なんでそんなに
ディープな話をするのぉ? って。 |
ノリスケ |
宴会の席でねえ。 |
ジョージ |
えーっ!? って言ったら、
いや、あなたになら素直に
僕は話せそうな気がするから、
誰にも話したことがないんだけど、
聞いてくれる? っていうの。
もう、聞くしかないじゃない。
うん、聞くよ、って。
今日は酔っ払いだし、
あんたも酔っ払いだろうし、って。
んで、こういう話だった。
結婚したときに、彼女は自分のために
料理を作ってくれたり、
洗濯をしてくれたり、
掃除をしてくれたり
するもんだと思ってた、
って言うんだよね。 |
ノリスケ |
あ! |
ジョージ |
で、そのように教育を
しようとしたんだけど、
彼女はことごとく反発をした、
って言うんだよ。 |
ノリスケ |
うーんうん。 |
ジョージ |
んで、こんな嫁もらって、
俺、最低だな、って思ってた、
っていうのね。
だけど、今は、自分が、
休みの日には昼ご飯を家族のために作る、
掃除も僕がするし、
自分の着てるものは、
ぜんぶ自分で買いに行く、
って言うのね。
で、なんでそうやって
変わったんですか?
っていったら、
彼女が、もう堪忍袋の緒が切れて、
子ども2人連れてイギリスに帰ったのが
きっかけだったんだって。
ほんっとに、ほんっとにね、
夜逃げだったんだって。
仕事から帰って家に帰ったら、
家が真っ暗で、誰もいなかった。
で、書き置きひとつあって、
その書き置きが、
「私は人間と
結婚をしたつもりだったけど、
あなたは人間じゃない」
っていうものだったんだって。 |
つねさん |
うわぁ。 |
ノリスケ |
きつぅ。 |
ジョージ |
彼のほうも、
すっごい逆上したらしいんだよ。
弁護士を呼んで、
どうやったら子どもが取り戻せるか、
っていうことしか、
考えなかったらしいんだよね。 |
ノリスケ |
もう離婚してもいいから、
子どもは奪われたくないと。 |
ジョージ |
そう。それで、だけど、
「人間と結婚したつもりだったけど、
人間じゃなかった」っていう言葉が、
ものすごく引っ掛かったらしいんだよね。
で、ずーっと、その、結婚してから、
彼女との関係を思い出してみたんだって。
彼女がね、一度、
「おれの下着買ってきて」
って言ったら、
嫌だ、って言ったらしいんだよ。
じゃあ、私はあなたの
下着を買ってもいいけど、
あなたは私のブラジャーを買ってくれるの?
スーパーマーケットに行って、
私のブラ、あなた買える?
って聞くんだって。
や、俺は男だから、そんなことしないよ、
って言ったらね、そのときに、
「あなたは男かもしれないけど、
人間じゃない」
って、言われたことがあるのを
思い出したんだって。 |
ノリスケ |
はぁ〜。 |
つねさん |
はぁ〜。 |
ジョージ |
それが頭の中でガンガンガンガンって。
──あ、そうか、俺は、
男であることにこだわってたけど、
人間じゃなかった、って。 |
つねさん |
はぁ〜。 |
ジョージ |
俺はあいつを女だと思って
こだわってたけど、
あいつは女より前に
人間だったんだ、って。 |
ノリスケ |
はぁ〜! |
ジョージ |
んで、それまではね、
一日も仕事休まなかった人なんだけど、
幹部社員呼んで、
俺は明日から1週間休みを取るよ、
こういう事情で、
女房に会いに行ってくるから、って。
絶対許してくれないかもしれないけど、
会いに行かないと気が済まないから──って、
1週間休みを取って、イギリスに行ったの。
んで、家に行って、話をしたんだって。
彼女は彼に会って、
「あなたは今日は何をしに来たんですか?」
と訊いた。で、彼はね、
「今日は人間同士の話をしに来ました」
って言ったら、ニコッとして、
「じゃあ話をしましょう」と。
「君はなんで帰ったんだ?」って訊くと、
こう言われたそうなの。
「あなたは、大人です。
あなたが子どもだったら、
あなたのために料理も作りましょう、
掃除もしましょう、洗濯もしましょう。
あなたが買って欲しいという
下着も買いましょう。
でも、あなたは大人で、
自分のお金で自分で買えるんだから、
そういうことを言って欲しくはなかった。
私は、あなたが大人の人間だから
結婚をしたのに、
あなたはいつまでたっても
大人にならなかった」。 |
つねさん |
はぁ〜。 |
ノリスケ |
うん、お見事。で、彼はなんて? |
ジョージ |
「うん、そう言われると思って、
今日は来たよ」
って。
「日本に一緒に帰ってくれたら、
僕は大人になるし、
あなたを大人の人間として
扱おうと思うので、
よろしくお願いします」
って言ったら、彼女が、
わかりました、と。
帰る前に私も謝りたい、
大人であるあなたに内緒で、
子ども2人を奪った私は最低の人間です、と。
許してくれたら帰りましょう、
っていうんで
家族みんなで帰ったんだって。 |
つねさん |
すごい‥‥。 |
ノリスケ |
はぁ〜〜〜。 |
ジョージ |
で、そういう話をね、してくれたの。 |
ノリスケ |
酔っ払って(笑)。 |
ジョージ |
そう、酔っ払って。
なんかね、今日はね、
あなたにこの話がしたくて
しょうがなかったー、って、
できて良かったー、とかって言うの。 |
ノリスケ |
はぁ〜〜。 |
つねさん |
へぇ‥‥。 |
ジョージ |
でも、そうやって考えると、
やっぱり日本の男の人ってさ、
子どもなんだろうね。 |
つねさん |
子どもなんだろうね。 |
ノリスケ |
じゃあ今仲良しなんだね、
人間同士だから。 |
ジョージ |
そう、一山越えて、いい感じ。
そんなふうにね、このところ、
人間関係について考えることが
いっぱいあったんでしたっ。
おしまいっ。
|