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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

おなごの仕事、おじさんの仕事。その5
伝説の新人さん。

ジョージ かと思うとふつうの男の子、
ウチの会社の歴史にもね、
何人か伝説の新人っていうのがいたの。
あのね、売り込みに来る子がいるんだよ。
ノリスケ 僕、こんなのできます!
ジョージ 「僕はかなりモーチべーションの高い、
 プランナーなんです」みたいな感じで。
ノリスケ いきなりそういうこと言うんだ(笑)。
ジョージ そう。やって来て。うさん臭いから、
そういうの絶対に採らないんだけど、
ウチの役員に変なのがいてさ、
採用しちゃったのね。
ノリスケ いいじゃないかと。面白いぞ、
ああいうのがいて。ひとりいると、って?
ジョージ やらせてみようって。
そしたら、何にもできないんだよ。
初日から何にもできないのが
わかっちゃうんだよね。
まあ、最初は雑用みたいなことを
やってもらってて。
商圏調査をするのにね、地図を拡大して、
書類を作ろうとしたの。彼の上司が
「この部分をB4に拡大して」
って言ったらね、
わかりました、って出てって、
コピー室に入ったきり出てこないんだよ。
小一時間経って、何やってんだ!? って。
誰かが見に行ったら、すごいですよ!
とんでもないことになってますよ! って。
さあコピー室が、どうなってたでしょう?
ノリスケ ひょっとして全部を拡大して、
大っきな地図を作ったんじゃないの?(笑)
ジョージ そう! その通り!(パチパチパチ)
もうね、四畳半ぐらいの地図が完成間際!
つねさん ははははははははは!
ノリスケ はぁー! 1時間じゃ、
早いじゃない、仕事(笑)。
根本的に間違ってるけど。
ジョージ すごいでしょ? もうビックリしてね。
んで、採用担当者は言うのよ、
あいつはとんでもないことをしでかすぞ、
って。
ノリスケ まだ期待してんだ(笑)。
ジョージ そしたら、しでかしたわよ。
彼の上司が、この資料を
A社の田中さんって人に送ってくれと
お願いしたんですって。
んで、みんなで帰ろうかなっていうときに、
差し出し郵便物を入れて保管しておく箱を、
何気なしに彼の上司が見たんだよ。
腰抜かしてね、おい! おまえ!
これはどうしたんだ!? って(笑)。
さぁ、何が起こったでしょう?
ノリスケ え? わかんない!
宛名が書いてなかった?
ジョージ 書いてはあったの。封筒にね、
「A社の田中さん」って書いて、そ
れだけで置いてあったの。
ノリスケ お? お?
ジョージ にわかにわからないでしょ?
ノリスケ わからない、何を言ってるかわかんない。
ジョージ 普通ね、A社の田中さんに出しとけよ、
って言われたら、会社の住所録を開いて、
A社の住所を書いて、A社と書いて、
田中誰様って書いて、
切手を貼って、出そうとするでしょ。
ところが住所もなくって、
田中誰様もなくって、
しかも、A社「の」田中様って
書いてあるだけっ!
つねさん 6文字。
ジョージ しかも、切手も貼ってませんでした。
でね、おまえ! これで届くと
思ってるのか!? って訊いたら、
だってそういうふうにしろって
言ったじゃないですかぁ、って。
がっちょーん‥‥。
そんときは、彼以外のみんなが集まって、
ウチの近所の居酒屋で反省会したんだよ。
でも、それからいくつか伝説に残るような
できごとがあって‥‥。
ノリスケ また、長くいたのね、その人。
ジョージ いや、長くいたんじゃないんだよ、
ひと月ぐらいなんだよ。
ノリスケ あ、ひと月の間に伝説をいくつも?(笑)
ジョージ 「僕はやっぱりプランニングをするのが
 得意です」と言い出して。
それで訊きに来るんだよ。
いい企画書を書くためには、
どうしたらいいですか?
どういう、本を読めばいいですか?
ノリスケ まあ、考えようによったら熱心だけど。
ジョージ でも、本読んだってダメだよ、
みんなの仕事を一緒になって手伝って、
いい仕事させてもらって、
数こなさないと
いい企画書なんてできないよ、って。
そもそもいい企画書がどういうものかも、
おまえ知らないだろう、って。
そうすると、わかりました、
って帰っていって、
その30分後ぐらいに
別の人のところへ行って、
いい企画書書きたいんですけど、
どんな参考書がありますか?
って訊いてるんだよ。
つねさん 同じことを(笑)。
ジョージ みんなに訊いて回ってるの。
で、みんなに同じこと言われるんだよ。
でね、彼は一生懸命
考えたんだろうと思うんだ。
ちょっと街を見てきていいですか? って。
そのとき、ウチはね、
いくつかのプロジェクトを抱えていて、
そん中のひとつに、ラーメン屋をつくる、
というプロジェクトがあったの。
「僕、それをちょっと任されたいんで」
つねさん 勝手にもう。
ジョージ んで、2週間街に出て。
つねさん 会社にも来ず?
ジョージ そう、ラーメン屋を見てきたらしいんだ。
そして2週間後に企画書持ってきたんだよ。
すごいのができました、って。
つねさん すごいの?
ジョージ タイトルが「素晴らしいラーメン屋」。
コンセプトは
「どんぶりの中に指を突っ込まない」。
以上!
ノリスケ ‥‥‥‥‥‥うーん!
ジョージ どうします? これ。
ノリスケ うーむ、僕が先輩だったり
上司だったりしたらどうしよう?
ジョージ どうしよう、でしょ?
それで、その提案書をもらった上司は、
すぐ彼を雇った役員のところに行って‥‥。
つねさん 見せたの?
ジョージ そう、見せたんだよ。
勘弁してください、もう、
こういうのを書いてくるヤツは、
とてもじゃないけど僕は管理できません。
お願いだから、
彼の配属を変えてください、って。
彼が来てから僕は、
もう自分の仕事もできないぐらいに
頭の中がくちゃくちゃだから、って。
ほんで、変わったんだよね、配属。
そして新しい上司っていうのが、
まあ、けっこう手取り足取り系の人で、
いろいろ教えてね、
モティーべーションを高めたわけ。
んで、まあ、配属も変わったことだし、
みんなで飲みに行くか。
飲みに行って、カラオケボックス入って、
彼は、俺はやる気あります、
素晴らしいです、よろしくお願いします、
これからも、って言って
頭にネクタイをはち巻き状に巻いて、
飲んで歌って大騒ぎをしたんだよね。
で、みんなこれで良かったかな、
これからこいつ、変わるかな、
って思うわけじゃん。
ノリスケ うん。
ジョージ ところが! 翌日、みんなが出社したら、
彼のデスクの上から、
私物がなくなってるんだよ。
あれ? どうしたんだろう、って。
そしたら、総務から人事の人がやって来て、
「あ、彼、昨日夜中に戻ってきて‥‥」。
ノリスケ 夜中に? カラオケの後?
ジョージ そう、夜中に。
つねさん その後。
ジョージ 辞表出してったよ、って。
え〜っ!? って。
モティべートした新しい上司、
ちょうどその日が誕生日だったの。
ノリスケ はははは、かわいそう〜(笑)。
ジョージ なんで今日みたいな日に辞めるのかなぁ?
っていうような出来事。
ノリスケ はぁ、理解できないですねぇ。
ジョージ で、しかも、辞めた後、
1ヶ月とはいえ、
やっぱりいろんな手続きとかあるじゃない?
社会保険とかいろんなのあって。
それの手続きにはね、お母さんが来た。
ノリスケ あっらまぁ。
ジョージ で、そのときから、僕たちはね、やっぱり、
みんなが僕らと同じだという
考え方はもうやめようよ、と。
世の中にはいろんな人がいると。
ね。
それ、かなりね、衝撃的だったよ?
それまで、おじさんたちの頭の中には、
世の中には男がいて女がいて、
業界のベテランがいて、
ニューカマーがいて、
偉い人がいて新人がいて、
とかっていうふうな枠組みが
あったんだよね。
で、それぞれの枠組みの
どっかに属する人間は、
こういうことを考えて、
こういうことを言えば、
こうアクションを起こすだろうと
いうふうに思い込んでたんだけど、
実は彼は、その枠組みのどこにも
入ってなかったんだよ。
それこそ、男でもなく女でもなく、
社会人でもなく学生でもなく、
彼はなんでもなかったの。
つねさん うん‥‥。
ノリスケ はぁー、実在しない人物みたいだね。
ジョージ そう、そういう人物はいないでしょ?
でも、いるんだよねぇ‥‥。
おじさんでもね‥‥。
ノリスケ えっ? ジョージさんの会社、
ほかにもまだいるの?
ジョージ いるのよぉ。

まだいるんですか?! つづきます!

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2004-05-06-THU

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