ノリスケ |
ちょっとぉ、『野性時代』から
依頼が来たわよ。
「きれい」についてどう思うかですって。
「きれい」をテーマに、
みなさんで喋ってください、ですって。
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つねさん |
はぁ〜い。
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ジョージ |
お題ちょうだいしてから、考えた?
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つねさん |
あんまり考えてないでちゅ。
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ジョージ |
考えてないでしょ! 考えてないと思った。
あのね、僕、「きれい」って言葉を
考え始めたら、
ちょっとわかんなくなっちゃったの。
「きれい」って、あんまり使わないでしょ?
最近、日常会話で。
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ノリスケ |
あ! 「きれい」使わないね。
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ジョージ |
使わないでしょ? ほがらか的には、
「かわいい!」は使うけど。
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つねさん |
あ、そっか。
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ジョージ |
「きれい」って言わないもん。
でね、辞書で調べたの、「きれい」。
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つねさん |
ほい。
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ジョージ |
日本語で調べてもつまんないなと思って、
「きれい」の英訳を調べたの。
まず「きれい」で思いつく英語ってなに?
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ノリスケ |
ビューティフルでしょう?
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ジョージ |
ビューティフル。いちばん最初に
ビューティフルって書いてあった。
で、ビューティフルは、
もう、完全無欠に美しいことなんだって。
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つねさん |
あぁ、ふむふむ。
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ノリスケ |
ほぉ。
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ジョージ |
でね、二番目に、
プリティって書いてあったの。
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つねさん |
かわうぃうぃ?
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ジョージ |
そう、「かわいい」。
それでね、かわいいっていうのは、
絶対的な美の基準からすると
ビューティフルよりは劣るけど、
愛くるしくて個性的なことなんだって。
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つねさん |
あぁ‥‥。
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ジョージ |
ここよ、ここ。ここよ、
今日のテーマは絶対! 絶対ここ!
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ノリスケ |
ビューティフル目指しちゃうとねぇ。
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ジョージ |
そう、それでね、
そんなことをどこで思ったかっていうと、
旅の空で思ったのよ。
白人がいっぱいいるとこ。
昔のことを思い出したりなんざして?
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ノリスケ |
昔の恋のことを?
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ジョージ |
アメリカ行ってた頃のこと。
あのね、今回の出張で、カラオケ行ったの。
白人の国のカラオケって、
カラオケボックスじゃなくて
パブでカラオケでしょ。
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ノリスケ |
ステージに立ってね。
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ジョージ |
でね、ヘタクソなの、みんなほんとに。
白人の人たちって、
歌が歌える人と歌えない人に
分かれるんだよね。
日本人って、そこそこに歌える人が
いっぱいいるけど、
もう音痴か上手いかどっちかなの。
んで、だいたいパブに来て歌うような
ヤツは、音痴が多いわけよ。
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つねさん |
ほぉ。
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ジョージ |
まぁ、失礼しちゃうわ、
みたいな感じでしょ?
んで、ほら、一発ここは
ブイブイいわせないと
いけないわけじゃない?
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ノリスケ |
べつにいわせなくてもいいと思うけど?
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つねさん |
わかった。ABBA歌ったんでしょ。
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ジョージ |
そう! 僕が英語系で
ブイブイいわせる歌といえば、
アバのなかでも……
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ノリスケ |
♪ダンシング・クイーン〜?
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ジョージ |
ちがうの。
サンキュー・フォー・ザ・ミュージック!
で、これの歌詞がね、素晴らしいんだよ。
「私は金髪の女の子なの。
ママにきいたら歩ける前から踊れて、
話せる前から歌えたんですって。
しかも! 歌がうまいの。
私が歌うとみんなびっくり。
なんて素晴らしいことなんでしょう。
なんて素晴らしい人生なんでしょう。
お歌さん、ありがとう!」っていうのよ。
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ノリスケ |
そんなとんでもない歌詞なの?(笑)
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ジョージ |
そういう歌詞よ。
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ノリスケ |
あらまぁ‥‥。
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ジョージ |
んでね、まあ、大受け? 大受けよね。
東洋から来たこのイエロー・モンキーが
「私は金髪で才能のある女よ♪」
というふうに歌い切る、この姿。
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ノリスケ |
それは受けるよね。
でさ、どうつながるのよ。「きれい」と。
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ジョージ |
アメリカにいた時代にね、
その曲の好きな女ともだちがいたのよ。
日本から留学してきてる女の子でね、
歌い狂うのが好きな女がいたの。
自分の中で、なんか応援歌みたいな
気分だったのね。
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ノリスケ |
日本人なのに?
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ジョージ |
日本人なのに。
ちょっとね、変な子だったの。
ビヨンドっていわれてたんだけどね。
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ノリスケ |
BEYOND‥‥「超えてる」?(笑)
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ジョージ |
そう、超えてるの、いろんなものを。
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ノリスケ |
ビヨンドってあだ名、すごいね(笑)。
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ジョージ |
すごいでしょ? ま、性別も超え、
年齢も超え? 価値観も超えていて、
国境を越えちゃったのよ。
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ノリスケ |
そんな彼女のテーマソングが、
サンキュー・フォー・
ザ・ミュージック(笑)。
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ジョージ |
ま、ちょっとかわいかったんだよ?
かわいかったんだけど、
アメリカに行くとやっぱりね、
かなわないのよね、美しさでは、
白人たちの価値観じゃ。
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つねさん |
あぁ‥‥。
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ジョージ |
ほんっとにかなわないんだ。
ま、僕は、かなうことばっかり
だったんだけど!
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つねさん |
はいはい。モテたって話でしょ。
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ジョージ |
でもとくに女の子の場合は、
たとえば流行りの髪形って、
金髪だからきれいなのよね。
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つねさん |
あ、そっか。
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ノリスケ |
はっはーん。
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ジョージ |
でね、その子は抜いたの、髪の色を。
だけどね、東洋人の髪の毛は、
色素を抜いても、金髪になるんじゃなくて、
ただの黄色の剛毛になるのよ。
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ノリスケ |
ははははは。黄色い剛毛。
キラキラ光らない。
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つねさん |
ばさばさの、ウイッグみたい。
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ジョージ |
そう。あの、ファラ・フォーセット・
メジャーズ? みたいにはなんないのよね。
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つねさん |
懐かしい名前ねえ。
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ジョージ |
なんないの。それでどんどんどんどん、
髪の根っこから黒くなってくわけじゃない。
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ノリスケ |
しかも枝毛。
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ジョージ |
そうするとみすぼらしくなるわけだ。
で、メイクをしてもね、
メイクすればするほどね、
珍妙になるわけよ。
だから、ビューティフルから
どんどんどんどん遠ざかるの。
ま、アグリーまではいかないんだけど、
なんかね、きれいじゃないんだよね。
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つねさん |
ああ。
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ジョージ |
で、でね、彼女はすぐ超えるの、
ビヨンドだから。
わかった! って、ある日とつぜん
髪の毛をバッサリ切ってきて、
「これからビューティフルは目指さない。
プリティを目指して驀進するんだ」
って言って。
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ノリスケ |
宣言して?
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ジョージ |
そう、宣言してね、かなりね、
かわいい子になったんだよ。
ただ、それを「きれい」と
言えたかどうかはわからないんだけれど、
じゅうぶんに個性的になった。
それで変わったのが、男の子の反応なの。
それまでは、いない存在、
見たくない存在のように扱っていたのに、
彼女が髪の毛を切って、
メイクの仕方も日本の女の子らしくなって、
私は私、これでいいんだ、っていうふうに
言ったとたんにね、みんながね、
「シー・イズ・ビューティフル」
って言うようになったんだよ。
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ノリスケ |
へぇ〜!
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つねさん |
面白いね。
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ジョージ |
うん。だから、やっぱり、
辞書でお堅い人が定義した
ビューティフルの中には、
絶対的な美意識が純然として
あるんだろうけど、でもやっぱり個性は、
絶対的な美に勝る何かがあるのかな
と思ったりした今日このごろ。
それが、「きれい」ってことね。
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