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新宿二丁目のほがらかな人々。
おねぇ言葉や裏声とかで語る別角度批評。

やめたこと、やめざるをえなかったこと、
でもやっぱりやめられないこと。

その5 未来が見えて、見切りをつけた!

ジョージ でも、そういうのってない?
心のなかに、巣くっているものを、
ある日突然気づかされるような
こととかって。
ノリスケ そこまでね、膿を出し切ってない
ような気がするのよね(笑)。
つねさん あ、中途に、なんか、潰してるだけ、
みたいな。
ノリスケ そう。小っちゃいニキビみたいな感じで
やってるから、いけないのかもしれない。
ジョージ 僕はけっこう欲望の人だったから、
欲望のコントロールは、
けっこう難しかったね。
ノリスケ コントロール難しい。
でも、単純に言うと、
使えるお金に限界があるんだ、
っていうことだよね。
ジョージ 僕、我慢するのがすごく難しいんだと思う。
たとえば、昔タバコ吸ってたの。
すごいヘビースモーカーで、
1日3箱近くぐらい吸ってたの。
ノリスケ ありゃま。
つねさん もうぜんぜん吸わないよね。
ジョージ うん。それで、ちょっとやめたり、
節煙したりとかするんだけどね、
完全にやめれないの。
それで、みんなに言われるのね、やっぱり。
つねさん 禁煙しないんですか?
ジョージ 言い訳だけは一人前なのよ。
趣味=禁煙だから、趣味を楽しむためには、
タバコを吸わないと趣味が楽しめない
とかっていいながら。口八丁でしょう?
ノリスケ 言い訳以外のなにものでもない。
ジョージ 結局やめるきっかけは、
アメリカ行ってて‥‥。
つねさん 飛行機の中で吸えないから。
ジョージ そう、タバコ吸うのが、
すごく難しくなっちゃって。
ノリスケ うん、うん、うん。吸わなければ楽なのに、
吸えないと辛い(笑)。
ジョージ そう。それでやめようと思った。
それでやめられるもんだよ。
だから、我慢するよりやめるほうが
簡単なことっていっぱいあるなぁ、
とかって思う。
ノリスケさん、
仕事辞めたことあるんだよね。
ノリスケ ある! でも、辞めるのたいへんだった。
ジョージ つねさんも仕事辞めたことあるでしょう?
つねさん 1回。僕は、もともと
やりたかったことがあって。
それが、やりたいことがやれなかったから
辞めます、っていって辞めさせてもらった。
ノリスケ ふ〜ん。
ボクはもうこのまんま同じことを
繰り返していくんだなって
わかったときに辞めた。
スキルが10年やって身に付いて、
このスキルをどう生かしていくか、
っていうときに、
そこの会社でやれる仕事っていうのは、
いつも同じことだったの。
お給料が、たとえばこれくらいずつ
上がっていったとしても、
ゲイである自分は生活設計がないから
まったくリアリティがなくって。
それは面白くないだろうと思ったの。
辞めないと何も始まらないような気がして
辞めたんだよね。
でもね、辞めるのって大変で。
むしろ辞めさせられたほうが
楽だなって思ってた。
実際は自分で辞めたんだけど、
何か事件を起こして、
辞めざるを得なくなったほうが、
スッキリ辞められるとさえ思った。
だけど、そんな大げさな仕事もなく(笑)、
小っちゃい失敗なんかしても、
アイツ、最近ダメだな、ぐらいにしか
思われないから、責任取って辞めます、
みたいなことはなくて。
ジョージ なるほどね。会社辞めるのと、
仕事辞めるのは違うの?
ノリスケ 仕事を辞めるなんて、
考えたことないんだけど(笑)。
仕事を辞めるのって、
どういうことなんだろう?
ぜんぜん辞められないと思う。
満足しないと辞められないとしたら、
これから、たとえば
20年しかないとしたら、
20年でできることなんて
大したことじゃないと思うから。
ジョージ なるほどね。
ノリスケ もっと先に行ける気がするから。
ジョージ 会社やってると、
会社辞めるのは仕事辞めることだからね。
つねさん ああ。
ジョージ で、僕の場合、仕事辞めると、
親子付き合いまでやめることに
なっちゃうから、
けっこう面白かったりするよ。
あのね、辞めたくて仕方なくなるの。
会社を。会社を、というか、
自分をリセットしたくて
仕方がなくなるんだよね。
つねさん あぁ。
ジョージ で、今、ノリさん言ったみたいに、
自分の先が見えてきちゃうような
感じがするんだよ。
このまんま行ったとしても、
ああいうとこにしかいけないのかな、
とかって思うと、
嫌で嫌で仕方がないんだけど、
辞めるって言えないの。
つねさん あぁ。
ジョージ だから、辞めるっていうのは、
すごい勇気がいるよね。
これ、さっきの買い物といっしょだよ。
辞めることはできないから、
誰か、辞めさせてくれるきっかけを
作ってくれないかなって、
ずーっと考えてた。
つねさん あ、でも、近いものはあったかも。
学校辞めたの、それだった。
ノリスケ あ、大学辞めてるじゃない!
つねさん 辞めたね、そういえば。
ジョージ なんで辞めたの?
つねさん 僕ね、2年で、もういいや、と思って。
ジョージ 役に立たなかったの?
つねさん うん。自分がやりたいことが、
その学校出ても関係なかったから。
ノリスケ あなた、法学部かなんかじゃなかったっけ?
つねさん 経済。
ノリスケ 経済学部か。確かに(笑)。
ジョージ なんでそんなとこ入ったの?
つねさん いや、ほら、偏差値教育のひずみってやつ?
ジョージ 何を言ってるの、急に!(笑)
ノリスケ 社会のせいにしてない?
ジョージ そこにしか行けなかったの?
つねさん 共通一次の点数かんがみて(笑)。
ほんとは法学部行きたかったんだけど。
ノリスケ 法学部ですって!
ジョージ 法学部行って、何ができたっていうの?
つねさん いや、なんか、ちょっと色々。
2年ぐらいで辞めたくなって、
親に辞めるって言ったら、泣きつかれて。
お願いだからとりあえず行ってくれ、
って言われて。
それで、ま、いいや、と思って行ったけど、
卒業する気もなくって。で、ダラダラと、
6年間行って辞めた。
ノリスケ あ、6年いたんだ(笑)。
ジョージ ずっといて、辞めたんだ!
それって、卒業できなかったということ?
ノリスケ どっちかっていうと、それに近いわね。
僕は2年で二十歳前に決断して
パって辞めたのかと思ってた。
偉いなと思ったら、なーんだ。
僕はね、大学をパッと中退する人って
凄いなと思ってたのよ。
二十歳そこそこで、自分の人生のこと
わかって、これは必要ないって判断できて、
で、自分が属している、ちょっと甘い、
なにか暖かい沼のようなところから
出る決心ができる二十歳っていうのは、
凄いと思ってて。
だから、大学を中退するっていうのは、
入るのが大変だっただけ偉いなって
思ってたの。で、今、つねさんを、
すごい、尊敬しかけてたのよ。
つねさん ははははは。
ジョージ あ〜あ。
つねさん 親に対するけじめだったんだもん、
自分なりの。
ジョージ おとうちゃまおかあちゃま、
ありがとうございます、みたいなやつ?
つねさん ほんとはバカです、って
わかってもらうのに6年かかった。
ノリスケ なんかね、未来が見えちゃうとね。
見えないほうが楽しくて、
期待してるほうが楽しいのに、
今思い出したんだけど、
10年勤めた前の会社を辞める、
いちばんのきっかけは、実は、
入社した日だったの。なにかっていうと、
入社した日に、社長から言われたの、
ウチは給料これくらいだと。
君は今22歳で、初任給はこれぐらいだと。
で、25だと、このぐらい。
30だと、このぐらい。
40だと、このぐらい。
いずれ嫁をもらって子供をつくって、
生活していくには十分だろう、
どうだ、悪くないだろう?
って言われたの。で、僕にとってはね、
悪いとかいいとかじゃなくてね、
もうその時点でね‥‥。
つねさん もう決まってんかい? って(笑)。
ノリスケ あら? 社会って、
こんなことになってるのね、って思って。
ボクがゲイじゃなくてね、
いずれ結婚して子供をもって、
という人生の青写真を
持っている人だったら
それは素敵な情報だったのかもしれない。
でも、なんかね、ものすごい、
絶望に近い気持ちになって。
思えば、社会人になる第一歩のときに、
未来が見えてたことがすごく嫌だった。
ゲイであることを肯定的にとらえるには
その未来の姿は
なんだか、せつなかった。
悲しくなってしまったの。
ジョージ うん。
つねさん ああ、で、そういうわだかまりが
ずっと残ってたんだ。
ノリスケ あった。あった。
ジョージ なるほどね。
ノリスケ ここにいたら、このままだなって。
で、それに似た話は、ゲイだけじゃなくて
ふつうの友だちにもあったのよ。
いい国立大学の修士課程まで出て、
一流企業に勤めた友だちが、
30前にね、パッと辞めたのね。
田舎の家業を継いだの。小さな商店。
もうキャリアなんかまったく関係ないの。
なんで? って訊いたらね、
ふと周りを見渡したときに、
45歳の部長がいたんだって。
一生懸命ここでがんばると、
あの人になるんだ。
自分の将来はあの人だっていうふうに、
フッと思ったんだって。
いままで何にも疑問に思っていなかった
ことのはずなのに、
15年後の自分がその席にいる姿を
思い描いてみたら、
そしたらもう、なんにもやる気が
なくなっちゃったんだって(笑)。
それよりも、不景気だろうけど、
毎日お客さんに接する商売をやったほうが、
ずっと面白いんじゃないかと思って、
辞めたんだよ、って。
ジョージ あー、なるほどね。
ノリスケ そのときも、偉いなぁ、と思った。
その家業はね、ずっと修業してさ、
やっと一人前になるのが30みたいな
世界なのよ。
そこにパッと乗り換えられるのって、
偉いなぁ、って。
今の年齢で仕事辞めて
職人的な職業に就くって
さすがに考えられないよ。
ジョージ うん、そうだよね。

そんなふうに考えたこと、なかったかもなあ。
つづきます!

ジョージさん、つねさん、ノリスケさんへの激励や感想などは、
メールの表題に「ほがらかな皆さんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってくださいね。

2004-07-19-MON

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