ジョージ |
でも、そういうのってない?
心のなかに、巣くっているものを、
ある日突然気づかされるような
こととかって。
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ノリスケ |
そこまでね、膿を出し切ってない
ような気がするのよね(笑)。
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つねさん |
あ、中途に、なんか、潰してるだけ、
みたいな。
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ノリスケ |
そう。小っちゃいニキビみたいな感じで
やってるから、いけないのかもしれない。
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ジョージ |
僕はけっこう欲望の人だったから、
欲望のコントロールは、
けっこう難しかったね。
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ノリスケ |
コントロール難しい。
でも、単純に言うと、
使えるお金に限界があるんだ、
っていうことだよね。
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ジョージ |
僕、我慢するのがすごく難しいんだと思う。
たとえば、昔タバコ吸ってたの。
すごいヘビースモーカーで、
1日3箱近くぐらい吸ってたの。
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ノリスケ |
ありゃま。
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つねさん |
もうぜんぜん吸わないよね。
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ジョージ |
うん。それで、ちょっとやめたり、
節煙したりとかするんだけどね、
完全にやめれないの。
それで、みんなに言われるのね、やっぱり。
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つねさん |
禁煙しないんですか?
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ジョージ |
言い訳だけは一人前なのよ。
趣味=禁煙だから、趣味を楽しむためには、
タバコを吸わないと趣味が楽しめない
とかっていいながら。口八丁でしょう?
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ノリスケ |
言い訳以外のなにものでもない。
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ジョージ |
結局やめるきっかけは、
アメリカ行ってて‥‥。
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つねさん |
飛行機の中で吸えないから。
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ジョージ |
そう、タバコ吸うのが、
すごく難しくなっちゃって。
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ノリスケ |
うん、うん、うん。吸わなければ楽なのに、
吸えないと辛い(笑)。
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ジョージ |
そう。それでやめようと思った。
それでやめられるもんだよ。
だから、我慢するよりやめるほうが
簡単なことっていっぱいあるなぁ、
とかって思う。
ノリスケさん、
仕事辞めたことあるんだよね。
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ノリスケ |
ある! でも、辞めるのたいへんだった。
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ジョージ |
つねさんも仕事辞めたことあるでしょう?
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つねさん |
1回。僕は、もともと
やりたかったことがあって。
それが、やりたいことがやれなかったから
辞めます、っていって辞めさせてもらった。
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ノリスケ |
ふ〜ん。
ボクはもうこのまんま同じことを
繰り返していくんだなって
わかったときに辞めた。
スキルが10年やって身に付いて、
このスキルをどう生かしていくか、
っていうときに、
そこの会社でやれる仕事っていうのは、
いつも同じことだったの。
お給料が、たとえばこれくらいずつ
上がっていったとしても、
ゲイである自分は生活設計がないから
まったくリアリティがなくって。
それは面白くないだろうと思ったの。
辞めないと何も始まらないような気がして
辞めたんだよね。
でもね、辞めるのって大変で。
むしろ辞めさせられたほうが
楽だなって思ってた。
実際は自分で辞めたんだけど、
何か事件を起こして、
辞めざるを得なくなったほうが、
スッキリ辞められるとさえ思った。
だけど、そんな大げさな仕事もなく(笑)、
小っちゃい失敗なんかしても、
アイツ、最近ダメだな、ぐらいにしか
思われないから、責任取って辞めます、
みたいなことはなくて。
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ジョージ |
なるほどね。会社辞めるのと、
仕事辞めるのは違うの?
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ノリスケ |
仕事を辞めるなんて、
考えたことないんだけど(笑)。
仕事を辞めるのって、
どういうことなんだろう?
ぜんぜん辞められないと思う。
満足しないと辞められないとしたら、
これから、たとえば
20年しかないとしたら、
20年でできることなんて
大したことじゃないと思うから。
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ジョージ |
なるほどね。
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ノリスケ |
もっと先に行ける気がするから。
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ジョージ |
会社やってると、
会社辞めるのは仕事辞めることだからね。
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つねさん |
ああ。
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ジョージ |
で、僕の場合、仕事辞めると、
親子付き合いまでやめることに
なっちゃうから、
けっこう面白かったりするよ。
あのね、辞めたくて仕方なくなるの。
会社を。会社を、というか、
自分をリセットしたくて
仕方がなくなるんだよね。
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つねさん |
あぁ。
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ジョージ |
で、今、ノリさん言ったみたいに、
自分の先が見えてきちゃうような
感じがするんだよ。
このまんま行ったとしても、
ああいうとこにしかいけないのかな、
とかって思うと、
嫌で嫌で仕方がないんだけど、
辞めるって言えないの。
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つねさん |
あぁ。
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ジョージ |
だから、辞めるっていうのは、
すごい勇気がいるよね。
これ、さっきの買い物といっしょだよ。
辞めることはできないから、
誰か、辞めさせてくれるきっかけを
作ってくれないかなって、
ずーっと考えてた。
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つねさん |
あ、でも、近いものはあったかも。
学校辞めたの、それだった。
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ノリスケ |
あ、大学辞めてるじゃない!
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つねさん |
辞めたね、そういえば。
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ジョージ |
なんで辞めたの?
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つねさん |
僕ね、2年で、もういいや、と思って。
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ジョージ |
役に立たなかったの?
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つねさん |
うん。自分がやりたいことが、
その学校出ても関係なかったから。
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ノリスケ |
あなた、法学部かなんかじゃなかったっけ?
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つねさん |
経済。
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ノリスケ |
経済学部か。確かに(笑)。
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ジョージ |
なんでそんなとこ入ったの?
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つねさん |
いや、ほら、偏差値教育のひずみってやつ?
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ジョージ |
何を言ってるの、急に!(笑)
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ノリスケ |
社会のせいにしてない?
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ジョージ |
そこにしか行けなかったの?
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つねさん |
共通一次の点数かんがみて(笑)。
ほんとは法学部行きたかったんだけど。
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ノリスケ |
法学部ですって!
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ジョージ |
法学部行って、何ができたっていうの?
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つねさん |
いや、なんか、ちょっと色々。
2年ぐらいで辞めたくなって、
親に辞めるって言ったら、泣きつかれて。
お願いだからとりあえず行ってくれ、
って言われて。
それで、ま、いいや、と思って行ったけど、
卒業する気もなくって。で、ダラダラと、
6年間行って辞めた。
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ノリスケ |
あ、6年いたんだ(笑)。
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ジョージ |
ずっといて、辞めたんだ!
それって、卒業できなかったということ?
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ノリスケ |
どっちかっていうと、それに近いわね。
僕は2年で二十歳前に決断して
パって辞めたのかと思ってた。
偉いなと思ったら、なーんだ。
僕はね、大学をパッと中退する人って
凄いなと思ってたのよ。
二十歳そこそこで、自分の人生のこと
わかって、これは必要ないって判断できて、
で、自分が属している、ちょっと甘い、
なにか暖かい沼のようなところから
出る決心ができる二十歳っていうのは、
凄いと思ってて。
だから、大学を中退するっていうのは、
入るのが大変だっただけ偉いなって
思ってたの。で、今、つねさんを、
すごい、尊敬しかけてたのよ。
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つねさん |
ははははは。
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ジョージ |
あ〜あ。
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つねさん |
親に対するけじめだったんだもん、
自分なりの。
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ジョージ |
おとうちゃまおかあちゃま、
ありがとうございます、みたいなやつ?
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つねさん |
ほんとはバカです、って
わかってもらうのに6年かかった。
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ノリスケ |
なんかね、未来が見えちゃうとね。
見えないほうが楽しくて、
期待してるほうが楽しいのに、
今思い出したんだけど、
10年勤めた前の会社を辞める、
いちばんのきっかけは、実は、
入社した日だったの。なにかっていうと、
入社した日に、社長から言われたの、
ウチは給料これくらいだと。
君は今22歳で、初任給はこれぐらいだと。
で、25だと、このぐらい。
30だと、このぐらい。
40だと、このぐらい。
いずれ嫁をもらって子供をつくって、
生活していくには十分だろう、
どうだ、悪くないだろう?
って言われたの。で、僕にとってはね、
悪いとかいいとかじゃなくてね、
もうその時点でね‥‥。
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つねさん |
もう決まってんかい? って(笑)。
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ノリスケ |
あら? 社会って、
こんなことになってるのね、って思って。
ボクがゲイじゃなくてね、
いずれ結婚して子供をもって、
という人生の青写真を
持っている人だったら
それは素敵な情報だったのかもしれない。
でも、なんかね、ものすごい、
絶望に近い気持ちになって。
思えば、社会人になる第一歩のときに、
未来が見えてたことがすごく嫌だった。
ゲイであることを肯定的にとらえるには
その未来の姿は
なんだか、せつなかった。
悲しくなってしまったの。
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ジョージ |
うん。
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つねさん |
ああ、で、そういうわだかまりが
ずっと残ってたんだ。
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ノリスケ |
あった。あった。
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ジョージ |
なるほどね。
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ノリスケ |
ここにいたら、このままだなって。
で、それに似た話は、ゲイだけじゃなくて
ふつうの友だちにもあったのよ。
いい国立大学の修士課程まで出て、
一流企業に勤めた友だちが、
30前にね、パッと辞めたのね。
田舎の家業を継いだの。小さな商店。
もうキャリアなんかまったく関係ないの。
なんで? って訊いたらね、
ふと周りを見渡したときに、
45歳の部長がいたんだって。
一生懸命ここでがんばると、
あの人になるんだ。
自分の将来はあの人だっていうふうに、
フッと思ったんだって。
いままで何にも疑問に思っていなかった
ことのはずなのに、
15年後の自分がその席にいる姿を
思い描いてみたら、
そしたらもう、なんにもやる気が
なくなっちゃったんだって(笑)。
それよりも、不景気だろうけど、
毎日お客さんに接する商売をやったほうが、
ずっと面白いんじゃないかと思って、
辞めたんだよ、って。
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ジョージ |
あー、なるほどね。
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ノリスケ |
そのときも、偉いなぁ、と思った。
その家業はね、ずっと修業してさ、
やっと一人前になるのが30みたいな
世界なのよ。
そこにパッと乗り換えられるのって、
偉いなぁ、って。
今の年齢で仕事辞めて
職人的な職業に就くって
さすがに考えられないよ。
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ジョージ |
うん、そうだよね。
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