ジョージ |
さあ、この話をしなくちゃね。
雑誌といえば「薔薇族」。
廃刊になりました。
|
ノリスケ |
これ説明が要るわよね?
1971年に創刊された
「薔薇族」というゲイ雑誌が、
ことし、廃刊になりました。
ぼくらにしても、
やっぱり買わなくなったというか、
もともと買ってなかったというか。
|
ジョージ |
でも昔は「薔薇族」しかなかった
時代があるんだよ。
|
ノリスケ |
ぼくはその時代、知らないです。
|
つねさん |
ぼくがもう知ったときは
「さぶ」があったんで。
|
ノリスケ |
ぼくは、「アドン」がありました。
|
つねさん |
微妙に時期がズレてんのね(笑)。
ほぼ同世代だけど。
|
ノリスケ |
ちょっとズレてる(笑)。
「薔薇族」「さぶ」「アドン」が並んでる
本屋さんは憶えてる。
ぜんぶ廃刊になったわよね。
|
ジョージ |
「薔薇族」‥‥。
|
ノリスケ |
メトロセクシャルじゃないけど、
自分をカテゴライズする言葉が
「薔薇族」だっていうのは‥‥。
|
つねさん |
嫌だった。
|
ノリスケ |
当時から、ぼくは嫌だと思ったし、
なんか、今のゲイ、自分より若い子たちが、
それをOKにするとは、
あんまり思えない気がする。
|
ジョージ |
うん、ただ、たとえば当時、
「さぶ」「アドン」があって、
「サムソン」ってあって、
それぞれって‥‥。
|
つねさん |
役割があったと?
|
ジョージ |
対象になる人のイメージじゃない?
|
つねさん |
うん。
|
ジョージ |
「サムソン」なんかとくに、
ふくよかな神話上のできごとの人を‥‥。
|
ノリスケ |
うん、つまりデブ専。
|
ジョージ |
そう。
|
ノリスケ |
「アドン」はアドニスだから。
|
ジョージ |
そう、アドニスだから、美青年でしょ?
|
ノリスケ |
「さぶ」は、その、
ひらがなで書くように、
日本男児だよね(笑)。
|
ジョージ |
そう。そう、褌の似合う人。短髪で。
だけど「薔薇族」は、
‥‥薔薇に囲まれた生活なんだよ?
|
つねさん |
美輪先生みたいな?
|
ジョージ |
そう。
|
ノリスケ |
うん。
|
ジョージ |
で、よく考えてみたら、
やっぱりぼくらって、
まあ、薔薇というものに象徴される、
美しくて、はかなくって‥‥。
|
つねさん |
きらびやかで。
|
ジョージ |
ゴージャスで。
だけど、実際の生活には、
必要でもなんでもないもの。
そういうものに囲まれて
生活をしているんだよね。
だから、薔薇族って言われるのは
嫌かもしれないけれど、
やっぱり世界中どこ行ったって、
しょせん薔薇のようなものだもん、
ぼくらは。
|
つねさん |
ああ。
|
ノリスケ |
うん、そういう意味では
客観的なタイトルだと思うよ。
|
ジョージ |
そう。だけど、その、薔薇族っていうと、
ある特定の、ゲイが日陰のものだった
時代のムードがあったのよね。
|
つねさん |
そぉね。
|
ジョージ |
陰間だとか、ブルーボーイだとか‥‥。
|
ノリスケ |
そうそうそう。
|
ジョージ |
その時代を、
いちばん色濃く引きずっちゃってる
業界人が編集長をやっていたから、
やっぱりなんか‥‥。
|
ノリスケ |
暗かったの。
寺山修司の世界みたいな。
それはそれで理解するけど、
その仲間に入りたいとは思わなかった。
|
ジョージ |
暗かったよね。
|
ノリスケ |
暗かった。立ち読みしても、
暗いなぁ、と思って。
何度かリニューアルもね、
してたんだけどね。
|
ジョージ |
で、ぼくの中で「薔薇族」っていうと、
林月光さん。
|
ノリスケ |
ああ、美青年を描く
挿し絵画家ね。隠微な世界だ。
あのう、興味があるかたは、
Googleで“林月光”で検索すると
とんでもない絵が出てまいりますから
ご注意あそばしてくださいね。
|
つねさん |
兼高かおる口調で言うな。
|
ジョージ |
そう。んで、あのね、ぼくは、
ああいう雑誌は「薔薇族」から入ったから
あれなんだけど、「墨東綺譚」とか、
「SMスナイパー」とかっていう‥‥。
|
ノリスケ |
あの、エログロかしら(笑)。
|
ジョージ |
そう。
|
ノリスケ |
“カストリ雑誌”というふうに
言いましょうか(笑)。
あ、これもGoogleで検索していただくと
不思議な世界が出てまいりますのよ。
|
つねさん |
大内順子口調で言うな。
|
ジョージ |
学生のときに、運動部とかの部室に行くと、
転がってるわけじゃない?
|
ノリスケ |
じゃない? って、知らないけど!(笑)
ていうか、ジョージさんがなんで
よその運動部の部室に行くわけ?
|
つねさん |
ふーん(笑)、そういう趣味が。
|
ジョージ |
いいのっ! で、それを、
ベロンと開いたときに、
ゲイ雑誌だ!! って勘違いしたんだもん。
|
ノリスケ |
ああ、つまり「薔薇族」の挿し絵と
エログロ雑誌の挿し絵は
おんなじ人が描いてたってことね?
|
ジョージ |
そう、おんなじ人が描いてるし、
テイストがね。
|
ノリスケ |
似てる、似てる。
あのね、林月光さんの絵って、
「見ちゃいけないもの」として
描かれているのよね。
|
ジョージ |
本来、イメージであるとか芸術っぽさとか、
おしゃれ感とかっていうのを、
こだわらなくちゃいけないぼくたちの、
神経を逆なでするような、
あのエログロさっていうの?
|
ノリスケ |
うん。
|
ジョージ |
で、あれって、一皮めくれば、
ぼくたちの中にドロドロに
流れてる部分じゃない?
|
つねさん |
うん。
|
ジョージ |
ベロ〜ンと出てるのが、
あ! そういうことだったんだー! って。
|
ノリスケ |
そうなんだよね、
突きつけられちゃうんだよね。
|
ジョージ |
うーん、それがね、なんか厄介だった。
|
つねさん |
うん。
|
ジョージ |
で、たとえば、どういうのかな、
ものすごい上場企業の創業者で立派な方が、
女装癖があって、エリザベスの館の
常連だったとか、あるいは、
ものすごい男らしさを売りにしている
俳優さんが、じつはMであって、
女王様がいて「SMスナイパー」の
定期購読者だったというのと
おんなじような感覚じゃない!? ね?
|
ノリスケ |
はっはっはっはっは。
|
ジョージ |
んで、ぼくの中では、べつに、
ゲイであることっていうのは、
隠すべきもんでもないだろうし。
|
ノリスケ |
うん、自然な姿なんだよね。
|
ジョージ |
そう。だと思っていたのに、
おんなじセクシュアリティを持った人たちが
読んでいる雑誌の、この秘めやかさと
隠微さとエログロさって、
言っちゃいけないんだって思ったの。
じゃあ、男の人が好きってことは
言っちゃいけないんだ、っていうのを、
なんか間接的に教えられたみたいな雑誌。
|
つねさん |
それが「薔薇族」だったんだ。
|
ジョージ |
うん、そう。
|
ノリスケ |
いや、ぼくもそういう印象がある。
同じように「さぶ」には、
“三島剛”さんという
SM系の男色系の絵描きがいてね、
これもGoogleで検索すると
た〜いへんなことになりますから
みなさんご注意くださいね、
サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ!
|
つねさん |
モノマネしなくていいから。
|
ノリスケ |
それがまた、林月光さんとは別なんだけど
同じように「見ちゃいけないんじゃないか」
と思うような隠微なものであってね。
|
ジョージ |
で、逆にそれが、
「さぶ」も「薔薇族」も廃刊になったと
いうことは、
なんか、ゲイにとっての暗黒時代は、
もう名実ともに終わったのかな?
っていうふうに思うよね。
|
ノリスケ |
いま残ってる、あるいはその後
創刊されたゲイ雑誌って、
明るく楽しくかっこよく、
たくましく、だからね、基本的に。
ま、ちがうのもあるけど、
売れている主流の雑誌はそうだよね。
|
ジョージ |
だけど、んじゃあ、
隠微な歴史が終わったあとに、
ぼくたちは何を手にしたんだろう?
って思うと、ものすごく空虚でうつろな、
明るいだけの?
|
つねさん |
うん、何もない。
|
ジョージ |
今日が楽しければいいという
自分たちなんじゃないかと突きつけられて。
|
ノリスケ |
影のない人は幽霊だからね。
|
ジョージ |
そう。だから、今のゲイ雑誌を読んでると、
リアリティがないの。
この雑誌を読んでいる人たちは、
どういう職業で、
どういうふうなスタンスで生きていて、
何を目標にして頑張ってるんだろうか、
っていうのがなくって。んで、んで、ねぇ?
知り合いのことをいろいろと考えてみると、
30代の後半とか40代で、
平気で会社を辞めて、
半年ぐらい仕事がありません、
でも、いいじゃないですか、楽しいから、
みたいな感じの人たちが、
そういえば周りには多いよなぁ、
って思うと、それって、
昔の隠微さとは違う
別種のドロドロさではないかと思うの。
ほんとに。だから、
なんかやり切れなさがあったりとかしてさ。
何なんだろうと思っちゃう。
そんなにオカマは苦悩しているのに、
なんでわたしたちの真似をしたがる人たちが
いっぱいいるのかしらと思ったの。
|
ノリスケ |
前回のメトロセクシャルの話に
戻るとね(笑)。
|
ジョージ |
つらくてしかたがない。
なんかね、実態がね‥‥。
|
つねさん |
ない?
|
ジョージ |
そう。
たしかに、子孫も残すわけでもないし、
いてもいなくてもいいような
存在なんだろうけども。
|
つねさん |
生物学的にね。
|
ノリスケ |
うん、そうね、だから、
地球が滅亡することがわかって、
宇宙に移民しなきゃいけないんだけど、
その人数が限られているときに、
真っ先に切り捨てられる
気がするのよ(笑)。
|
ジョージ |
絶対地球に残されると思う。
でも、ぼくらが選ばれなかったときの、
スペース・ノアの方舟が到着した先には、
芸術という、ありとあらゆるものは、
ないのよ。
|
つねさん |
そうだね。
|
ジョージ |
なんて殺伐としてるのかしら、
って思うんだけど。
|
ノリスケ |
でも、動物から始めましょうって
ことだったら、繁殖力の高いペアが
何組か行けばいい話だよね。
|
つねさん |
ま、そのうちに芸術も出てくるだろうと。
|
ジョージ |
必ずね。
|
ノリスケ |
何千年かのあとには。
|