結婚って言われても。その2 つねさんの入院騒動。 |
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ノリスケ | で、どうしたの、つねさんが救急車で運び込まれて、 病院で「あなたは、誰ですか」って 言われたジョージさんは。 |
ジョージ | 説明したの。 「今、たまたまボクのところに遊びに来ていた友人が、 こんなふうに苦しみ出したもんですから、 ボクが救急車を呼びました」と。すると、 「この方の身内の方はいらっしゃるんですか」 って言うから、 「いや、身内は遠く離れたところで、 東京ではボクしか今知りあいはいませんから」 って言ったらば、しばらく救急隊員が悩むの。 悩むんだけど、横でのたうち回ってるわけだから、 「どうぞ、それでは救急車に乗ってください」 ということで乗せてはもらえたのよ。 で、行くわけよ、病院に。 そのときもどこの病院に行くとかなんとか言うから、 「私の主治医がいるところに参りましょう」って促して、 もう、無理矢理よ。 「あそこに行けー」って行ってもらって。 そうするとそこから先、色々書類が出てくるの! 入院の手続きとか。 すると「保証人」の欄に「続柄」というのがあるわけ。 |
ノリスケ | あら、困った。 |
ジョージ | でも病院はダメなのよ。 命を預かることだからね。 そこにボクは「友人」としか書けないんだよね。 で、「どういうご友人ですか」って言われるんだけど。 |
ノリスケ | そんなこと訊かれても! |
ジョージ | 「うーん、特別な友人です」って言えばいいの? それに彼も住所書かなきゃいけないわけで、 住所は同じなわけよ。 |
ノリスケ | そうよ、同じ住所よね。 |
ジョージ | すると、さすが私の主治医のいる病院よ。 まあまあまあ素敵なことに、 「なるほど、わかりました」と。 |
ノリスケ | おっしゃってくださったんだ! |
ジョージ | 「おそらく長い入院になると思います。 どうしますか、もしものことがあったときに 責任をお取りになれますか」って言われて、 「ええ。それは大丈夫です」 「けれども必ずすぐにご親族の方にご連絡をお願いします」 というふうに言われて、 ボクは初めてつねさんのご親族の方とお話ししました! |
ノリスケ | それ、どうしたの?! たまたまの友人を装ったの?! |
ジョージ | つねさんがアパートを引き払って ボクと同居するということは言ってたの、向こうに。 |
ノリスケ | 50代の男同士が急に同居って、 よく親族もあっさり。 |
ジョージ | 「仕事の都合もあってしばらく 友人の家にお世話になることになったよ」 とかなんとか言っていたんだとは思うのよ。 だから、ボクが連絡をしたときも、 まあ、あんがいスムーズに 「実はこうこうこうで」って説明ができたの。 |
ノリスケ | 「お部屋を間貸ししている者ですが」みたいな? |
ジョージ | 間貸しというか、ほとんど占拠してるわけですけれどもね! で──、これよね、要は。結婚よ。 だって自分の好きな人が入院をするときですら、 壁があったりして簡単ではないわけ。 それが結婚するとなると、どうなると思う? |
ノリスケ | あ、そうか。親族として保証人になれたり 手術の承認をしたりできるようになるいっぽうで、 「わたしたちは、そうです!」って カミングアウトを、心ならずも するということにもなるわよね。 うーん、難しいところではある。 知らせたくないで生きていく人も、 とっても大勢いるわけだから。 |
ジョージ | ちなみに結婚をしたということは個人情報なので、 誰に知らせる義務もないのよ。 でも日本では結婚をしたということを 誰かに知らせないと、 結婚したことにならないのよね。 |
つねさん | アメリカは違うの? |
ノリスケ | あ、つねさんがしゃべった。 |
つねさん | 自分のことで申し訳なくって黙ってたの。 |
ジョージ | アメリカは違うよ。 婚姻と披露宴とはセットになってないの。 知らない間に友達が結婚していてってよくある。 で──、今回のこの件ですごく考えたのが、 結婚って何なんだろうということだったの。 ゲイに生まれて育ったボクに、ストレートの友人が 「結婚しようかどうか悩んでるんだ」 とかっていうふうに言うと、 何を悩むんだろうと思うのよ。 |
ノリスケ | 「すりゃいいじゃん」の一言? |
ジョージ | そう、好き同士なんだからすりゃいいじゃん、 って思うけど、 じゃあもし日本で同性婚が認められたときに、 ボクは結婚するかというと、さあ、どうする? ストレートの人にとって結婚するということは、 当事者同士の覚悟で進んでいける話だけど、 ゲイが結婚するということは、 さっきの病院の話じゃないけど、 なかなかたいへんなことなのよ。 |
ノリスケ | そうね、そのつもりがない人にとっては困るわね。 パートナーが急な病気のときに、 自分の意思で責任が取れるのは、 いいなあって思うけどね。 |
ジョージ | 最近ボク「なんだかなぁ」って思うのが、 渋谷あたりでもって、 レズビアンの女の子たちが 同性婚のパーティーとかするわけよ。 |
ノリスケ | ああ、わりとファッショナブルな感じでね。 |
ジョージ | そう。あんたたち、 ファッションじゃないわよって思うよね。 あの子たちはたぶん、 女の子同士が手をつないで街を歩くような 軽い感覚でもって結婚式を挙げる。 |
ノリスケ | みんなにオープンにしてお祝いしてもらう 結婚のスタイルに乗っかってるのね。 |
つねさん | しかもそれ、結婚じゃないよね? |
ノリスケ | そう、同性の結婚というものは 日本では法的に認められていないわけで、 「結婚式という形式を借りた パートナーシップ宣言」なんでしょうね。 今渋谷区を皮きりに、自治体ごとに パートナーシップ制度を導入しようと来たけども、 それがどのぐらいの法的な拘束力を持ったり、 保障を約束してくれるかはわからない。 |
ジョージ | せいぜい、不動産屋さんでアパートを借りて、 同性2人でも嫌な顔しちゃいけませんよ、 ということでしょ。 それを理由に大家さんから 追い出されないで済みますよ、程度だと思う。 病院にも配慮を求める、というけれどね。 |
ノリスケ | そうでしょ。それが例えば一般的な家庭を持ったり、 子供を持ったりする人たちのように 収入を分かち合って、税金の負担を減らして、 みたいなことはないし、 会社に対してストレートの結婚と同じような 優遇措置だとか手当だとかを出しなさい、 というような法的な拘束力があるかというと、 ないのよね、今のところ。 もちろん、パートナーシップ制度について、 否定をするつもりはないのよ。 それが第一歩であるから。 でもまあすぐにはそうはなんねえだろうなと、 そんなふうに思うわけ。 |
(つづきまーす) |
2015-07-10-FRI