── |
この、半端フィギュアの後ろにある、
サングラスはなんなの? |
ボーズ |
よくわかんないんだよ。 |
── |
よくわかんないってのが、
よくわかんないよ。 |
ボーズ |
ぼくのじゃないんだよ。 |
── |
誰の? |
ボーズ |
わかんない。 |
── |
子どもじゃないんだから、
わかんないわかんない言わないでよ。 |
ボーズ |
あのね、ある日、ぼくのクルマの
後ろの座席のところにポッと落ちてたのよ。 |
── |
誰かが落としたんでしょ。 |
ボーズ |
そうなんだけど、
いつ、誰が落としたかがわかんないんだよ。
ほら、後ろの座席なんて、
しょっちゅうチェックしないじゃん。
だけどまぁ、まったく関係ない人の
サングラスが落ちてるわけないから、
おそらく、乗せた誰かのサングラスなのよ。 |
── |
え? じゃあ、知ってる人だけど、
誰かはわかんない。 |
ボーズ |
そうそう。自分で乗っけた誰かなんだけど。 |
── |
ヤバい、おもしろくなってきた(笑)。 |
ボーズ |
もどかしいんだよ。
だって、絶対、知ってる誰かなんだから。
ただ、知り合いに片っ端から
「サングラス落としてない?」って
訊くわけにもいかないでしょ。 |
── |
けど、そんなに何人も‥‥
まぁ、乗せたりも、するか。 |
ボーズ |
けっこう乗ったりするでしょ。
「駅まで乗ってく?」なんつって。
友だちの友だちくらいなら、ふつうに乗るし。
で、先週誰が乗ったかとかなら、わかるけど、
いつから落ちてたんだかわかんないからさ。 |
── |
ははははは。おもしろい。
こういう話、好みだわ。 |
ボーズ |
いや、笑うけどね、
どうしても誰だかわかんないんだよ。
でも、絶対、ぼくの知り合いなんだよ。 |
── |
あはははははは。ひー、やめてくれ(笑)。 |
ボーズ |
アニとかシンコに訊いたんだけど、
わかんないんだよ。そりゃわかんないよなぁ。
「ここ数ヵ月くらいで、
サングラスしてた友だち、いたっけ?」
みたいなことだから。 |
── |
すごいね。ちょっとしたミステリーだね。 |
ボーズ |
困るよ。 |
── |
まぁ、要するに、忘れ物っていうことだね。 |
ボーズ |
で、忘れ物って、捨てられないでしょ。 |
── |
ああ、捨てられないねぇ(笑)。
そういえば、オレにも経験ある。 |
ボーズ |
あ、そう? |
── |
冬の寒い日にうちで鍋をやったらね、
年に1度、会うか会わないかっていう、
クリハラ君っていう友だちが、
スノボのグローブを忘れてったのよ。
これがもう、始末に悪くて、
けっこうかさばるんだけど、
捨てるに捨てられないし‥‥。 |
ボーズ |
いや、でも、それは誰だかわかってるじゃん。 |
── |
わかってるけど、
クリハラ君にはほとんど会わないんだよ。 |
ボーズ |
送りつけりゃいいじゃん。 |
── |
クリハラ君に?
年に1度会うかどうかの人に、荷物送るの?
住所訊いて? |
ボーズ |
うん。 |
── |
まぁ、そうなのかなぁ。
でも、実際は、「今度会うときにでも」って、
延々保管してた。
だって、年に1度くらいしか会わないからさ。 |
ボーズ |
まだ、誰だかわかってるだけいいよ。 |
── |
わかんないからこそ、逆に捨てられたりしない? |
ボーズ |
ところが、このサングラス、半端にいいものでさ。 |
── |
あ、そりゃ困るね。 |
ボーズ |
困るんだよー。 |
── |
で、どうしたの? |
ボーズ |
まだ持ってるよ。 |
── |
引っ越し先まで? |
ボーズ |
そう。なにやってんだか。 |
── |
ええと、じゃあ、これを読んで、
「それ、オレのサングラスだ!」と思った人は、
ボーズさんまで連絡してください。 |
ボーズ |
ほんと、お願いします。困ってます。
ぼくが乗っけた誰かです。 |