KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

 
【南蛮ピリピリ貿易、の話】



その昔、南蛮貿易というのがあったとげな。
長崎の港にポルトガルやらスペインのひとが
たくさん来んさって、
おもしろかもんば日本に伝えんさったとげな。

"タバコ"、これポルトガル語。
"カステラ"、これはスペインの王国の名前。
"メリヤス"、伸縮自在の布地のことね、
これもスペイン語のメディアス(靴下)に由来とか。

450年ほど前、ポルトガルとスペインの両国と日本とは
それほどに仲が良かったのだ。
こう思うとき、長崎出身南蛮在住の私はとてもうれしい。
たとえ、カステラという南蛮伝来のお菓子が
その南蛮ではいまや姿を消してしまっているとしても。


さて、あれは数か月前のこと。
私はポルトガルのとあるドライブインで
てぇして美味くもないチキンソテーを食べていた。
少しでも美味しくしようと、調味料を探して席を立つ。
塩、コショウ、オリーブオイル、酢、
ケチャップ、マスタード……、ん!?
なんだ、これ。



タバスコ風の液体、
ラベルを見ると名前は"Piri-Piri"
あら、その名も「ピリピリソース」だ!

といっても
この地のひとは、辛いのがとても苦手。
食べられるカレーは"バーモント甘口"だけだし、
うっかり"柿の種"でも食べようもんなら
「辛い、辛い、舌に刺さる!」と、大騒ぎ。
だから、ポルトガルで"ピリピリ"と言ったところで
てぇしたことはないに決まっているのだ。

ドバ、とチキンにかけた。
火も吹けるかと思うほど、辛かった。


ドッ、と汗をかきながら考える。
この液体を、かのザビエルが日本に持ってきたとして。
きっと私のようなお調子者が瓶を取り上げるだろう。
「わぁなんねこれ、ちょっと味見させてくれんね!」
ドバ、と握り飯だか饅頭だかに振りかける。
ザビエルはあわてて
「あぁそんなにたくさんかけちゃダメだ!」
と言ったんだけど、言葉が通じるはずもない。
お調子者の"カナえもん"は
「わぁ綺麗か色ばしとるとねー」
なんて言いながら、大口あけてかぶりついたのだ。

ドッ、と汗が出る。
塩と醤油味くらいしか知らない16世紀の舌には
この真っ赤な液体、かなり苛酷な辛さのはず。
「なに、これ……」
瓶を手に、涙目でザビエルを見るカナえもん。
ザビエルは瓶を指差して、こう言ったね。
「ピリピリ?」
カナえもんは、頷いた。
「うん、ピリピリ、ね」

というわけで、
ポルトガルの調味料の名前「ピリピリ」が
"とても辛いこと"を意味する日本語になったのです。


などと想像してみました、2001年のポルトガルにて。
ウソ、かもね。

2001-08-10-FRI

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