KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

 
【2001年、日本の旅。(2)】


8月中旬、成田空港。
2年ぶりの日本、第一印象は
「……サウナ?」

わぁ湿気だ湿気だ高温多湿だ。
マドリーの20%台の湿気ではぺちゃんこだった髪が
見る間にモワモワ広がってくる。
20kgのかばんをひきずって電車に乗ったころには、
こめかみやあごから汗の玉がポタポタポタ。
電車の窓ガラスに映った顔はテカテカ、
前髪はクセでくるんと巻いている。
あぁこれこれ、
これがイヤでストレートパーマしてたんだ、高校時代。
洗面所で下敷片手にホームパーマ。なつかしっ!


東京に向かう電車から見えるのは、
あおあおとしてのどかな日本の田園風景。
っていうか、えーっと、
「……ジャングル?」

赤く乾いた土が広がるマドリーに慣れた目で見ると、
植物がわんさか生えている日本って、ほぼジャングル。
だって山や森をひらいて宅地造成するから、
家の背後まで木がもりもり茂っていたりするでしょ。
それって、
ターさん("TARZAN"のスペイン語読み)が
いつふらりと立ち寄ってもおかしくない状況だってば。

ちょっと気味悪いほどの植物の量ね、と眺めていたら
友人からの忠告を思い出した。
蚊に刺されるとたいへんだから注意しなよ、と。
なんでも、しばらく蚊に刺されないでいるうちに
免疫が低下しちゃっていて
腫れや痒みはひどいし、あとも残りやすいらしいのだ。
血といえば、
私はもう日本で献血をすることができないんだよな。
なんせ、狂牛病汚染地域に住んでるから。

たった2年で、
そんなにも変わったのかしらねこの身体。


東京駅で下車、タクシー乗り場へ。
目の前に止まったタクシーに歩み寄ると、
やおら自分でドアを開けてしまう。

いっかーん、自動ドアなんだった!

さっそく失敗しちゃったいかんいかん、と猛省しながら
「こんにちはー」と笑顔でタクシーに乗り込み
(ひょっとしてこれもスペイン風だった?)、
乗り込む動作の一連の流れなもんだから
ついつい後ろ手でドアを閉めてしまう。

だーかーら、自動ドアなんだってば。
あぁもうどうしよう。

なんとかフォローしようと
「すみませーん、久しぶりの日本なんですよぅ。
スペインでは自分でドアを開けるので、うっかり」
なんて話しかけてみるけど、
なんだかこれって外国かぶれのイヤミざんす。
あぁもうなんか違う、違うんだってば!

ん、待てよ、
フランスならまだしも
「こいつ、おスペイン帰りで気取りやがって」
なんて思うひと、いないか。
アハハハハ。


でもって、もういっこ、外国かぶれ
というかスペインかぶれなこともしてしまった。

コンビニで。
買い物をしたら、301円だった。
財布には1円玉も5円玉も10円玉すらなかったから、
私は当然のように、300円だけ置いた。
そしてニコニコ顔で、店員さんを見つめた。
「あ、いいっすよ」
っていう言葉を待ちながら。
もちろん、彼はこう言ったんだけどね。
「あの、1円足んないんすけど」

あ、そっか、まけてくれないんだっけか。

50円玉を出して49円のおつりを受け取り、
あぁここは日本なんだ、と
思った次第でありました。

2001-09-05-WED

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