KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

 
【ユーロ新年が、明けました(3)】

オラ!
財布の中身がどんどん新通貨ユーロに
なりつつある、スペインであります。


ピカピカだったユーロコインも
だんだん指紋や脂でくもってきて、
渡されるたびにピン札だった紙幣も
少しずつクタクタになってきて、
「おう、いままさに
新しい通貨が流通しはじめてるのね」
と、なんとなく感慨深くなったりして。

とはいえ小さな商店を中心に
本来ダメなはずの
「旧通貨ペセタでお釣りを返す」
ところもまだまだ多く。

やっと財布の中身がぜんぶユーロに
なったよー、ワーイ、なんて喜んでいたら
ユーロで支払ったののお釣りに
懐かしのコロンブス(ペセタ札)が
ヤァ!なんちておいでましますことも。

ペセタが商店で使えなくなる2月末まで、
スペインではこうしてのんびりと
セルバンテス(『ドン・キホーテ』の作者、
スペイン産ユーロコインのデザイン)と
意欲に燃えるコロンブス(1492年に新大陸発見、
旧通貨ペセタ札のデザイン)が
財布のなかで顔を合わせ続けるのだろうな。


偽ユーロ事件、
ユーロ輸送車を狙った強盗事件、
開始前後にはそんなバタバタがあったけど、
そんななかに
「ドイツ、スペインからユーロを購入」
というのもあった。

どうもドイツ国内でつくったユーロでは
なんか供給が足りなさそうなかんじになったので、
それならば、と、
新通貨への移行が遅くて余りそうだし
足りなくなってもそう騒いだりしなさそうな
ここスペインから、
スペイン国内でつくったユーロを買ったのだった。

ドイツだけではなくフランスも、
スペインからユーロを買ったという。


ということは。

外国人旅行者が
「ハーイ、私の国のユーロ、
もちろんユーの国でも使えますよね。
わぁこれは便利ですと思いますね。
あなたもそう思うあるでしょう?
ヤァ私たちはもう兄弟なるね!」
なんてその国のユーロを出して抱擁したりする前に、
なんとユーロが流通しはじめるまさにその日から、
ドイツとフランスには
セルバンテスの描かれたスペイン産ユーロコインが
出回っていたかもしれないのだな。

ということは。

ドイツのおじちゃんが
フランクフルトとビールを買ったのが
セルバンテスのコインだったかもしれないし、
フランスの乙女が田舎の姪っ子へのおみやげに
エッフェル塔キーホルダーを買ったのが
セルバンテスのコインだったのかもしれないのだ。

さらにフランクフルト屋さんが
パン屋さんへの支払いにそのコインを使い、
エッフェル塔前のみやげ物やさんが
朝のカフェーを飲むのにそのコインを使い、
そんなこんなしながら
いま、ドイツとフランスのあちこちを
セルバンテスが旅してまわってるのかもしれない。
そのうちスペインからの旅行者の手に渡って
「なんだ、ドイツでも
セルバンテスのコインを使ってるんじゃん」
とかって、指ではじかれたりして。


こんなおおがかりな輸出入じゃなくても、
きっと旅行者にくっついていっての
各国ユーロコイン入り混じり、っていうのは
もうはじまっているはず。

そのうち近所のタバコ屋さんでもらったお釣りが
『ヴィーナス誕生』の絵(イタリア)だったり、
モーツァルトの肖像(オーストリア)だったり
することもあるのかもしれない。
あぁなんかワクワクするかも。
(各国のデザインは
「日本銀行金融研究所 貨幣博物館」
見ることができます)


通貨が変わるっていうのははじめての経験だったけど
事前に予想されていたほどの混乱もなく
また自分も小パニックになることもなく
気がつくと2週間も経たないうちに
財布のなかはほとんどユーロになっていた。

隣近所の国と通貨いっしょにしちゃおうぜ、ってのも
こんな大規模なのは
歴史的にはじめてのことだったらしいけど、
ほんとうに意外なほどあっけなく
やってみたらやれちゃったのね、ってかんじ。
もちろん、周到な準備はあったのだろうけど。

なーんだ、やれるんじゃん。
こんな私たちでも。


ベルリンの壁の崩壊なんかは
日本にいてたし実感としてよくわからなかったけど、
通貨の壁をとっぱらった歴史的出来事に立ち会ってみて
きっと、ベルリンのときも
みんなこう思ったんじゃないか、と想像している。

なんだ、やれるんじゃん。
人間ってばさ。


できないことなんて、
意外とそんなにないものかもしれないよ、こりゃ。

2002-01-22-TUE

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