KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【パリ・打ちひしがれ旅(1)】


はなのみやこ、パリ。
へ、行ってきた。

ダンナさんとふたり、4泊5日の小旅行。
飛行機はマドリーからだと片道2時間、
半額フェアにつき運賃は往復約1万5千円也。
外国なのに、なんて近いこと。

これまでは数日の休暇が取れたら、
スペイン国内を車でまわっていた。
各地方がそれぞれ個性的で魅力的なのもあるけど、
言葉が通じる安心感、も大きかった。
たとえばホテルの部屋で寒いと思ったら
気軽に受話器を取って「毛布を」と頼めるし、
タクシーやレストランでも
旅行者レベルでならそこそこ小粋な会話ができる。
日本でもそうだと思うけど、
「現地の言葉が喋れる外国人旅行者」には
みんな、ものすごーくあたたかく接してくれる。
ほぼ間違いなく、良い旅行、ができるのだ。

でも、旅行、とくに海外旅行の魅力は、
なんやらわけくちゃわからんところに
ぽーんと放り込まれるところにもあるのだよね。
あぁ私はひとりじゃまったく非力な人間なのねー、
と、どっぷり打ちひしがれたいんだ、私は、旅で。
で「我が家がいちばん」ってお茶漬けすする、と。

なので、「海外」のパリに行くことにした。
(最寄りのポルトガルは、スペイン語で通じてしまう)
この5年間、イベリア半島から出ていない
ダンナさんにとっては、久々の「海外」だった。


友人に借りた94年度版ガイドブックで、まず予習。
「お願いします」は「シルブプレ」ね、と頷き、
<ワインの選択に迷ったらソムリエに相談を>
という記述を見ては
「フランス語で小粋に相談できるくらいなら
ガイドブックなんか要らんたいなー」
と突っこんでみたりしながら、読んだ。

そういえば、
ちょうど良い具合に、英語もすっかり忘れている。
高校時代は英語でスピーチもしたカナちゃんが、
いまでは
「『昨日』ってなんていうとやったっけ?」なんて
小学生はおろか
ジョン・レノンと同い年のハハをも慌てさせるほど。
これは旅行から帰ってきてから
米原万里さんとの対談を読んで考えたのだけど、
きっと我が脳も省エネ機能をちゃんと働かせて
英語にスペイン語を上書きインストールしたんだろう。
両方とも、あいまいに把握してるだけだもんなぁ。
そんなわけで、
現地フランス語はもちろん、国際語の英語もダメ。
これは、しっかり打ちひしがれそうだ。


さて、とうとうパリに到着。
空港からパリ市内へ向かうバスの発券所では
ジャンケンで負けたダンナさんがまず窓口へ。
「ツー、チケッツ、ポルファボール」
だって。
それおかしいって、プリーズだよプリィズ、
そうゲラゲラ笑ううち、バスは終点の広場に到着。
今度は私が「まぁ見てな」と地下鉄の窓口へ行き、
余裕の笑顔で言い放った。
「ドス、チケッツ、シルブプレ、……グラシアス」
謎の言語三種混合。
うっひゃひゃと笑われながら、ホテルへ到着。

こんにちは、は、覚えてきた。ボンジュールだ。
私はごく慣れたかんじで、フロントのひとに挨拶した。
「オラ!ボンジュール」
……「オラ」は要らんって。
でもこのクセは結局直らず、ずーっとこのまま。
「オラ、ボンジュール」
「オラ、ボンソワール」
憧れのはなのみやこパリで私は、
何度もクレヨンしんちゃんみたいだったんだ。

予約してます、朝ごはんは何時からですか。
そういうのを中学生並みかそれ以下の英語で
なんとか伝え、フラフラになって室内に。

いかん、まだなんにもやってないのに
もうかなり打ちひしがれてる!


とにかくあれだ、ルーヴルだ、モナリザだ。
ふたりの勇気をかき集めて、外出の準備にかかる。

そういえば、治安について、よくわからない。
だいたい、いまいるホテルがある場所とか、
これからまわる地区とかのうち、
どこが安全な道でどこが危険地帯かわからない。
ひょっとしたら、そんなに危険なところは
ないのかもしれないけれど、それも想像のみの話。

とにかくどんなに遠回りに見えても
人通りの多い大通りを選んで歩こう、
街はできるだけ手ぶらで歩こう、
いつものように、前後は注意しておこう。
そうふたりで確認しあい、
地下鉄路線図と中心街地図をポケットに入れ、
デジカメを胸ポケットに入れたダンナさんから
「なんかあったらこれ素直に差し出すからな、
ええな、後悔せえへんな、だいじょうぶやな」
と念を押されるのにしっかり頷いて、
寒風吹きすさぶパリの街へと歩き出したのだった。

そうそう、パリに敬意を表して、
くたびれた靴を軽く磨いてからね。

(つづく)


カナ






『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



ほぼ日ブックスでも
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もれなく絵はがきが届きますよ。

2002-11-24-SUN

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