KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【パリ・打ちひしがれ旅(3)】


はなのみやこパリのレストラン、
恥をかかないようにと四苦八苦する私の隣から
突然聞こえてきた懐かしいスペイン語。
彼らは、その後の注文も
ほとんどスペイン語と、
ほぼカタコトの英語で通していた。

ハッとした。
良いんだよ、それで。通じれば、良いんだよ。
スペインでは「わからないこと」が
恥ずかしくなかったのに、
なんでフランスだったら
急に恥ずかしくなってたのかなぁ。

お隣のカップルは、ワインも頼まなかった。
もちろん、ウェイターさんも文句言わなかった。
たぶんよほど格調高いレストランじゃない限り、
良いんだよなー、それで。
あーあ。
スペインでは平気で魚料理に赤ワイン頼んでたのに、
フランスに来たとたん
「やっぱり魚だったら白じゃないと笑われるかな?」
なんてひそひそ相談してたのが、バカらしい。

ダンナさんと顔を見合わせて、笑った。
「ええんやねー」
「ええんよ。ほんま、そういうことなんやで」
「あー、なんかやっと楽しくなってきた」
「なんか腹も減ってきたなぁ」
それからは、まわりの目も気にせず食事ができた。
スペイン人、さまさまだ。


そういえばエッフェル塔も、スペイン人だらけだった。
「パリ2泊3日週末プラン3万円」とかもよくあるから、
日本なら地方から東京へ行くくらいの感覚なのだろう。
あるいは、人数はそれほどじゃなくても
なんせ喋り声がでかいから多くみえるのかもしれない。

塔に登るエレベーターの中でも、
2、3組の家族連れで来たお父ちゃんたちが
「そいでよ、こないだしばらくぶりに
ちょいとホセの顔拝みに行ったんだけどよ、
出てきたカミさんがすましてこう言うんだよー」
なんて野太い声でガアガア騒いでいる。
ダンナさんと私は、おかしくて、
それまで格好つけてた自分たちがおかしくって、
ずーっとクツクツ笑っていた。
ダンナさんが、坊主頭をつるりと撫でた。
「そうや、わかったわかった。
あれや、東京観光に出てきた関西人やで」

よし、これからはスペイン人流でいこう。
どうせわしら、格好つけられへんし。

それが、ひとしきり打ちひしがれた後に出た結論。
良いのか?ま、人生を楽しむには良さそうだ。


それからシャンゼリゼで久々にすごい人混みを見て
私がはじめて原宿に行ったときを思い出しているとき
ダンナさんはすっかり酔って気分悪くなってたけど、
飛び込んだツーリストインフォメーションで彼が
「スピーク・エスパニョル?」と
すっかり開き直ってのスペイン人的戦法を繰り出し
ディズニーランドのチケットを購入してくれたので、
旅の最後はミッキーさんちにお邪魔することにした。


ディズニーリゾート・パリには
ディズニーランドとディズニースタジオがある。
後者は映画をテーマにした、USJみたいなところ。
エアロスミスの音楽にのせたジェットコースター、
という、すんごいおもしろいのもあった。

あのね、パリのミッキーさんちは、良かったぜ!
もともとディズニーランドは好きで、
東京にいるときはほぼ毎年行ってたのだけど、
今回あらたに気がついたこともあった。
それは、ここのスタッフは本当に、
そりゃもう感動的なまでに、
誰もちっともなんの差別もしないということ。
あぁ、夢のくに、だよ。

スペインで、フランスで、
街を歩けばスリやひったくりに絶えず注意を払い、
自宅以外では「東洋人であること」を常に意識して
ぼったくられないかとか、差別されてないかとか、
やはりちょっと気を張り詰めて生活してたみたい。
ミッキーさんちで、本当にこちらに来てはじめて、
心底のびのびと楽しい楽しい時間を過ごせた。
なんてったってシメに、近年素通りしていた
イッツ・ア・スモール・ワールドに乗ったほどだ。

その日はちょうど5回目の結婚記念日だったので、
「まぁこれからも頑張ろうぜー、ツレアイ!」
と、がっつり握手をしてパークをあとにした。


旅行は、良いなぁ。
街でたっぷり打ちひしがれて、
ディズニーランドで元気になって帰ってきて、
とっておきのお茶漬けの袋をやぶってお湯をかけた。
ずるずる音を立てて、一気にすする。
これよ、これ。
26歳まで、日本にいたんだもんなー。

さぁ明日からまた、
外国で外国じゃなくて、でも日本じゃない国での
生活がはじまる。
まだしばらくは、頑張れそうだ。


カナ






『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



ほぼ日ブックスでも
お楽しみいただけます。

もれなく絵はがきが届きますよ。

2002-11-28-THU

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