KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【ガリシア沖で、重油が流出中!】


スペイン北西部、イベリア半島の角っこに、
ガリシアという州がある。

大西洋に面する、複雑で長くて美しい海岸線は
社会で習った「リアス式」そのもの。
と思ったら、
なんとその語源がここガリシアの海岸らしい。
リアス式海岸の、ふるさとだね。

もともと近くが世界有数の漁場なうえに、
波穏やかな入り江は養殖にちょうど適していて、
一帯はヨーロッパで最大の養殖地となっている。
ムール貝、帆立貝、カキ、カニ、エビ、ウニ……、
日本に輸出されているものも多い。
魚介類はとびきり美味いし、
白ワインもすごく良いのができる。
魚と酒の大好きなスペイン人と私と、
ひょっとしたらそうと知らずに食べたことのある
多くの日本人にとっても、
ガリシアは素晴らしく美味しい素敵な台所なのだ。


そのガリシア沖で、昨年11月、
タンカーが難破して沈没してしまった。



1997年の日本海沖ナホトカ号事件を
覚えている方も多いかもしれないけど、
あのときと同じように、
すぐに流出重油による汚染がはじまった。
いや、ナホトカ号の積載重油1.9万トンに対して
今回のプレステージ号は7.7万トン。
量だけで考えると、4倍くらいひどいことになる。


プレステージ号が難破したのは11月13日。
だいたい2ヶ月が経った現在、
流出重油は州境を越え、国境を越え、
フランスやポルトガルの海岸も汚染しはじめている。

で、私は12月の最後の週末に、ガリシアへ行った。
それは泥棒に入られた翌週のことで、
もう行くのやめちゃおうかとも思ったのだけど、
えーいと迷いを振り切って行ったみた。
魚介類輸入国の日本にこの事故を伝えたかったし、
私は書くには自分で見て感じないとどうも下手で。
それに、すでに手配していた格安航空券が
払い戻し不可だったし。いやまぁ半分冗談。
とにかく、こうして私は、
日本のNPO、野生動物救護獣医師協会
こっちでサポートしている友人と一緒に、
現地へ飛んでみた。


実際に目の当たりにして、驚いた。
重油でぬらりと鈍く光る海岸の岩、
足元の砂浜に遠くまで散らばる小さな重油塊、
それに呑み込まれるようにして打ちあげられた
海草、貝類、ウニ……。
砂に半ば埋もれた、鳥の死骸も見た。
なによりも悲惨だったのは、
叩きつける冷たい雨の中で黙々と作業をし、
あるいは疲れ果てて砂浜にへたりこんでいる
ボランティアのひとたちの姿だった。
(このあたり、『のらり』
連載に詳しく書きましたので、よかったら見てね)

「私、泥棒にやられてショックとか言いよったけど、
ひどい、こっちの方がぜんぜんひどい、
いや比べるもんじゃないけどさ、
やっぱりひどいよ、これ!」
雨でずぶ濡れになって車に戻る途中、
一緒に行った友人にわーっと叫んだほど、
本当にショックを受けた。

しかもね、
そこまでしてやっときれいに清掃した海岸が、
翌朝ふたたび押し寄せた流出重油の波で
あっというまに元通りの真っ黒になってしまうのだ!
さらに沈没した船体には重油が5万トンも残っていて
いったいこの状況がいつまで続くかわからない。
大海原を前に、たいした希望的観測もなく、
ただただ砂を手で掘り、岩を貝殻でこそげる。
これで疲れ果てないわけがない。

でもひとつ、その友人から、意外な話を聞いた。
重油だって、もともとは天然のものなのだから、
なっがーい時間をかければ自然に分解される
らしいよ、ってこと。

あぁ長くなってしまったので、2回に分けます。


※一緒に行った友人によるレポートがあります。
「ガリシア沖重油タンカー沈没事故」




カナ






『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



ほぼ日ブックスでも
お楽しみいただけます。

もれなく絵はがきが届きますよ。

2003-01-19-SUN

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