KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【流出重油は、どうしたらいいのだ?】


ガリシア沖でのタンカー沈没重油流出事故は、
この2ヶ月のあいだ、ずっとニュースのトップだ。

で、テレビの映像や実際に海岸の現場を見て
無性に腹立たしく感じたのは、
回収作業の、あまりに原始的な様子。

沖合いでは漁船から荒海に身を乗り出して
浮かんでいる重油塊(というか帯だな)に
網をつっこんですくって船にあげている。
海岸ではボランティアのひとたちが
砂浜に散った重油を手で掘って掻き集め、
岩に付着した重油を貝殻で集めてバケツに入れ、
それを数十人のバケツリレーで回収車へ運ぶ。

なんだい、そりゃあ!
21世紀だぜ、
どっかからやってきたミサイル打ち落としたり、
ロボットの犬が自分で充電しに行ったり、
車の行き先を音声で告げるカー・ナビなんてのが
(日本では)すっかり普及してる(らしい)現代だぜ!
なんで、貝殻でカリカリ、しかなかとね!


自宅でもまったくの専門外かつ頓珍漢ながら、
ダンナさんと「ヘリで上空からフェンス投下」など
いろんな方法を毎日考えてみたりしていた。
でもそんなことはもちろん専門家なら
とっくに考え付いているはずで、
なにかとても21世紀的に効率的な方法が見られないのは
ひとえに事故直後にバカンスで狩りをしていた州知事や
現場の視察すらしない首相のやり方のせいだと
思っていた。

でも、どうも違うらしい。
たとえば洗剤などで一気に除去を試みるのは、
かえって自然に新たな汚染を生じさせる恐れがあるので
ものすごく良くないことだというのだ。
あぁそうだ、台所で油ものを洗剤で洗って
そのまま流したのが生活排水で
川とか海とか汚染してるんだもんね。
それをいきなり海でやっちゃ、たしかにまずそうだ。
化学物質を使った除去は、まず却下。

そこで友人から聞いた話になるのだが、
自然には、重油を分解するバクテリアが存在する。
アラスカ沖重油流出事故や湾岸戦争での汚染では
このバクテリアを使った方法が実際に用いられて
なかなか有効だったという。
こういうのはバイオレメディエーションといい、
重油を水と二酸化炭素に分解して無害化する
この種のバクテリアのことは、
世界のあちこちで現在研究中であるらしい。

よし、これを運んできてもらって一気に清掃!
と思ったら、友人からの返事。
「いや、知り合いの先生に聞いたら、
いくら重油の分解性能が高いからって
その場所に本来いない細菌を撒くことには、
生態系に及ぼす影響について考えると、
否定的な意見も多いらしいよ。
重油の分解は、時間の差こそあれ、
本来その地域にいる自然の細菌でもできるからって」
そっかぁ。
その「時間の差」が人間には大問題なのだけど、
自然にとってみたら
生態系への悪影響の方が大問題になるのだもんね。


というわけで、
「これで一気に解決!」と誰もが賛成する
21世紀的な夢のような流出重油除去の方法は、
いまのところ、残念ながらないらしい。

とはいえ、その地域にもともといるバクテリアが
頑張って頑張って重油を分解してくれるのを
ただほけーっと待っているわけにもいかない。
なんせ汚染の続く間は、
漁も養殖もできなくて、漁業や卸や運送や販売や、
先日寿司屋さんでウニを食べられなかった私も含む
関係者みんなが困ってしまうし、
汚染によって魚や貝や鳥や海草や
ひょっとしたら他のバクテリアも続々死んじゃったら
それこそ生態系ってやつに
大きな影響を及ぼしてしまうような気がする。

また、重油を分解するバクテリアだって、
砂の奥に層になって沈んでしまった重油なんかは
うまく処理できなかったりするだろう。
だから人間は、生態系の邪魔をしないような範囲で、
砂を手で掘り、貝殻で岩をカリカリやり、
バケツリレーで重油を運びつづけるしかないのだ。


石油って、もともとは自然のものだ。
ただ、地中深くに眠っているのを引っぱり出して、
使いやすいように精製して、
安くで運搬できるように海に運び出して、
そこでぶちまけたのは、人間の仕業だ。

この後始末を、自然のルールに従って行うには、
本当に膨大な人手と時間がかかる。
回収作業をするひとたちの姿は、
「やっちまった」側の人間を代表して
なんかの罰を受けているのじゃないかと
思ってしまうくらいに、
ものすごく悲惨で痛々しくて、胸が詰まる。

ニュースが伝えるところによると、今日も、
州政府が把握するだけで4千人のボランティアが
大雪に見舞われているガリシアで作業をするらしい。
軍や公的機関関係者も、作業を続けている。


日本から遠くあまり関係なさそうなスペインの、
実は魚介類輸入元であるガリシアで、
この2ヶ月の間、こういうことがあってます。

という、現地からのレポートでした。
私はまた、行ってみようかなと思ってます。
なんせガリシアのムール貝は
泣くごとうまっちゃんね。


※一緒に行った友人によるレポートがあります。
「ガリシア沖重油タンカー沈没事故」


カナ






『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



ほぼ日ブックスでも
お楽しみいただけます。

もれなく絵はがきが届きますよ。

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2003-01-22-WED

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