KANA
カナ式ラテン生活。
スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。

【ぼくもスペインも桃色な今週のモロモロ】


今週、マドリードの大通りに面する観光名所、
つまりプラド美術館や豪華な門や建物やなんかは
きっついピンク色でライトアップされている。
現物やニュース映像を見たほとんどのひとの感想は
うちのツレアイと私も含めてただ一言、
「げー!」
というものだったが、
ライトアップ担当のデザイナーは
「世紀のイベントを盛り上げるのに最高でしょ?」
と、誇らしげにピンクのプラドを見上げていた。

なんだかみんながソワソワしている。
だって今週の土曜日(22日)は、
皇太子の結婚式があるのさ!

あまり知られていないかもしれないけど
スペインにも王室があって、
現国王は、フアン・カルロス1世。
フランコ独裁将軍の死後にその後継者となるや
誰もが想像もしなかったほど民主化を一気に推進して
ノーベル平和賞候補になった人物。
それで、国民から圧倒的な支持を受けている。

んで、国王にはふたりの王女とひとりの皇太子がいて、
王女ふたりの方はもう結婚して
子どもを自分が運転する車で幼稚園に送り迎えしたり
しているのだけど、
このたび、皇太子が結婚することになったのだ。

婚約発表は去年の11月1日、
ちょうどツレアイと私が東京のホテルにいるときで、
私たちは海外ニュースとして知ることになった。
テレビに映った婚約相手の女性の顔に、私たちは
「あー! あのひとだ!!」
叫んで、驚いた顔を見合わせて、また画面を見た。
間違いない。
彼女、レティシアは、有名なニュースキャスターで、
しばらく前まで国営放送、その前はCNNのニュースで
ほぼ毎日、顔を見ていたのだ。
あとで知ったのだけど、
彼女は年間最優秀ジャーナリスト賞にも輝いた
有能なジャーナリストでもあったらしい。

そんなレティシアは、チャキチャキしていて、
会見でも、のんびりモソモソ喋る皇太子を
完全に仕切っていて、
すごくよく見るスペイン人カップルっぽくて
なかなか素敵な雰囲気だと思った。

ところで、レティシアには離婚歴がある。
王妃はそれで、最初は難色を示したとも言われる。
でもそんなことを言ったら、
皇太子フェリペの昔の恋の話の方がよっぽど多くて、
いちばん最近のノルウェー人モデルとの破局は
たしか一昨年とかのことだったはずだ。
王室まわりのそういうわりとオープンな雰囲気もあり、
また彼女の前の結婚が市民婚だったこともあって
(カトリック教会では再婚の挙式が認められていない、
 という事情がある。スペインは9割以上カトリック)、
今回の結婚には、市民はほぼ歓迎ムードだ。

ちなみに前日の深夜には
共和主義者(王室はいらないという見解)による
「共和主義バンザイ!」というお祭りがあるらしい。
まぁ、そらいろんな見解があって当然だし、
それを表明できるってのは、なかなか素敵じゃない?
それに、お祭りをするうまい口実ができたってことで
たぶん彼らだってきっとソワソワしてるんだよ、いま。

というわけで、やっぱりソワソワ・ウキウキ
桃色気分の今週のスペイン。

私もまた、えらく楽しいことがあった。

来年、愛知で行われる万博のスペイン館の
広報の仕事を手伝ってねー、と頼まれたのだ。
顔を合わせるだけだったはずの席で
しばらく喋っているうちに、
「あなたのようにスペインに住んで、
 この国をよく理解して、愛してくれているひとに、
 スペインと日本が出逢うところに立ってほしいの」
と言われたのだ。
舞い上がった私はそのまま高い打点から
「喜んで!」
テーブルをどん!と叩いて、引き受けた。
広報担当の彼女もまたニッコリ笑い、
「こちらこそ、一緒にやれて嬉しいわ」
と言ってくれた。

なんだか、長年思いを寄せてきた相手に
「君の気持ちはずっとわかってたよ。
これから一緒に生きていこうぜ!」
と、肩を叩かれたような気分。
私は嬉しくてフニャフニャになって
事務所を後にした。

家に帰って、ツレアイに報告。
頬はたぶん、ライトアップされたプラド美術館より
もっと桃色に上気していただろう。
よかったねぇ、うれしいねぇ、と、
何度も乾杯した。

自分自身のことでは
語学力や仕事で自信を無くしたこともあったし、
ふたりの生活でも
泥棒に入られたりひどい喧嘩をしたりもあった。
実感を持てる範囲の世の中でも、
ニュースで見る世界にも、
いっぱい辛いことがある。
でも、とにかく毎日チクタク頑張ってきて
(いや頑張らなかった日もあるけど)、
なんだかこういう日もあったりして
幸せに、
たぶんどんどん幸せに、
なっているみたい。
今日も明日もそんな変わらないみたいだけど
振り返ってみると、なんだかそんなかんじ。
片思いのスペインにも
思いが通じたみたいだし。
ツレアイとも、ね。

えーい、下品なピンク色のライトアップもOK!
今週は、ぼくもスペインも
けっこう幸せなかんじで、いけそうよ。


カナ

※ サイトkanasol.jp内「多事早論」で
  スペインの社会ニュース、
  もう少し詳しく扱ってます。






『カナ式ラテン生活』
湯川カナ著
朝日出版社刊
定価 \700
ISBN:4-255-00126-X



ほぼ日ブックスでも
お楽しみいただけます。

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2004-05-21-FRI

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