カナ式ラテン生活。 スペインは江戸時代の長屋みたいさ、きっと。 |
【未来の国王(かも)、誕生!】 10月30日、日曜日。 この日の早朝午前3時が午前2時になって、 1日が25時間あって、 それをもって半年続いたサマータイムが終わった。 昼過ぎから、 こうして季節が変わったことを象徴するかのように 珍しく激しい雨がざんざん降り注ぎ、 この夏に数十年ぶりという 渇水に見舞われていたことを考えると まさに恵みの雨だなー、 なんて思っていた。 その夜の、午後8時過ぎ。 身体は「もう9時過ぎ」と まだまだサマータイムで判断しているせいか そろそろお腹が空いてきたけどまだ夕食には早いね、 などとツレアイと話しつつテレビをつけたら、 全チャンネル(教育とローカル除く)が 特番をしていた。 「レティシア皇太子妃、入院。 数時間後には、新たな王室フェミリーについて 喜ばしいニュースをお伝えできます」 日付が変わって10月31日、午前1時46分。 マドリードはルベール国際病院10号室にて、 フェリペ皇太子夫妻の第一子となる赤ちゃんが誕生。 身長は47cm、体重は3,540g。 予定よりも半月以上早い37週目の出産だったが、 母子ともに健康。 性別は女の子、 名前は「レオノール」。 いまこれを書いているのは午前9時台、 ローカルテレビを含む全チャンネルが 皇太子の喜びの声を伝えている。 皇太子は、 「すべてのディテールを知りたかったから」 という理由から、出産に立ち会った。 (ちなみに今日のスペインでは、 無痛分娩+立ち会い出産が基本。 出産前の母親学級だって、 夫婦で参加するのが当然とされている) 「これは、人生に起こりうる もっとも素晴らしいことです」 こころなしか顔を紅潮させた皇太子が、話す。 「娘レオノールの誕生を、 私たちは本当に、最高に幸せに感じています。 赤ちゃんは、大きくて……、 (チラっと担当医を振り向き) で、丈夫そうに見えます(よね? ってかんじ) そして、僕がこれから説明しようとするのは、 『赤ちゃん(男でも、女でも)の顔を はじめて見た父親』と、きっと同じです。 とくに、『母親』の顔ですね。 それはすべてに満足しきった顔で……。 僕は、その隣に、いたんです。 『母親』の顔は、素晴らしかったです。 僕なんかよりも、ずっと(笑)。 僕は、赤ちゃんが産まれてくるのを見て、 見たはずなんだけど、 そのあとすぐに連れ去られてしまってから 『あっ、いまのはなんだったんだ?』って(笑)。 どちらに似ているかというと、 そうですね、どちらにも似ていると思います。 すぐに、みなさまにもお目にかけます」 王位継承権を持つ皇太子の 第一子が女子だったことで、 スペインでも「王位継承問題」は起こる。 起こっている。 現行法は、男子の優位性を認めているのだ。 しかし王女の出産を受けた政府側は、 「女子に王位継承権を認める法改正を行うための 時間は充分にあるし、 その法律は、改正以前に生まれた女子にも 適用されるだろう」 と発表ししている。 テレビを見ている限り、 問題とされているのは 「法改正には、こんなにややこしい手続きを 経なければなりません」 ということであって、 「女子に継承権を認めるのはどうか」 という議論は、いまのところ耳にしない。 なんだか、当然のことと されているようだ。 王室もまた、「緊急のことではないから」と とにかく繰り返し強調している。 15歳でフランコ独裁将軍の指名を受け その後継者として教育されてきて、 かつ、王室の伝統にのっとって 外国の王室(ギリシャ)から 妻を迎えたフアン・カルロス1世現国王。 でも彼が民主化を進めたおかげで、 息子のフェリペ皇太子が 離婚歴もある元ニュースキャスターと結婚し、 その第一子であるレオノール王女が 未来のスペイン国王となることを 市民が当然と感じるようになった、 のかもしれない。 なんだかみんな、 近所の顔見知りの若夫婦のところに 赤ちゃんが生まれたという話を聞いたように ほのぼのと「よかったねー」なんて言っている。 私もまた、そんなかんじ。 しかし3,540gとは、大きいね。 どうか皇太子の希望どおり、 このまま丈夫に、すくすくと、 祖父の時代のように独裁者もいず、 曽祖父のように国外へ避難もしないでいいような 幸せな環境で育ちますように。 カナ ※内田樹研究室内 「今夜も夜霧がエスパーニャ」もよろしく。
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2005-11-01-TUE
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