── 「合宿」のときの糸井さんは厳しかったですね。
それまでに何度も目にしているところでも
ばっさり削ってぜんぶ書き換える、
っていうところがしょっちゅうあって。
糸井 「あ、そこからそこまで
 ぜんぶいらなーい」とかね。
── (笑)
糸井 ひとつ言えるのは、
下ごしらえをしてくれた
ブラウニーブラウンさんたちが
年齢的に若いんですよね。
つまり、ゲームをつくる人たちの世代が
ぼくからしてみると、
うしろのうしろのうしろくらい、
4期くらいうしろの子たちの時代に
なっちゃってるんで、
それはやっぱり感覚が違って当然なんですよね。
だから、ぼくの思うようにやって、
若い世代のお客さんが受け取ったときに
ユーモアのセンスみたいなものが
ずれてたら困るな、とは思ったんだけど
仕上げてみると、ずれていたとも思えない。
── はい。
糸井 厳密にいえば、それは
ぼくが判断できることじゃないんですけどね。
でも、『MOTHER』をつくるなら
ああやっていくしかなかったと思います。
── 印象的だったのは、
まちがっているところを直すのはもちろん、
まちがっていないようなところも
引っかかるところはぜんぶ直していったことです。
「こんにちは」っていうのを、
「やぁ、こんにちは」みたいに直したり。
糸井 ああ、そこはもう、生理ですからね。
ぼくの生理で書いてるから、
しょうがないんですよ。
「こんにちは」じゃだめなんですか
って訊かれたら、理由は言えない。
── なるほど。
あと、どんどんセリフを
長くふくらませる一方で、
下ごしらえで長かったセリフを
極端に簡素にする修正もやってました。
糸井 意識的に省略したところは多かったですね。
わざと決まり切ったセリフに戻したり。
なんていうんですかね、
ずーっとおかしなことをしゃべっていると、
それがふつうになってしまって
だらだらするだけになるんですよ。
象徴的だったのは、カエルですよね。
── 「合宿」に入るまえの段階では、
登場するすべてのカエルが
いちいち違うことを言ってました。
糸井 そうすると、
それがふつうになっちゃうんです。
「カエルは違うことを言うものだ」
ということになる。
── そうですね。
しかも、実際にプレイしてみると、
それをいちいち聞くことが
義務のようになってしまって。
糸井 だから、まず、それを全部、
共通のセリフに戻したんですよね。
そのうえで、
「ここのカエルは変えよう」というふうに。
つまり、手間としては二重になってるんです。
煮物をつくったのに、
また砂糖としょうゆと水に戻して、
「水煮にしよう!」
っていうようなことですよね。
そういう大きな決断は
「合宿」の最中に何度もしましたね。
── そういうときは、
場がピリッとする感じで。
糸井 なんていうんですかね、
本気の度合いが高まる瞬間があるんですよね。
歯を食いしばって、
2、3発なぐられてもいいみたいな、
そういう気分で向かうわけですよ。
周囲のメンバーがみんな
「ん?」って思ってるときでも、
「いや、ここはこうするから!」って
ぼくが反対しながら進む瞬間って
何度かあったじゃないですか。
あのときって、ちょっとこう、
朝青龍な気持ちなんですよね(笑)。
── (笑)
糸井 「この瞬間は、オレが上ね」っていう
すっごい動物的な気持ちで。
そうじゃないとやっぱり、
つまんなくなるんですよ。
中途半端になっちゃうんです。
まあ、理解し合ってる人たちが
相手だからこそできるんですけど、
なんていうのかな、
ケツの穴をギュッと縮めてるとき、
「よいしょっ!」っていう気持ちは
おれのほうが上だっていう
ガキのころの気持ちですよね。
── はい(笑)。
糸井 それはね、絶対に必要だと思うんですよ。
その、なんだろう、
「アスリートの獣くささ」みたいなものは、
クリエイティブのなかにもあるんですよ。
こう、「黙れ!」みたいな(笑)。
── 周囲のメンバーが
「それをやっちゃうと、
 これこれこういう影響が出ますよ、糸井さん」
の「糸井さん」まで言い終わらないうちに
「あ、ま、いいから!」みたいな(笑)。
糸井 はははははは。
あれはもう、ケダモノですよね。
そのくせ、あとから
「ほら、こうすれば、
 さっきの問題は解決でしょ?」
ってフォローしてみたりね。
あの、ケダモノになるのって、
人としてはちょっと恥ずかしいことだからね。
だから、フィールドがない場所で
ケダモノになっちゃだめなんですよ。
あの「合宿」は、そういうフィールドで、
まわりの人間にも
そこの段差がわかってるからこそ、
ケダモノができるんです。
いつでもオラーッてやってたんじゃ
やっぱり、よくないというか、
おもしろくないですよね。
── そりゃただの乱暴者というか、
たんに「強引な人」になっちゃう。
糸井 その意味では、やっぱり、
わかってくれる人っていうか、
いい仲間に出会えてるっていうのは、
ほんとにすごいことですよね。
だから、自分でなにかものをつくってね、
こう、人にそれを問いかけて
生きていこうっていう気持ちがある人は、
中途半端なところでニコニコしてないで、
せめて村相撲ではケツの穴を縮めて優勝する、
みたいなことをしてほしいですね。

(続きます)
2006-04-27-THU