── 思えば、糸井さんって、
純粋な「糸井重里作品」っていうのは
あんまりないんですよね。
糸井 ないですよ。
うん、ないですね。
── 関わっているものは、生み出してきたものは
それこそ山ほどありますけど、
わかりやすいかたちでの、
糸井さん個人の作品というとあまりない。
糸井 う〜ん、たいへんだからね、つくるのが。
── (笑)
糸井 時間と格闘しなきゃいけないものって、
やっぱりたくさんはつれない。
あと、作者としてメシを食っていくのと、
作者じゃないところでメシを食うことは
ぜんぜん違いますからね。
大きな意味では、ぼくはもう、作者として
自分の時間と引き換えに
なにかを生み出すっていう
仕事のしかたをしてませんから。
── でも、今回の『MOTHER3』では
明らかに、作者であるわけで。
糸井 そうだよね。めずらしく、ね。
作者であり、社長だよね。
── (笑)
糸井 で、意外と欲はない(笑)。
── 欲はない、というか、
ほんとうにいつもの仕事と違いますよね。
プロモーションとかについても
しょっちゅう「わかんない」って言うし。
糸井 いや、もう、ほんとうにね、わかんない。
── (笑)
糸井 あの‥‥いちおう、
アマゾンの順位とか気にしてんだよ?
── あはははははは。
糸井 「えー、なに、これがいいわけ〜?」なんつって。
「この順位はアマゾンだけでしょ」とかね。
ひとりで考えてみたり。
── たとえば、これが、自分とは関係ない仕事として、
「『MOTHER3』っていう
 ゲームがあるんですけど
 糸井さん、売ってくれませんか?」
って言われたほうがよっぽどラクでしょ?
糸井 そうだねぇ。わかんないからねぇ。
自分じゃ、やりづらいよね。
── あと、ぼくは
糸井事務所に入ったときに驚いたんですけど、
『MOTHER』のCMとか、
当然、糸井さんがぜんぶ仕切って
自分でやってると思ったんですよ。
糸井 あ、とんでもない誤解ですね。
── 基本的に、代理店がつくってきたものを
ジャッジする立場なんですよね。
糸井 うん。そうですよ。
コピーは自分で書きますけどね。
あと、『MOTHER2』のときに
木村拓哉くんを使いたいというのは
自分でリクエストした。
── けれども、絵コンテみたいな
制作の部分は代理店がつくってて。
『MOTHER3』のCMもそういう感じで、
糸井さんが企画するわけじゃなくて。
糸井 そうです。
── けっこう、意外でしたよ?
糸井 そう?
── どうして自分でやらないんです?
糸井 やりにくいんだよ。
── やりにくいんですか!
糸井 やりにくいんだよ。
── やりにくいのかぁ。
糸井 だって、それは、
「オレってどう素敵?」って話だろ。
── うん、まあ、そうですね。
糸井 それ、やりにくいんだよ。
── でも、みんなきっと
やってると思ってますよ。
糸井 知りませんよ(笑)。
── ええと、話を戻しますが、
『MOTHER3』のコピーは
「奇妙で、おもしろい。
 そして、せつない。」
糸井 うん。
── ストレートでしたね。
糸井 あ、そうですか。
── だって、『MOTHER2』の
「おとなも、こどもも、おねーさんも。」
なんて、ゲームの内容というより、
いまのゲーム業界を予見するような
ものだったじゃないですか。
糸井 うん。思えば、あれ、
ニンテンドーDSのコピーですね(笑)。
── そうそうそう(笑)。
そういう意味で、
『MOTHER2』そのものっていうより、
ゲームという遊び全体の、
大きなコピーだったと思うんですけども。
糸井 うん。
── 『3』はほんとうに、
『3』に対してまっすぐに言ってるような。
糸井 やっぱりね、
自己紹介し直さなきゃなんなかったから。
── ああ。
糸井 やっぱり、ひと回りしてるからね、
「みなさん帰ってきましたよ!」
って大声で言うわけにもいかないし。
ちょっと、遠慮というか、
礼儀が必要だなって思ったんです。
── なるほど。
糸井 だから、たとえば、そこにいる人全員が
「この人は糸井重里だ」って知ってる場所でも、
「こんにちは、糸井重里です」
っていうようなことでしょうね。
そういうふうな、こう、
ちょっと襟を正した感じっていうのは、
今回は、とってもありますね。
── そして、やはり、ちょっと‥‥遠慮が(笑)。
糸井 遠慮があるよねぇ(笑)。
一回、中止にした前科があるから、
とにかく出るまではおとなしくしていようと
ずっと遠慮してたらね、
なんか、クセになっちゃったみたいで(笑)。
── しっかりしてくださいよ。
糸井 いや、自信はあるんだよ。自信はある。
「自信はあるんだよ!」って
大きく書いてもらってもいいくらい。
── でも、「オレって素敵だ!」って
大声で言えるかというと‥‥。
糸井 遠慮したいんだよなぁ‥‥。
── (笑)
糸井 だから、もう、信用するしかないですよね。
先にプレイした人がね、
いいと思ったところ、よくないと思ったところ、
ほんとのことをちゃんと言ってくれると、
ちょうどいいバランスになって
ちゃんと広がっていってくれるんじゃないかなって
もう、いまは、信頼してるんですよね。

(続きます)
2006-05-01-MON