大貫妙子、『愛のテーマ』を歌う。 『MOTHER3+』発売記念対談




+ 第3回 土台の部分だけを延々とつくってきたような気がする
糸井 若いころに背伸びをして失敗したとしても、
きっとその背伸びには2種類あると思うんですよ。
純粋に、背伸びをしてみたいときと、
汚く、背伸びをしてしまうときと。
大貫 ほかの欲というか、変な色気が入ると、
汚くなってしまうんですよね。
糸井 そうそうそう。
やっぱり、背伸びしてよかったなって、
あるときになって思えることだってあるんだよね。
純粋に高い場所を見て背伸びをするときは
きっと失敗しても汚くはならないんです。
でも、タレント商売というか、
クリエイティブ商売というか、
いわゆる「自分を売っていく商売」というのは、
どうしても不純物が混じりやすいから。
とくに若いときっていうのは、
自分ならではの営業品目をつくりたくて、
余計な動きをしてしまうんだよね。
大貫 たぶん。その点、私には
そういう気持ちがまったくなかったの。
その、自分の営業品目を増やすという気持ちが。
糸井 だからこそ、
大貫さんの言う「若いころの失敗」が、
他人には失敗に映らないんでしょう。
大貫 そうかもしれません。でも、自分には耐え難い。
自分のつくったものに
自分がぶら下がっているように思えてしまう。
糸井 その経験がいまの自分をつくってるって思えるのって
ずいぶんあとになってからだしね。
大貫 そう(笑)。
糸井 失敗の数って無限にあるからね(笑)。
それは時間かかるんだよね。
大貫 かかりますね。
糸井 身の丈以上のものをつくってしまったとしても、
自分の背丈がだんだん大きくなっているから、
失敗したと思っていたけどいつのまにか
それなりの場所に立てていることもある。
大貫 うん、そうですね。
糸井 それはやっぱりぼくも同じで、
「あいつのやっていることはオレでもできるよ」
って言われるのが、いまはうれしいくらいなんです。
でも、昔はそう言われるのがイヤだったからね。
「あんなコピーがなんなんだ」って、
まあ、ずうっと言われ続けてはきたけど、
昔は、そう言われないように
ときどき利口ぶったりもしてたと思う。
でも、いまはもう、ぜんぜん平気だからね。
「みんなが『自分にもできる』って
 思えるようなものこそがいいんだよ」
「そういうものが受け入れられるものなんだよ」
って言えばいいんだから。
でも、そこがわかるまでには時間がかかるよね。
大貫 そうですね。
時間がかかるし、そういうくり返しを、
死ぬまでやっていくんだと思う。
どこかの洞窟にこもって暮らすのでもないかぎり、
ずっと続くことだと思うんですよね。
糸井 因果な商売だねえ(笑)。
大貫 でもね、そういうことをくり返しながら、
オリジナルアルバムだけで25枚もつくってくると、
なんだか、自分のやってきたことって、
こう、家の土台の部分だけを
延々とつくってきたような、
そんな気がするんですよ。
糸井 ああ、なるほどね(笑)。
大貫 なんていうのかな、
土台だけがものすごく頑丈になっている。
その上に建っているものは
たいしたものじゃないかもしれないけど、
土台だけはちょっとやそっとじゃ壊れない。
だから、いいほうに解釈すると、
「こんなんで平気かな?」
っていうくらいの家を乗っけても
あまりにも土台が頑丈だから、
まったく平気、みたいな(笑)。
糸井 それは、でも、最高じゃない?
大貫 どうなんでしょうね(笑)。

糸井 最高だよ。
ほんとうの建物の話になっちゃうけど、
奈良の平城京とかって、土を固めるのに
えーらい苦労したらしいんですよ。
当時はコンクリートなんて当然ないから、
「固めれば固められる場所」っていうのを
ものすごく真剣に選んだらしいんですね。
で、その土台を固めるっていうことを
きちんとやっておいたから、
いまでも奈良の都は残っているわけで。
古い建物を直している宮大工さんたちも、
「いつか建物が壊れたとしても、
 この土台だけは自慢です」
っていう言い方をよくしますよね。
大貫 ああ、そうですか。
まあ‥‥奈良の都というのは
ちょっと言い過ぎですけど(笑)、
私は、自分の土台の上に、
ほんとうにいろんなものを
建てていると思うんですよ。
フランスでレコーディングしてみたり、
ブラジルに行ってみたり。
だけど、土台が共通しているから、
どこでなにをやっても、
けっきょく自分の音楽になるんですよ。
糸井 建て直しだってできるしね。
大貫 そうですよね。
たぶん、そういうことを、
ずっとやってきたんだろうなって
いまごろになって思うんですけど、
いまだに土台づくりを続けている自分もいて、
それもどうかなって、ときどき思う(笑)。
糸井 (笑)


(続きます)

2006-11-01-WED


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