大貫妙子、『愛のテーマ』を歌う。 『MOTHER3+』発売記念対談




+ 第4回 この声で歌うっていうのは生まれ持ったなにか
糸井 大貫妙子という人は、
自分の土台だけを延々とつくり続けてきたと
おっしゃいましたけど、
これ(『We miss you 〜愛のテーマ〜』)も、
そうとうしつこくつくったって、
立ち会ったスタッフから聞きましたよ。
大貫 いや、そんなでもないです。
糸井 そんなでもないですか。
でも、歌入れに昼から12時間でしょ?
そのあと、ボーカルのベストテイクを選んで
調整するのに朝までかかったって‥‥。
大貫 自分の作品だったら、もっとしつこいです。
糸井 うわあ(笑)。
大貫 でも、さすがにそこまでは
やっちゃいけないなと思って。
ちょっと心残りです(笑)。
糸井 スタッフもそうですけど、
ずっといっしょに作業してた
HAL研の酒井(省吾)さんが
「すごかったです。ゲーム業界はまだまだ甘い!」
って感心してました。
ぼくなんかは古い人間ですから、
「あの時代の人はみんなそうなんだよ」
って言ってたんですけどね(笑)。
大貫 そう。ほんとうはまだ
ぜんぜん足りないぐらいなんですけどね(笑)。
糸井 ほんとうなら、もっとやるんですね。
大貫 もちろん手を抜いたわけではないですけど。
たとえばステージでも、頼まれたことでも、
ひとつひとつを丁寧にやるということは
やっぱり譲れない部分なんですね。
どんな小さな仕事でも最後まで見届けたい。
人に預けちゃうともう責任がとれないですから。
だから、それはもう、自分の信念。
糸井 そういう、一個一個が土台づくりなんだね。
大貫 そうなんじゃないかなと思う。
けっきょく、そう考えると、
自分は音楽をつくってなくても
よかったのかもしれないですね。
自分の土台を磨いてさえいれば。
糸井 ああ、そうか。
たまたまいま音楽っていうものを
テーマにしているけれども。
大貫 そうです。
音楽じゃなくてもよかったのかもしれない。
糸井 で、そうじゃない人もいますよね。
音楽じゃないとダメだという人。
大貫 はい、います。
糸井 音楽の場所にいるのが自分だ、
っていう人ですよね。
でも、大貫さんはもうちょっと音楽かと思った。
というのは、大貫さんは頭じゃなくて、
ボディで音楽を鳴らしてるじゃないですか。
大貫 うん。そうなんですけどね。
でも、それもまあ、
「こういうことをやりなさい」と
誰かに言われてるような
背中を押され続けてるような
感じはします。
糸井 うん、わかってる。
大貫 歌うことって、
誰にでもできるようだけれども、
この声で歌うっていうのは
生まれ持ったなにかだと思うので、
それはあるときから、
すごくありがたいというふうに
思うようになったんですけれど。
糸井 代わりがいないって言われることほど
すばらしいことはないですもんね。
大貫 そうですね。そう、ほんとうに。
糸井 AじゃなければBって言われる中の
BやCでありたくないですよね、やっぱり。
大貫 そうですね。
糸井 それを歌い手で言われる人って、
やっぱりそんなにはたくさんいないですよ。
とくにポップミュージックの分野では。
大貫 だとしたら、やっぱり、
ありがたいですね。


(続きます)

2006-11-02-THU


(C)Hobo Nikkan Itoi Shinbun