大貫妙子、『愛のテーマ』を歌う。 『MOTHER3+』発売記念対談




+ 第5回 あの詞は、けっこう時間がかかったんです
糸井 『We miss you 〜愛のテーマ〜』は
酒井(省吾)さんの曲ですけど、
大貫さんは人の曲を歌うこともありますよね。
大貫 ありますよ、ときどき。
糸井 土台が頑丈だとはいえ、
簡単じゃないでしょう?
大貫 うん、人の曲を歌うのは難しいですね。
やっぱり自分がつくった曲は
難しいメロディーになったとしても、
自分が歌いやすいように書いているので。
それってとっても生理的なものですから、
人のメロディーを追っていくと、
「えっ、そこに行くの?!」っていう
違和感みたいなものがどうしてもあるんです。
だから、最初はやっぱり戸惑いますよね。
糸井 しかも、今回の曲は『MOTHER3』という
ゲームのテーマ曲ですから、
もともと歌われれるために
つくられていなかったメロディーなんですよね。
大貫 そうなんですよね。
糸井 だって、いちばん最初の仮のタイトルは、
『ワンフィンガー・メロディ』でしたからね。
音楽を担当した酒井さんに、
「ピアノが弾けない人でも
 一本指で鍵盤をおさえながら
 弾けるようなメロディーに」
ってリクエストしたんですよ。
それは、本来、歌うのには向いてないよね。
大貫 音階が器楽的なんですよね。
だって、「♪ティタ、タタタ、ティララララ」のあとに
「♪ラーララーララーララ」ってすごく飛ぶし、
かと思うと「♪ラーラーラー」って高いところへ(笑)。
私がつくるメロディーもわりと飛ぶほうなんだけど、
やっぱり、人の曲だと、違うんですよね。
糸井 飛び方が違う。
大貫 ええ、そうなの。
糸井 レコーディングに立ち会ってたけど、
ぼくのつけた詞も怒られてたよね(笑)。
「高い音で母音が『イ』だと
 歌いにくいんだよねー」って。
大貫 そうだった(笑)。
上のほうに「ニ」とか、「リ」とかあると、
ちょっと困ります。
糸井 申しわけない(笑)。
大貫 いえいえ、そんな。
単なる私のわがままですから(笑)。
あの詞は、あのままでいかないと。
糸井 あの詞は、けっこう時間がかかったんです。
大貫 そうですか。
糸井 うん。
つまり、『MOTHER3』に関して、
自分がなにかをつくることは
もう、ないだろうと思ってたんですよ。
『MOTHER3』だけじゃなくて、
『MOTHER』の仕事はぜんぶ終わったと思ってた。
CMも直接自分でつくったわけじゃないし、
なにか頼まれても、なにもしないぞ、
くらいのつもりでいたんですよ。
だから、本当に、どうしようかと思いました。
最初はね、歌詞はなしにして、
「ラララ」で歌うみたいなことに
しようかなとも思ったんだけど‥‥。
大貫 そういうメロディーラインじゃないですよね。
糸井 そうなんですよね。
あと、「ラララ」だけで、
みんなになにかを伝えろっていっても
やっぱり、無理なんですよ。
それは、『MOTHER』というゲーム全体が
そういうふうにつくられていないということもある。
だから、極端なことをいってしまえば、
デジタルにコンセプトをつないでいけば、
詞として成立するのかもしれないけど、
そうじゃないなと思って、つくっていきました。
なんというか、自分は昔から、
そういう修行を積んできた気がするんだよね。
大貫 ああ、なるほど。

(続きます)

2006-11-06-MON


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