川上 |
『MOTHER2』は、
ゲームのなかに出てくる言葉の
ひとつひとつがおもしろいんですよね。
「ダンジョン男」とか、
あの、タコのシリーズとか。 |
糸井 |
ああ(笑)、マルデタコ、ミタメタコ……。 |
川上 |
そうそう(笑)。私も子どもも、
あれがものすごく好きで。
いまでも、「マルデタコ!」とか、
意味なく言い合ったりしてます(笑)。
だんだん進化していくんですよね、
3段階くらいに。 |
糸井 |
最後は「タコソノモノ」になります。 |
川上 |
あのへんの言葉の感覚がすごく好きで。 |
糸井 |
ああ、なんていうのかな、
たとえばカタカナにしただけで、
急に違うものに見えてくるから
おもしろいんですよねえ。そういう、
表記で変な感じが出るっていうのは、
ぼくは昔から好きで。
どこをカタカナにして、どこを漢字にするか、
みたいな工夫はずいぶんやってますね。
ま、職業がコピーライターだったから(笑)。 |
川上 |
そうか、そうか。
頭のなかでいろんな変換を
なさってるんですね。 |
糸井 |
ええ、1行の文章にしても、
「どっちがいいかな?」っていうことは、
ずいぶん時間をかけたりしますね。
マルデタコとかミタメタコにしても、
ひらがなにしたらもうぜんぜん違うし、
漢字入れたら、おもしろくもなんともないし。 |
川上 |
あー、そっか、そうですね。 |
糸井 |
その、言葉にある意味を
一瞬見えなくさせることで、
遠ざけると、世界は増えるんです。 |
川上 |
増えますね。 |
糸井 |
『溺レる』の「レ」みたいなもので(笑)。 |
川上 |
(笑)。 |
糸井 |
『溺レる』の「レ」は、
もう何回も説明なさってるんですか?。 |
川上 |
あ、どうして「レ」が
カタカナかっていうことですか?
それほど大きなことではないんですけど(笑)。
語幹だけをカタカナにしたんです。
「溺れない」とか、「溺れるとき」とか、
活用するとき「溺れ」までが語幹ですよね。
だから、活用しない部分をカタカナにして。
そのときに、「オボレ」っていうふうに
語幹を全部カタカナにすれば表記としては
わかりやすかったんでしょうけど、
ええと、「溺」は漢字にしてみたかったので
「レ」だけがカタカナになったんです(笑)。
|
糸井 |
ぼく、『溺レる』は、
すっごくいいと思います。 |
川上 |
なんだかわかんないんですけどね(笑)。 |
糸井 |
川上さんって、そのへんは、
ものすごく厳密にやるんですか。 |
川上 |
やってないです。
私ね、国語って不得意なの(笑)。 |
糸井 |
いや、国語というよりは、
文字をどう見せて、
本来の意味からどう距離をとるか、
みたいなことです。 |
川上 |
う〜ん、ひらがなか漢字かっていう程度の、
単純なところは、やりますけど、
そんなに厳密に考えてはいないですよ。 |
糸井 |
厳密には。 |
川上 |
うん。 |
糸井 |
文章のなかではどうです?
あの、おんなじ言葉でも、
一方で出てきたときはひらがなにしたり、
違う場所に出てきたときは漢字にしたり、
意識的にやってらっしゃいますよね? |
川上 |
いや、そうとういい加減です(笑)。
つまりね、一冊の本としてまとめるとき、
「こっちでは漢字でしたが、
こっちではひらがなになってますけど、
どうしましょう?」って、
校正担当の方が困ってしまうようなことが
いっぱいあるんですよ(笑)。 |
糸井 |
はいはいはい。 |
川上 |
で、自分で「意識してたかなー?」って、
思い出そうとするんですけど、
ぜんぜん意識してなかったりするんですね。 |
糸井 |
あの、その言葉の表記をどうするっていうとき、
その言葉のまわりの言葉が決めるんですよね。
まわりの言葉が、そのときの都合で、
「キミはひらがなでいてくれたまえ」
って言うんですよね。 |
川上 |
ええ、ええ、そうですね。 |
糸井 |
ぼくはそういうところがね、たまんないんですよ。
好き、なんですよ。 |
川上 |
ああ、ありがとうございます(笑)。
でもね、長い文章をずーっと書く人間は、
糸井さんが思うよりももっといい加減ですよ。
たぶん糸井さんは、ほら、短いっていうか、
そんなに短いわけじゃないでしょうけど、
ある程度決まった量の文章で、
パッと見せるようなものを
やってらっしゃるでしょう?
それは、長い散文とは違うものだと思うんです。
私、俳句をやってるんでわかるんですけど、
俳句だと、ものすごくちゃんと意識するんです。
けど、長い文章でそれをやってるとね、
なんかもう、イヤになってきちゃう(笑)。
だから、私自身はいい加減です。 |
糸井 |
たとえば、
ある言葉は絶対にひらがなにするべきだ、
っていうような、
決まりのある人もいっぱいいますよね。 |
川上 |
いますよね。でも、そうじゃないですよね。
それは、糸井さんがおっしゃったように、
言葉の隣の言葉とかが
決めてくれるものですよね。 |
糸井 |
そうですね。周囲の言葉がなかったら、
どっちだっていいんですよね。 |
川上 |
そうなんですよね。
私なんかほんといい加減だから、
「これはひらがなにしたら?」って言われると、
たいてい言いなりになってますね。
もちろんしないときもありますけど。 |
糸井 |
提案されたものが、
「あ、そのほうがいいな」って思わせることは、
ありますよね。 |
川上 |
けっこうすぐ思っちゃうんですよね(笑)。
わりと見境なく、
「あ、いっか」って思っちゃう。
|
糸井 |
川上さんは言葉の表記だけじゃなく、
改行とか、段落の構成とかも独特ですよね?
んー、なんていうんだろう、
主体がクルッと変わった短い文章が、
真ん中に挟まったあとで、
またすぐにもとの主体に戻ったりとか。 |
川上 |
あ、そういうのって、ありますよね。 |
糸井 |
あれ、気持ちいいんだよねー。
読んでて「めくるめく」んですよね。 |
川上 |
でも、そんなに独特ですか? |
糸井 |
意識的に、あんなにやってる人って、
ぼくはあまり知らないです。 |
川上 |
そうですか。それもよくわかんないんですよ。
書いているものと途中で読み返してみて、
「これ、誰が書いたんだっけ?」
とか自分で思ったり(笑)。
わかんなくなったりします。 |
糸井 |
いいなあ(笑)。 |
川上 |
よくないです(笑)。
それで書き直したりするんで、
最終的にはわかるようになるんですけど。
書きながら、どんどんどんどん
(気持ちが)入っていっちゃうと、
そこのバランスがよくわからなくなる。
だから、書いてる最中の推敲は
よくするかもしれませんね。
ひょっとしたら、飽きっぽいのかな。
ひとりの人でずっと語ってると、
「もう、いいや、飽きちゃった」
みたいになっちゃうのかも(笑)。 |
糸井 |
すげぇ。 |
川上 |
いやだなぁ(笑)。
|