糸井 |
受け手に必然性を感じさせるというのは
たしかに難しくて、『MOTHER2』でも
乱暴なことをしている場合はあるんです。
「ここは、一切合切、考えなしに飛びますよ」
っていうふうなことを、
知っててやってることはあるんですよね。 |
川上 |
ああ、はい。 |
糸井 |
ただし、その、
「必然性もへったくれもねぇぜ」っていう、
急に入れ墨見せちゃう
みたいなことをやるときには、
「知ってますよね?」っていう
サインだけは入れとくんですよ。 |
川上 |
そう! それなんですよね。それそれ!
サインが入ってないと
「えっ!?」って思いますよね、やっぱり。 |
糸井 |
川上さんの作品にも、
そこはものすごく丁寧に入ってますよね。 |
川上 |
はい。でも、みんなそうじゃないかな?
だから、散文書く人間っていうのは、
地道な人が多いと思いますよ、わりと(笑)。 |
糸井 |
はぁ〜。僕はね、散文を書くとなると、
それが、できないんです。
|
川上 |
できないんですか。できますよ(笑)。 |
糸井 |
いや、あのね、できないんです。 |
川上 |
気にしなきゃいけないところが
多過ぎるからですか? |
糸井 |
あの、そうじゃなくてね、
なんといったらいいんだろう、
急にパーフェクトを求め始めちゃうんです。 |
川上 |
あー! そうするとできないですね。 |
糸井 |
はい。 |
川上 |
そこは、言葉の表記の話と同じですけど、
いい加減さと厳密さが、両方要るんですよ。
で、小説を書くときに、
そこでパーフェクトを求める人は
やっぱり書けないと思う。 |
糸井 |
あ、そうか。またしても、
短文の発想で長文を書こうとしてるんだ。 |
川上 |
そうです、絶対そうなんですよ。
言葉をぜんぶ吟味して、吟味しつくして、
きちんとやりたいっていうのが
きっと、あるんじゃないですか? |
糸井 |
たいした吟味じゃないんですけどね(笑)。
自分なりに、やりたいんでしょうねえ。 |
川上 |
(笑)。そのへん、ゲームをつくるときは
どうだったんですか? |
糸井 |
ゲームをつくるときは、
乱暴に運ぶところと、繊細にやるところが
使い分けられるんですよね。
やっぱりさっきのサインの話になるんですけど
お客さんに対して、
ここはいい加減な感じで楽しんでくださいとか、
マルデタコを出したあとに
ミタメタコを出すようなことが、
平気でできるんですよねえ。 |
川上 |
(笑)
|
糸井 |
それは、作詞のときと似ていますね。
あの、たとえば作詞するとき、
1コーラス目をまず書きますよね。
そのとき、2コーラス目のことなんか、
じつは考えてないんですよ。 |
川上 |
えっ、そうなんですか。 |
糸井 |
ほんっとにそうなんです。
1コーラス書いたあと、それをずっと見ながら、
「2コーラス目、どうしよう?」と思うんです。
同じことを角度を変えて言おうか、
それとも話を進めようか、
逆転させるのはどうか、
光を違う場所に当ててみようか……。
2コーラス目をつくるのって、
たんにそれが必要だという
制約にすぎなかったりするんです。
また、その制約があるおかげで、
2コーラス目のほうがよくなったりもする。
ひとつ生んだら、つぎを生むときは
自己模倣したり、並び順を変えてみたり。
そういうことについては訓練というか、
経験を積んでいるもんですから。
ゲームのときはそれが使えるんですよね。 |
川上 |
でも、何か、ものをつくるときは、
いつもいっしょなんじゃないかな?
たぶん、散文を書くときも同じなんですよ。 |
糸井 |
そっか。 |
川上 |
最初の土台みたいなものもなく、
いきなりピュッて逸脱することは
やっぱり難しいですよ。
ほら、まったくオリジナルなものはないって
よくいいますよね。 |
糸井 |
はい。 |
川上 |
それとおんなじ。
まずそのつくり始める前の、
絵のかたちであるとか文字だとか、
その土台からしてもう、あるものなんで、
そこをどうずらしていくか。
それも、その、ずらし過ぎないで、えっと、
受け取る側がわかるくらいの飛躍でずらしてく。
そのへんはみんな同じなのかな。うん。 |
糸井 |
その飛躍の具合によって、
サインを出したり出さなかったり。
送り手と受け手のサインがしっくりいくと、
気持ちいいわけですよね。 |
川上 |
あ、そうか!
それで気持ちがいいのか(笑)。
『MOTHER2』がなぜ好きなのか、
ひとつ、わかった。
それがうまくいってないと、混乱したり、
ストレスになったりしますもんね。 |
糸井 |
こないだ観た映画で、
まさにそれがうまくいってなくて
イヤだったんですけど、
ラストシーンの重要なところで、
一方の男が離れて行っちゃって、
急いで追いかけて探すっていう
場面があったんですよ。
ところが、その人たちは、遊園地みたいな
閉ざされた場所にいるんですよ。
それで、「どこかへ消えてしまう」という
盛り上がりがちっとも感じられなくて
「そんなに必死に探す必要ないだろう」
と思っちゃうんですね。
それがどうにも不愉快で、困ってしまって。
|
川上 |
そういうのありますねえ(笑)。
気にかかっちゃうんですよね。
だからね、なんかそういう映画やドラマ観てて、
いちばん困っちゃうのがそれなんですね。
そのお話自体がイヤだとかそういうのよりも、
やっぱりその辻褄の合わなさ加減とか、
辻褄の合い加減とか、そのへんなんですよ。
おもしろいですよねー。 |
糸井 |
だから、川上さんの作品で、
急に妖精が出てこようが、
人間が熊になろうが──。 |
川上 |
そうなんですよ! それそれ。
よくそれ、私は言われるんです。
「変なものが突然出てくるけど
なぜか違和感がない」って。
違和感はないはずなんですよ。 |
糸井 |
ないように書いてんだもんね(笑)。 |
川上 |
そうそうそうそう! そうなんですよ。
|
糸井 |
だから、川上さんの作品に関しては、
ほんとにぼく、よくわかるんですよ。 |
川上 |
ありがとうございます(笑)。
|
(おわりです)